11月19日有楽町朝日ホールにて、「リッティク・ゴトク監督特集~インドの伝説的巨匠」のスタートを飾る『黄金の河』が上映された。上映に先立ち、ゴトク監督のご子息である映画監督のリトバン・ゴトクさんに亡き父上の思い出を語っていただいた。ゴトク監督の最後の長編劇映画となった『理屈、論争と物語』では父子で共演。脚本執筆当時はまだ8歳だったというリトバンさんに、この作品は鮮烈な印象を残したという。
「クランクインの時のことを今でもよく覚えています。撮影場所となったのは、私たちが1969年まで住んでいたバオワニプールの家。現場にたくさんの人がいたので私はとても緊張してしまい、父に「チョコレートをくれないと演技ができない!」と言って駄々をこねたのです(笑)。父が窓のそばに腰を下ろして「すべては燃えている。宇宙も、そして私も燃えているのだ」というセリフを言った時のことも記憶に残っています。そのセリフの後、窓がクロースアップで映し出され、そこで1匹のクモが巣をつむぐのです。そのシーンには会話も、音楽も、そして効果音さえありませんでした」
また、監督の映画作りにかける情熱とこだわりが垣間見られるこんなエピソードも。
「編集の時には、あるシーンで10コマだけ切り取るのに7日間もかけていました。猿が金切り声を出した後に、父が「かぐわしきものをこの手に持っている。飲んでみるか?」と言うシーンです。よほど特別なシーンだったのでしょう。父に「コマを減らしたらいいんじゃない?」と言うと、即座にピシャリと平手打ちを受けてしまいました。父から叩かれたのは、後にも先にもその時だけです」
ゴトク監督の出身地であるベンガル地方を描いた『理屈、論争と物語』は自伝的な作品と見られているが、リトバンさんは自伝的な要素以上のものが含まれていると語る。
「父は個人的な解釈を超えて、当時のベンガル地方の人々の状況を見せるために、旅に出たのだと思います」
最後に『黄金の河』について一言。
「第二次大戦後、世界中の人々が難民のようになっていました。しかし、そのような状況にあっても、次の世代の人々にはどうにかして希望を託さなければなりません。どこにも真実がないのなら嘘をつくのです。もちろん嘘と言っても、その嘘は神聖なものでなければなりません」
今後は11月20日に『非機械的』、25日に『理屈、論争と物語』を上映予定。ゴトク監督特集は11月26日から27日にアテネ・フランセ文化センター(御茶ノ水)でも開催される。
(取材・文:今井祥子)
投稿者 FILMeX : 2007年11月19日 17:00