2006年11月25日
スクエア・トークイベント『進化するイラン映画』
『りんご、もうひとつある?』『半月』『メン・アットワーク』『スクリーム・オブ・アント』『オフサイド』…第7回東京フィルメックスのラインナップにはイラン映画の秀作が数多く含まれています。バフマン・ゴバディ監督(『半月』)、バイラム・ファズリ監督(『りんご、もうひとつある?』)、マニ・ハギギ監督(『メン・アットワーク』)、アッバス・ガザリさん(映画プロデューサー)らイランの次世代を担う映画人が、有楽町朝日ホール11階スクエアに集結、『進化するイラン映画』をテーマにトークイベントが行われました。
市山尚三プログラム・ディレクター(以下、市山)
「今回の3人の監督はほぼ同い年で。ファズリさんは、ゴバディさんの短編ドキュメンタリー『霧のなかの人生』(※日本未公開)の撮影を担当されていたそうですね。皆さんは、イランの監督の中では若い方です。イランでの映画作りは決して簡単なものではないと思うのですが、普段どのような形態で映画を作っているのでしょうか?」
バイラム・ファズリ(以下、ファズリ)
「私は今回の映画を作るために、5年間ほかのプロジェクトの撮影をやって、お金を貯めました。国の支援などは一切受けてません。国がサポートしてくれる映画と、私たちが作る映画は少し違うので」
バフマン・ゴバディ(以下、ゴバディ)
「私も海外からも国からも支援もありません。以前作った短編が賞をとって、お金が入ってくることもありますけど、ほぼ家族に手伝ってもらって制作しています。国の支援は、サポートされている監督のほうにはけっこう行きますね。そして、年間70~80本作られる国内の商業映画は銀行でローンを組めたり、映画財団に機材を貸してもらったりしています」
マニ・ハギギ(以下、ハギギ)
「私の映画をご覧になっていればわかると思うのですが、2人が言っていたようにインディペンデント映画の資本集めはとても難しいです。私が企画を選ぶときは、お金がかからないものを選ぶようにしています。ロケは1つで、関わるスタッフは少なく、を心がけています」
市山
「さて、ここでガザリさんをご紹介したいと思います。ガザリさんはゴバディ監督の『亀も空を飛ぶ(04)』や『半月』のプロデューサーで、元々作家で、クルド人として初のプロデューサーです」
アッバス・ガザリ
「長年、イラクのクルド人として闘ってきましたが、それは伝えることの自由を得るためです。アートは呼吸と同じ、と私たちは考えているのですが、なかなかそれを伝える術がなかった。そこで、カメラを使って、私たちクルド人の情報や気持ちや文化を、外に向けて紹介することにしました。私たちクルド人は現在4つの国に分かれていますが、文化には国境がないと思っています」
市山
「非常に興味深いお話です。今のところ、クルド映画というとゴバディ監督が代表というような感じですけど、これから色々なものが出てきそうで楽しみです。さて、ここでイランでの映画制作に話を戻します。3監督の作品は、イランではどのように上映されているのでしょうか?『半月』はまだ許可が下りていないと聞きました」
ファズリ
「私たちの映画は、海外の映画祭などで賞を頂き、大変誇りに思っております。扱っているテーマに問題があるので、いくつかのシーンを削れば国内でも上映できるのかもしれませんが、一生懸命撮った作品を削りたくないので、いつも検閲課とけんかしています。今のイランの現状では、私たちの映画の上映は難しいですが、まず自分の国の人に見てもらいたいと考えているので、公開できるようにがんばりたいと思います」
ゴバディ
「『酔っ払った馬の時間(00)』も『亀も空を飛ぶ』も1つの小屋(映画館)しか与えてもらえず、お客さんが入ってるにも関わらず、大きな戦争映画に差し替えられてしまったこともあります。私の映画がなかなか国内で公開させてもらえない理由を教えてはもらえないのですが、おそらく私がクルド人だからではないか、と考えています。『半月』も10分くらい切らなきゃいけないかもしれません」
ハギギ
「私は検閲のことや制作の大変さを、あまり話したくありません。もちろん、検閲に反対の心は持っています。しかし、私たちは大変な状況の中で映画を作るからこそ、そこからエネルギーが生まれるんじゃないかなと思います。敵と闘うには、まず自分の心が強くないといけませんから。ですから、これからも自分の映画が公開されるように頑張っていきたいです」
ゴバディ
「私もマニと同じように闘っています。私は、まず自分の映画の感覚を国民に見てもらいたいし、クルド人の状況をイラン国民に知ってもらいたい。クルドもイランの1つの州だということを忘れないでほしいのです。だから、これからも声を上げ続けていきたいと思っています」
ハギギ
「バフマンはイランのサムライです(笑)」
ファズリ
「公開のためには当然宣伝が必要ですが、私たちの作品は、商業映画と違って、テレビが予告編を流してくれません。こういう映画があると知ってもらうこと自体が難しい状況です」
市山
「それでは、ここで質問を受け付けます」
Q
「もしも国策映画のようなものを作ってくれと言われたら、どうしますか?」
ハギギ
「私たちは他の職業を持った人と変わりません。企画がおもしろければ撮りたいと思います」
ゴバディ
「国内でも国外でも、自分が信じられるものなら作りますが、自分が信じていないものは作りたくありません」
ファズリ
「私は撮影監督ですから、これからまた5~10年働いてお金を貯めていけば、国の企画ではなく、自分の作りたい映画が作れるのではないかと思っています」
会場には多くのイラン映画ファンが集まり、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。イランでの映画制作の現状、4人の映画制作に対する熱い思いを存分に知ることができたトークイベントでした。これからも進化していくであろう、次世代イラン映画から目がはなせません。
(取材・文 今坂千尋)
投稿者 FILMeX : 2006年11月25日 17:00