11月24日(金)、TOHOシネマズ日劇にて、『殺人者マルリナ』が上映された。西部劇の舞台を彷彿とさせるスンバ島の風景の中、驚きに満ちた物語が展開する。カンヌ映画祭監督週間でワールド・プレミアを飾った。上映後のQ&Aにはモーリー・スルヤ監督が登壇した。
はじめに、市山尚三東京フィルメックス・プログラムディレクターが本作の企画の経緯を尋ねた。モーリー監督は「インドネシアで著名な映画作家であるガリン・ヌグロホ監督から、君が監督したらいいんじゃないか、と本作の素になる原案「Woman」を渡されたことがきっかけ」とその経緯を語った。
続いて、観客から原作からの変更箇所を訊かれると「あらすじや主な登場人物は変えていない。映画で章立てのスタイルをとったが、原作も違った形で章立てされていた」と応じた。
本作に登場する印象的な歌について質問が及ぶと「歌われていたのはスンバ島の地元の歌。インドネシア語ではないので、私自身も意味は分からなかったが、響きが気に入って採用した。字幕翻訳をつけたかったが、スンバ島にも正確に翻訳できる人がいなかったので断念した」と明かした。
「これまでのインドネシア映画とは全く違った風景を切り取っていて驚いた」という観客のカメラマンから、撮影イメージについて訊かれると、モーリー監督は「本作では、これまでの自作とは違うスタイルで挑戦したいと思った」と応じた。また、「信頼関係があったカメラマンのユヌス・バソランに、アジア映画だが西部劇のスタイルでやりたいと意向を伝えた。その際、バロック調の絵画や、聖書の逸話、日本の時代劇も参考にした。また事前に、動きのあるカメラワークは使わないように話し合った」と本作のスタイルを築き上げた経緯を明かした。
次に観客から、「主人公の夫のミイラが部屋に置かれていた意図は何だったのか」との質問が挙がった。モーリー監督は「ミイラは美術ではなく、私の友人が演じている。彼はじっとするのが得意な脚本家だが、さすがに撮影中、何時間も静止するのは大変つらかったらしく、後に恨みを買った」と笑いを誘った。なぜミイラを登場させたかについては「スンバ島は実際に死体をミイラ化させる風習があり、村じゅうお祭りのような形で、葬式が行われる。ある家庭では、死体を棺に入れて30年間家に置いていた」と語った。
続いて、主人公のあとをついてくる首なし男について話が及んだ。モーリー監督は「首なし男が幽霊かと問われたら、答えはNO」とコメントし、「人生において人が大きな決断をすると、それはその後の人生に必ず残る。決して消えて無くなってはくれないということを視覚化した」と明かした。
モーリー監督は2010年に東京フィルメックスのアジアの若手映画人材育成プロジェクト「ネクスト・マスターズ」(「タレンツ・トーキョー」の前身)に参加している。市山PDから「こんな素晴らしい作品を持って、フィルメックスに帰ってきてくれたことに大変感謝している」とモーリー監督に感謝の意を伝えると、会場は大きな拍手に包まれた。
(取材・文 高橋直也、撮影:明田川志保)