11月19日、MARUNOUCHI CAFEで行われたトークサロン。小山登美夫さん (小山登美夫ギャラリー代表取締役) をゲストにお迎えして、<アートと映画>の幸福な関係、<映画のなかのアート>についてお話をうかがった。林 加奈子東京フィルメックスディレクターの幼稚園、小学校の同級生でもある小山登美夫さんだが、和やかな雰囲気の中にも鋭い視点と経験に裏打ちされた持論が飛び出した。
まず林ディレクターの質問を受け、小山さんからギャラリーの仕事について説明された。
「絵、彫刻とか写真とか、そういったものを売るというのが基本です。作品を選んで、年間に8~9本の展覧会をやって日本や海外のお客さんに売ります。そういう形で作品を売ることによって、アーティストにもお金がいくし、僕らも給料を得る、という職業なんですね。僕らは、バーゼル、ロンドン、ロサンゼルスといったところでアートフェアに参加し、いろいろな作家の作品を売りますが、それだけでなくいろいろな形でそのアーティストの重要性を知ってもらうのも仕事です」
「ギャラリーで展示をする作家たち、作り手はどうやって選ぶんですか?」(林)
「目が基本です。奈良美智さんや村上隆さんは15年くらい前からの知り合いで、自分がギャラリーをオープンする時に作品を出してもらいました。アーテイストから紹介してもらうことも多いです。僕のテイスト、性格を分かっていますし、美術界の現状をふまえながら、こういうアーティストがいいんじゃないかと言ってくれる人もいます。作家と会って、その人の考えていること、なぜ美術をやっているのか、どうやって作品を作ろうと思っているのか、自分の美術がどの位置にいるのがふさわしいのかを、理論的というよりは動物的に分かっている人たちがいると思うんですよね。それを理解して、一緒に仕事をしてがんばりましょうか、という感じなんです」(小山)
小山さんは、写真家の蜷川実花監督の『さくらん』(第57回ベルリン国際映画祭で上映)に出演している。
「ベルリンでの上映にあわせて、登美夫ちゃんがギャラリーで蜷川さんの展覧会をなさったんですよね。あれはどんな形で?」(林)
「知り合いに聞いてみたらいいところが開いていて。フランスのコレットというギャラリーで蜷川さんの展覧会をやったんで、同時にやろうっていうことでベルリンにも大量に送ったの。蜷川さんも『映画監督もやったけど、本来私は写真家だから、展覧会もやりたい』って言うわけですよ。うまい具合にね、できたんですよ」(小山)
ベルリン映画祭は観客動員40万人という大規模な映画祭で、映画業界を主な対象としたカンヌ国際映画祭とは異なり、一般の人に開かれているという事実を林ディレクターが指摘する。だからこそ、蜷川さんの写真展が開催されると、それを見た一般の人も映画を見に行く、という流れが成り立つという。
「映画祭とアートフェアはどういう風に違うんでしょうか」(林)
「映画祭には監督が来ますよね。アートフェアはアーティストは来なくて作品そのものを販売する場所です。バーゼルのアートフェアでは、200のギャラリーが出るんだけど、10倍くらいのギャラリーが申請して、プログラムの内容とか、地域によっても選ばれるんです。アジア地域は韓国で一つかな、中国本土からは一つか二つくらい。ヨーロッパのギャラリーが多いです。東京でもアートフェアやっていますが、あまり大きくない。アジアではまだレベルには達していないです」(小山)
「今回、ジャ・ジャンクー監督の、『東(Dong)』をご覧になった人もいらっしゃるかもしれない。劉小東さんという画家を撮っているドキュメンタリーです。労働者の半分裸でいる人たちをすごくダイナミックに描いていて、中国の現代アートではかなり有名な人だと思うんですが」(林)
「オークションではよく出てくる人です。描き方自体はすごく面白い。中央美術学院を出ている40歳くらいの若い人で、現代美術をわりとリアルにとらえています。中国では、オークション会社を通して国内の人じゃなくて、欧米各国のコレクターが買っていく。そういう状況で、どういう形で自分たちの国の生活というものをあらわしていくのかという問題はあるでしょうね」(小山)
「『東』は24日にも有楽町朝日ホールで上映しますので、気になった方は見にきてください」(林)
「絵は基本的には制作コストはかからないし、映画とはぜんぜん違うスタンスだと思う。映画は映画監督が一人でつくるわけじゃなくて、いろいろな人が関わってくるし、プロデューサーの力は重要ですね。絵はたった一人で自分の表現したいことができるメディアです。それが高い値段で売り買いされて、アメリカの美術館が買ったりしている。それも歴史の中に残っちゃう」(小山)
「映画も、映画史というなかで本当にいいものをちゃんと紹介していきたい、見ておいてほしいというのをやっていくわけでしょ。価格と価値、何をもって成功とするかということを考えると、監督が伝えたいものが観た人にどれだけ深くつきささるかというところに映画の価値はあると、個人的には思う。ビジネスとしてはどうなんでしょう」(林)
「プロモーションをうまくやりながら、最低限暮らしていけるだけの売買をしないとアーティストは制作できない。それは考えていかなくちゃいけないんです」(小山)
さらに映画の中の美術について話題が及んだ。
「映画って基本的には動いている写真じゃないですか。ゴダールとかタルコフスキーは美術をやっている人のなかでは人気があったりすると思うんだけど。日本の映画では、山本薩夫が金持ちの家族を描く時に本棚に平凡社の百科事典があったり、そういうところにリアリティがありますよね。登場人物のリアリティを、美術によってどのように描くかということはすごく大事」(小山)
「溝口健二は本当に本当のものしか置かない。複製品は絶対嫌といって」(林)
小山さんが大島渚や小林正樹らATG(日本アート・シアター・ギルド)の監督たちの美術を担当した戸田重昌の美術セットが面白いと話すと、林ディレクターが「ATGは1千万円映画といって、制作費が限られた状況で工夫が広がっていったんですよね」と応じた。
「葛井欣士郎(ATGのプロデューサー)のアートシアター新宿文化には、喫茶店とかあってパフォーマンスもやっていた。60年代は美術の動きがローカルなところで起きていたんですよね。そういったものがどこかでできれば面白いなと思ったりする」(小山)
「(美術と映画が)横につながっているようなイメージが成り立ったら面白いと思いますね。違う角度から映画監督のことが分かったり。そういうクロスカルチャーというのはありえるし、美術の好きな方も映画を見て、面白く思っていただけるだろうし。いろいろなジャンルを超えて1本でも映画をみてほしい。そして絵もみれるチャンスがありえたら面白いなと思うんです」(林)
最後に林ディレクターが「第8回フィルメックス映画祭では、「映画の未来を切り開く」という気持ちでフレッシュな37本を紹介しています。25日(日)まで開催中ですので、ご来場をお待ちしています」と締めくくると、映画談義やこれからのコラボレーションの構想など、いつまでもつきないお二人のトークに名残を惜しみつつ会場からは暖かい拍手がおくられた。
(取材・文:宝鏡 千晶)
投稿者 FILMeX : 2007年11月19日 20:00