第8回東京フィルメックス総括
みなさまのご支援、ご協力を持ちまして、第8回東京フィルメックスは、11月17日から25日の9日間に亘る会期を無事に終了致しました。重ねてお礼申し上げます。集計としては動員総数が18,627人となり、前年に比べて15%増を記録しました。映画への熱い期待を持ったお客様に集まっていただける、よい雰囲気の中での上映を重ねることが出来ました。

今年の観客動員の傾向としては、アンケート調査や集計から振り返りますと、初めてご来場した方や当日券の売り上げも多く、ご招待券を活用していただいた方よりも、意識を持ってご来場くださった方が如実に増えていました。これは質疑応答の際にも明らかでしたが、上映後にもほとんどのお客様はそのままお席に残って熱心に監督からの話を聞いてくださっていました。加えてご質問の鋭さと深さ。
監督たちは充実したやりとりに大変お喜びで、観客のみなさまから次回作への活力をもらえたと口々にご満足をいただいていました。

「映画の未来へ」というコンセプトに沿って、今回初めて学生割引を導入してみましたが、実際大いにご活用いただき、これまでよりも若い観客が会場に多く見受けられました。既にシネフィルのみなさまはもちろん、これからのシネフィルにも幅広く東京フィルメックスのプログラムをご紹介して行きたいという切望が届いた実感を胸にしております。 初日に東京国際フォーラムホールCで欲張って決行しました2回の上映が大いに賑わい、東京国立近代美術館フィルムセンターでの上映も243人増、座席指定を今年初めて導入したシネカノン有楽町1丁目でのレイトショーは29人増、メイン会場の有楽町朝日ホールでも週末を中心に増加が見られました。昨年に引き続きの4会場すべてにおいて、前年を上回る動員を記録した事になります。また、2日間追加上映として新しく会場に加わったアテネ・フランセ文化センターでのリッティク・ゴトク特集でも、映画祭の熱気を持ち越した若いお客様で賑わい、大変な盛況となりました。

映画上映のみならず、今年はトークイベントにも力を尽くしました。有楽町朝日ホールスクエアBでの、上映の幕間に組み込んだトークイベントもさることながら、MARUNOUCHI CAFE で連日「それぞれのシネマ」と題して文学、音楽、美術、など幅広い文化のオピニオンリーダーにトークをお願いし、温かな雰囲気の中で映画の楽しみ方を紐解いていただけるきっかけ作りを演出できました。映画教育や映画祭の可能性なども含めて活発なトークイベントに熱心にご参加くださったみなさまにも深く感謝申し上げます。

広報面では審査委員長のイ・チャンドン監督はもちろん、ジェイシー・チェン、ハナ・マフマルバフ、アンジェラ・マオといったマスコミの注目度の高いゲストへの取材申し込みが多く、テレビ地上波からのリクエストが激増しました。開催前の動きよりも期間中に取材が急増したのは、作品をご覧になったプレスの心を動かした模様です。やはり映画祭の命は質の高いプログラムです。よい映画を応援すべく開催している東京フィルメックスですが、現実には良い映画に支えていただいていることを実感する日々となりました。

受賞結果としては、最優秀作品賞にイスラエルの「テヒリーム」(ラファエル・ナジャリ監督)、審査員特賞"コダック VISION アワード"には香港の「アイ・イン・ザ・スカイ(原題)」(ヤウ・ナイホイ監督)が決まり、イ・チャンドン委員長を初めとする審査員の方からもコンペ部門の質の高さについて言及いただきました。「映画の未来へ」を合言葉に10本のコンペ作品を上映しましたが、イ・チャンドン監督からも「どれも非常に完成度が高く、映画の『品格』というものを強く感じた。このような作品を選んだ東京フィルメックスの妥協を知らないその精神に感謝する」との総評をいただけ、身の引き締まる思いでございます。

アニエスベー・アワードは結果としては「Exiled 放・逐(原題)」に決まりましたが、今年は全体的に高得点の作品が多く、「接吻」「アイ・イン・ザ・スカイ」「ドラマー」「それぞれのシネマ」などなどが高い得点で競っていて、如実に観客のみなさまの満足度が伺えたのは嬉しい限りです。


山本薩夫特集上映
東京国立近代美術館フィルムセンターとの共催事業として、海外からも期待が高まっている特集上映は、通常のフィルムセンターの上映よりも若い観客が増え、毎回多くの観客による賑わいを見せました。また業界関係者以外の東京在住の外国人の姿も目立ちました。日本映画を英語字幕付きで、加えてフィルムセンター大ホールというよい環境で見られる機会を活用していただけたかと喜んでおります。この山本薩夫特集の海外展開については現在調整中でございますが、大いに手ごたえを感じております。

リッティク・ゴトク特集上映
国際交流基金との共催事業として、かねてからの念願だったこの伝説的な巨匠の上映が実現できました。開催期間中には有楽町朝日ホールで3本をそれぞれ1回ずつとシネカノン有楽町1丁目で1本をレイトショー上映、会期後にもアテネ・フランセ文化センターで2日間に亘って上映し、これら4作品が日本初上映となったことへの高い関心と良い評価をいただきました。スクエアBで開催したシンポジウムも盛況で、興味の深さが伺われました。

『New Cinema from Japan Screenings / 日本映画新作試写会&DVDライブラリー』
これは東京フィルメックスのために来日する海外の映画関係者(バイヤー、映画祭プログラマーなど)、また外国のプレスのみを対象にした限定プログラムで、カンヌ、ベルリン、プサン、台北、チョンジュ、ヘルシンキ映画祭などの映画祭関係者が集まりました。東京フィルメックスのラインナップとは別に力ある日本映画の最新作を、ユニジャパン(財団法人日本映像国際振興協会)との共催で、英語字幕付きで紹介する試みで今年で5回目を数えます。4日間に亘った会期中、10作品のDVD試写が行われ、DVDブースには51本がストックされ、65回視聴されました。
特に今年は、ヴァラエティ・ジャパンがランチのご提供をしてくださり、上映だけでなく交流の場も作られ、恒例となった企画がより充実しました。活用者も激増し例年を上回る注目を集めて、来年の国際映画祭への足がかりの場としての大役を果たせたかと存じます。既に来年の国際映画祭で上映希望やご招待状が各プロダクションに届いているという朗報を耳にしております。

関連企画
1.日韓学生共同制作映画上映および日韓交流シンポジウム「アジア映画の未来」
東京藝術大学創立120周年記念企画として国際フォーラムホールDにて上映会とシンポジウムが開催されました。
2.六本木シネマートでのアンジェラ・マオ特集上映
「アンジェラ・マオ 女活殺拳」のデジタルリマスター版での上映に合わせて、引退後久しく姿を見せていらっしゃらなかったアンジェラ・マオさんがニューヨークからご来日くださり、トークイベントと上映前の舞台挨拶をしてくださいました。キングレコードが12月1日からこの上映と連動してアンジェラ・マオ特集上映を開催されます。

ボランティア100名の尽力
ホスピタリティーでは英語のみならず特殊言語能力を有するスタッフが映画祭では必要です。運営周りも含めて、ゲストや観客へのおもてなしの心を大事にしてくださる100人のボランティアスタッフが集結し、会場のあたたかな雰囲気作り、仮設事務局でのゲストケア、空港送迎、プリント運搬、カタログ販売など、細やかな気配りの溢れる方々に大いに助けていただきました。トレーニングには2ヶ月を掛けていますが中には毎年続けてくださる方も何人もいらして、大いに助かりました。ちなみに第2回東京フィルメックスでは40人だった事を思い起こすと、笑顔で対応してくださった100人のみなさまには感謝の言葉も見つからないほどに感無量です。

公式記録、デイリーニュース
Q&Aの模様を速やかに公式サイトのデイリーニュースにまとめてアップし、臨場感溢れる質疑応答の様子をいち早くご報告できる体制が確立できました。また、昨年に引き続き慶応大学DMC機構のご協力を得て、動画配信+ポッド・キャスティングが成就しました。期間中の記録班の活躍と迅速な編集作業によって、動画配信も速報性を持ってお楽しみいただきました。


ゲストをお見送りの際に「良い作品を作り続けてください」とお願いしましたら、「フィルメックスも続けてくださいね」と返答を受けました。一般の観客のみなさまからも笑顔と共に温かな反応を頂戴し、重ねて感謝申し上げます。これらのうれしい声を励みに、また来年以降も精進していく所存でございます。

どうぞみなさま、引き続きの力強いご支援、ご協力をいただけますよう、お礼とご報告と共に、重ねてお願い申し上げます。

林 加奈子
東京フィルメックス映画祭ディレクター


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