2006年11月25日
『半月』Q&A
前作『亀も空を飛ぶ』で第5回東京フィルメックス審査員特別賞とアニエスベー観客賞を受賞したバフマン・ゴバディ監督の新作『半月』は、イラクでのコンサートを目指すクルド人ミュージシャンたちを描いたロードムービー。今年9月にスペインで開かれたサンセバスチャン映画祭ではグランプリなど3つの賞を受賞している。おなじみの笑顔で登壇したバフマン・ゴバディ監督は「東京フィルメックスでは皆さんとても親しく受け入れて下さるので、本当に自分の家にいるような気がします」と挨拶した。
Q
「映画で使う風景や場所はどうやって選んでいるのでしょうか」
ゴバディ監督(以下、ゴバディ)
「もちろん撮影場所は自分で苦労して探してはいますが、カメラをどこに置いてもすばらしい景色がとれるのではないかと思うくらい、映画の舞台となった地域は美しい場所です。現在、地球上では年間5000本もの映画が作られているので、なるべく特別なものを作らなければならないと思っています。ユニークな映画を撮るため、ロケーションとキャスティングにはこだわっています」
Q
「作品を追うごとにリアリズムから神話的なものへの振り幅が拡大しているように思うのですが、どのような意図があるのでしょうか」
ゴバディ
「自分の人生に向ける目線は毎年のように変わっていると思います。おっしゃる通り、いま私が見ている人生は神話的な方へ近づいています。『亀も空を飛ぶ』で少しずつリアリズムの世界から、(自分では魔法の世界と呼んでいるのですが)神話・寓話の世界へと近づいたように感じています。というのも、私の生まれ育ったクルディスタンには寓話がたくさん存在しているからです。『半月』で埋葬しようとした死体が動くシーンがありますが、これは実際に父親から聞いた話です。現在のクルディスタンでは、厳しい自然の中で生活しながらも、インターネットで様々な情報を手に入れています。クルド人は常に何かしらの差別を受けながら貧しい生活を送ってきましたが、全世界の人々と同じように情報を手に入れ、先進国と肩を並べたいと思っているんです」
Q
「クルド人には表現者が多い気がしますが、クルドの伝統や文化において、自分の考えを伝えることは日常的に行われているのでしょうか」
ゴバディ
「現在のクルディスタンはとても厳しい状況なので、そこで生活することは一つのアートだと思います。ですから、全てのクルド人がアーティストなんです。クルディスタンはイラン、シリア、トルコ、イラクという4つの国に支配されていますが、映画の舞台となったのは最も貧しい地域で、中央政府からの文化的な援助は何もありません。その中でクルド人が自分たちの文化を高めるためには、自分自身から湧いてくるものに頼るしかないのです。ただし、最近はイラク領のクルディスタンで様々なクルド人が活躍しており、地域を支配している政府が文化的な支援をたくさん行っています。私たちが日本のような映画館を手に入れるのは100年先になるかもしれませんが、少しずつクルディスタン中から画家や音楽家や写真家が集まってきています」
Q
「『半月』に出てくる、女性歌手がたくさん集まっている村は実在するのですか、それとも監督の考えを具体化したものなのでしょうか」
ゴバディ
「実際にイランではソロで女性が歌うことは禁じられています。あの村はイランなのですが、女性歌手はイランでは歌うことができません。カラフルで美しい色の服を着た女性たちを撮りましたが、女性が歌えないという現実に対する私のイメージはもっと暗いものです」
最後にゴバディ監督が『亀も空を飛ぶ』を作る際に助けてもらったという、クルド人プロデューサーのアッバス・ガザリさんを紹介し、会場から盛大な拍手がおくられた。
(取材・文:須田美音)
投稿者 FILMeX : 2006年11月25日 16:00