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2006年11月19日

『叫(さけび)』Q&A

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東京芸術大学大学院教授、『CURE』『回路』など自作をノべライズする小説家など多彩な顔を持ち、ヨーロッパでは<アキラではない、もう一人のクロサワ>として名高い、黒沢清監督の最新作は、第63回べネチア国際映画祭特別招待作品として出品された『叫(さけび)』である。今回の東京フィルメックスでも特別招待作品として上映された。上映終了後に設けられたQ&Aの模様をお伝えする。

黒沢清監督の映像世界から現実に引き戻す様に客電が点った場内では、本編終了の余韻冷めやらぬ観客達と真摯に向き合う監督との質疑応答が催された。

Q:舞台の要となる「湾岸」というモチーフについて。長期暖めていたものか、あるいは短期間で浮かんだもの?
A:元は海だった埋立地が、災害等で再び海に戻るという現象はいつか使えるのではないかと思っていた。一方で3年程前にプロデューサー(一瀬隆重氏)から「ホラーにこだわらない幽霊が出る映画」という発案を得た。見たこともない幽霊について考えた際、幽霊が元々は人間だった事を思い、過去に海だった埋立地と過去に人間だった幽霊との接点に思い至り、今作品に結びついた。

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Q:<ジャンル>への考え方について。以前「ジャンル映画を撮らない」宣言があったが、宣言以降の作品が「近未来」「ホラー」ジャンルに分類出来る。心境の変化でも?
A:現在は「ジャパニーズホラー」が確立されているが、(宣言)当時はその様な<ジャンル>がなく、この位置づけは想像だにしないものであった。同時に、海外の映画祭では「日本映画」広く言えば「アジア映画」と捉えられる実情があり、<ジャンル>という枠にこだわらなくなったという気持ちが生まれた。

Q:常に感服させられる黒沢監督のロケーションについて。ロケ地ありきなのか、撮影段階で探すのか?探すとしたら、そのコツは?
A:概ね脚本の段階ではロケーションは未定。ロケ地探しは必ず苦労するが、ある日「何故か」「突然」見つかる。それは撮影に携わる全ての人間の努力の集結であると共に、撮影の開始を強く意識出来る瞬間である。ロケ地への着眼は、全スタッフの労が認められた結果なので、(この質問を)大変嬉しく思う。

Q:今作品の背景について。<ホラー>単体としても楽しめるが、都市開発等の社会問題の様相も呈している。その意図は?
A:社会問題を映画にも取り入れていくべきだと考える様になった。21世紀に入り、それは強く意識し始めた。自身の信じた21世紀と現実との違和感が、日々の疑問となり作品に反映される。(完成作品によって)結論は出ていないが、その違和感や疑問等を、観客の皆さんと共有したいと思っている。

途中、挙手した方を林ディレクターが、作品の核ともなる「赤い服の女性」と表現した場面や、一つ一つの質問に丁寧に応じながらも洒脱な表現を操る監督の言葉に会場は沸上がり、時間の短さが惜しまれながらQ&Aが幕を閉じた。
『叫』は2007年春、シネセゾン渋谷、新宿武蔵野館他にて全国ロードショーされる。

(取材・文:野口友紀)

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投稿者 FILMeX : 2006年11月19日 18:00


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