2006年11月23日
『天国へ行くにはまず死すべし』Q&A
『右肩の天使』で第3回東京フィルメックス審査員特別賞を獲得したジャムシェド・ウスモノフの新作『天国へ行くにはまず死すべし』。上映後のQ&Aでは、前作でも撮影を担当した撮影監督のパスカル・ラグリッフルが登壇。脚本執筆中のため来日できなかった監督に代わって、来場した観客に感謝を述べた。
第1回の『蜂の飛行』『井戸』、第3回の『右肩の天使』に続き、ウスモノフ作品の東京フィルメックスでの上映は4作目となる。これまでの作品では自らのルーツであるタジキスタンの農村を舞台にしてきたが、今回は都市の物語。
「この作品の舞台であるホジェントはタジキスタン北部の中心都市で、『右肩の天使』の舞台となったジャムシェドの故郷の村の一番近くにある大きな町です。彼はおそらく、これまでのように伝統的なものではなく、現在を描く作家を目指しているのだと思います。やはり村を舞台にした企画があったのですが、それよりもこの作品を新作として撮ることにしたのです。自分の生まれ育った故郷の村を離れて、どこか違う場所に移ろうとしている。その通過地点が、今回のホジェントであるのかもしれません」
主人公カマルが恋する人妻ヴェラを演じたのは、ヴィターリー・カネフスキー監督の『動くな、死ね、蘇れ!』『ひとりで生きる』などで知られるロシア出身でフランス国籍を持つ女優ディナラ・ドロカロヴァ。彼女のファンだという観客から、撮影監督から見たドロカロヴァの魅力を聞く声が挙がった。
「他の出演者たちは本職の俳優ではなかったので、彼らに比べて彼女を撮影するのは非常に楽でした。というのはカメラとの距離や、位置の取り方がとてもこなれていてすばらしかったからです。また、アマチュアである他の出演者たちとの絡みがとても上手く、頭のいい女優だという印象を持ちました。彼女を起用したのは、もちろん良い役者であるということが一番の理由ですが、もうひとついささか現実的な理由がありました。この作品にはフランスから資金が提供されているのですが、そのためにはフランス人のスタッフや俳優を使う必要があったのです」
「カマルはジャムシェドの甥、ヴェラの夫は弟のマルフ・プロソダが演じました。前作でも監督の弟、母親、おじなどが出演しています。彼らは演技こそアマチュアですが、このように身近な人々を起用することは、彼にとって大切なことでした。撮影の際に俳優たちとの間に有機的なつながりを持つことを、非常に重要視していたのです」
「普段はカメラの後ろにいる私にとって、このような表の場に出るのは試練です(笑)」と緊張気味の様子だったラグリッフル撮影監督だが、キャメラマンならではの視点で語られる言葉に、会場を埋めた観客は注意深く耳を傾けていた。
(取材・文:花房佳代)
投稿者 FILMeX : 2006年11月23日 14:00