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2007年11月18日 11/18 『撤退』Q&A

IMGP2557.jpg 11月18日、有楽町朝日ホールで、アモス・ギタイ監督の最新作『撤退』が上映された。監督自身の来日は叶わなかったが、サンパウロからビデオメッセージが届けられるという嬉しいプレゼントが。上映後、脚本を担当したマリー=ジョゼ・サンセルムさんが登壇し、熱心なファンからの質問に答えた。

 満席となった会場では、上映に先駆けて監督のビデオメッセージが流された。
「『撤退』は、2005年にイスラエルがガザ地区から撤退したことから着想した作品です。また、今作は(『プロミスト・ランド』(第5回東京フィルメックスで上映)『フリーゾーン』(第7回東京フィルメックスで上映)に続く)国境についての三部作の3作目です。我々はこの“国境”というものについてひどくこだわっているし、特に中東ではその国境に地雷が埋められ、人々がそこを越えられないようにしています。だから、人々は国境の向こう側の他者が、自分たちと全く異なった人間だと思い込んでしまい、憎しみが生まれる。こういうところでこそ映画が役に立てるのです。映画は、他者が自分たちとほとんど変わらない人間であることを見せることができます。こういう接触を持たなければ、お互いを理解できない相手と考え、だから戦争すればいいという処に辿り着いてしまう。もちろん、映画が政治を変える直接的な手段としてはあまり効果的ではありません。しかし、映画はこうした戦争に巻き込まれた人たちの悩みや苦しみを見せることで、人間には色々な選択肢があることを示しています」
 メッセージの最後に監督は、今回来日できなかったのは非常に残念であり、次回はぜひ参加したいと述べて締めくくった。

 その後サンセルムさんからも簡単な作品解説があった。
「今日は大勢の皆さんにお集まりいただき、とても光栄です。今作のアモスのインスピレーションの源も、彼の属している社会。2年前のイスラエルのガザ地区からの撤退は、パレスチナとの和平交渉の末のものではなく、イスラエル側の一方的な判断で、ガザ地区にあったイスラエル側の入植地を撤去するというものでした。入植者たちは25年ほど前に政府の勧めでガザ地区に移ってきた人たちですが、突然の政府の判断で、何の交渉の余地もなく、撤退させられた。ちょうどその時兵役でガザにいたアモスの息子から「大変なことが起こっているから見に来るべき」と知らされたのです。そこでアモスが体験したことが映画の中に反映されています」


IMGP2561.jpg 115分の上映が終了すると、再びサンセルムさんと市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターを迎え、Q&Aが行われた。ファンから熱のこもった質問が寄せられ、その関心の高さをうかがわせた。

 まずは、劇中で使用されたマーラーの“大地の歌「別れ」”についての質問から。
「この曲は最初からアモスが使いたいと言っており、早い段階でバーバラ・ヘンドリックスに依頼することに決定していました。彼女のアフリカ的存在感が、制作側の雰囲気を表しています。彼女は最初、映画初出演と聞いて大変喜びしていたのですが、すぐにガッカリしてしまった。そう、台詞がないからです 笑」

 また、「監督自身が劇中で“キプールの記憶”について語っていますね」という問いに対して、マリーさんは「素晴らしい質問」と絶賛し、「(監督は今までにも何回か自作に出演しているが)今回の出演の仕方は今までとは異なっています。主人公のアンナをヨーロッパといういわば“死んだ社会”から、ガザという、混乱しているものの“生きている社会”へ導く重要な役。作り手である彼の出演が、物語に象徴的な効果をもたらしています」

 次に、「なぜ、撤退する人たちの中で、熱心なユダヤ教徒に注目したのか?」という質問には、「ガザの入植者のほとんどが熱心なユダヤ教徒」と説明し、「現在イスラエルが占領しているパレスチナ領は約40ヶ所あり、ガザには約8千人が暮らしていた。点在する入植地の維持は軍にとって大変な負担であることから、2005年の撤退に繋がったのです」と入植者を取り巻く環境を解説してくれた。
「和平派にとってイスラエルがガザから手を引くのは本来良いことのはずだが、家を破壊し無理矢理追い出したことは、イスラエル社会のトラウマになっている」という。「必ずしも私たちが入植者たちの味方であるとは思いません。しかし、彼らがひどい目にあったのは事実です。自分とは違う立場であっても、人間は人間。排除することが正しいとは思わない」と力強く語った。

 そして、「どうして主人公はイスラエルに娘を置いていかなければならなかったのか」という質問。実は、娘との再会という設定は最後に決まり、主人公がガザに行くためのより強い理由付けのためだったそう。「最初は、自分が産んだ子どものことを主人公が全く気にしていないなんて信じられないと思いましたが、主人公自身が、気にしていないと思い込んでいるんです。当初は、若すぎたから子どもを捨てた、と発言しているシーンがあったんですが、カットしました」

 そして最後に、母娘の再会シーンのカットについての質問。「このシーンは実は2回撮影しています。1回目は素晴らしく美しいシーンで皆感動していたけれど、アモスが「もっとシンプルにすべきだ」と言ったの。彼は常に自分自身に対して批評的でいられる、そこが強みだと思う」と語った。

 平和な日本にいては分かりづらい中東の状況を丁寧に伝え、熱心な質問に真摯に答えるサンセルムさんの姿が印象的なQ&Aだった。『撤退』は19日にも上映、Q&Aも予定されている。


(文・取材:今坂 千尋)

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投稿者 FILMeX : 2007年11月18日 20:00



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