2006年11月25日
スクエア・トークイベント『中国映画最前線』
昨年行なったトークショー『中国映画のいま』では3世代の監督によるそれぞれの中国映画への考え方を掘り下げた東京フィルメックス。今回のトークショーには、これからの中国映画を担う若い世代の監督に語ってもらうべく、ハン・ジェ監督(『ワイルドサイドを歩け』)と、昨年に引き続き参加のイン・リャン監督を迎えた。
両監督とも北京師範大学出身の同年齢ではあるが、入学のタイミングの都合、イン・リャン監督がハン・ジエ監督の先輩にあたる。在学中は互いの存在を知らなかったが、卒業制作にあたって、初めて知り合ったという。
イン・リャン(以下、イン)
「師範大学で所属していたのは、映像方面でオールマイティに活躍できる人材を育成することを目的として設立された学科です。映画理論を学んだり、アメリカで映像を学んだ講師による授業を受けました。卒業生には、ニン・ハオ監督(第4回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した『香火』監督。他に『モンゴリアン・ピンポン』『Crazy Stone(原題)』)らがいます。
市山プログラム・ディレクター(以下、市山)
「ジャ・ジャンクー監督の世代は、映画監督になるには北京電影学院に入るしかなかったそうですが、現在は監督育成の為の教育機関があることが大変興味深いですね」
イン
「確かに、現在は恵まれた環境にあるようにも見えます。しかし、専門教育機関が数多く設けられてはいても、講師の人材不足や、学生達の意欲が低いといった問題もでてきたので、さほど楽観的な状況ではありません。私は四川にいますが、四川のような地方では、このような問題は、より深刻です」
市
「何故、師範大学から四川へ行かれたのですか?」
イン
「理由は二つあります。一つは、大都市の映像業界は大変保守的な為、新入りは中々入り込むことが出来ず、入れても、TVの方面になってしまい、映画へのこだわりが強い自分としては妥協できなかったことです。もう一つは、都会で生活してきたので、地方の現状を知り、新しい物との出会いを求めたかったからです」
市山
「イン・リャン監督の作品を拝見しまして、監督の判断は正しかったと思います。では、ハン・ジエ監督の大学卒業後の活動をお聞かせ下さい」
ハン・ジェ(以下、ハン)
「卒業後、ジャ・ジャンクー監督の『プラットホーム』を見て、ジャ監督と知り合う機会があり、助監督としての仕事を始めました。ある時、私の短編を見たジャ監督から、映画監督になることを薦められ、更に資金的援助を頂きました。彼のお陰で、映画の世界をより深く知る事ができました。映画監督を目指すために、映画制作の現場で学ぶことのできた助監督としての経験は、大変意義のあることだと思います。ちなみに、きっかけとなった短編映画は、師範大学1年の時に撮りました」
最後に両監督に対して、観客からの質問が挙がった。
「お二人が映画監督を目指した理由と、そこに到達するまでの苦労話があればお話し下さい」
ハン
「私は子供の頃、絵を描くのが大好きで、将来は画家になりたいと思っていました。ですが10代の頃、映画好きなおばが沢山の映画を観せてくれたことにより、すっかり映画にとり憑かれ、方向転換しました。しかし、家庭の事情で、コンピューターを扱う仕事に就くべく、理系の学校への進学をしました。それで夢は一時頓挫してしまったのですが、チャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』を観た後、夜も眠れない程の感銘を受け、どうしても映画の道を諦めきれず、師範大学へ入学することを決め、この世界に辿り着きました」
イン
「少年期の私は勉強嫌いのいたずらっ子でした。その為、将来も大学受験について行けるとは思いもせず、どこかの専門学校に行くものだと考えていました。何しろ、国語以外の教科は全て苦手という状態でしたので。学校を卒業した先の進路は、観光ガイドの道を選んだのですが、どうしても肌に合わず、そんな折、師範大学生徒募集の広告を見て今に至ります。とはいえ、何とか入学は出来たものの、映画映像の基礎がまったくできていなかったので、初めは授業について行くことができず落ちこぼれていました。それに比べて、先に挙げたニン・ハオ監督は優等生でした(笑)。大学では、習作として作品を撮り編集するというカリキュラムがありました。そこで、何本もの映像を撮る間に映画撮影に魅せられていきました。結果、この様に自分の道を確立したことで、まともな職に就けないのではないかと心配していた両親も安心しているようです」
同年齢ということもあってか、イン・リャン、ハン・ジエ両監督とも始終にこやかな表情で語り合った。
市山
「本日はお二人の監督、またイベントにお越し下さった皆様、大変ありがとうございました。皆様には、是非ともこの二人の監督のこれからの活躍を楽しみに応援していただきたいと思います」
市山プログラム・ディレクターの締めくくりの言葉を合図に、観客席から暖かい拍手が起こり、次代の中国映画を支えていく若き映画作家たちによるトークショーが終了した。
(取材・文:野口友紀)
投稿者 FILMeX : 2006年11月25日 14:00