11月21日、有楽町朝日ホール11階スクエアにて、コンペティション作品『ドラマー』のケネス・ビー監督、プロデューサーの一人ロサ・リーさん、そして主演のジェイシー・チェンさんの三人を迎え、トークイベントが行われた。和やかな雰囲気のなか、撮影秘話や最近の香港映画の傾向について語られた。ジャッキー・チェンのご子息ということでも知られるジェイシーさんのユーモアを交えた本音トークで、会場は度々笑いに包まれた。
第1回東京フィルメックスで『スモール・ミラクル』が上映され、今回『ドラマー』で二度目の参加となるビー監督。冒頭、進行役の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターは、「風格があり、大作感のある作品でまたフィルメックスに戻ってきていただいた」と喜びの気持ちを伝えた。また、今回の映画祭で上映される他の香港映画2作品、ジョニー・トー監督の『Exiled 放・逐(原題)』やヤウ・ナイホイ監督の『アイ・イン・ザ・スカイ(原題)』についても、娯楽映画でありながら芸術的な価値もある、と絶賛。
市山Pディレクターは、最近の香港映画が面白くなってきた理由に、若手の有望な監督の出現のほか、中国との共同製作など、今までなかった体制で映画を作れるようになったことを挙げた。『ドラマー』も、香港、台湾、ドイツの共同製作であるが、実現までの経緯についてビー監督とリーさんが語ってくれた。
「作品の構想は6~7年前からあったが、クランクインに至るまでは内容を練りながら、資金調達もしなければならなかった。今回のプロデューサー(タナシス・カラタノスさん)に出会い、その人の尽力によってドイツから資金調達ができるようになった。今回ドイツは、ドイツと全く関係のないテーマの作品にお金を出したのは、初めてだということです」(ビー)
「ドイツのプロデューサーが、かなり脚本を気に入ってくれた。資金調達は容易なことではないが、よき理解者を得られました」(リー)
また香港と違って、台湾政府は申請すれば補助金を出してくれるという。ビー監督は香港出身でカナダ国籍であるが、プロデューサーの一人ペギー・チャオさんが台湾出身だったので、補助金が下りたという。
フィルムの現像や編集、調整は全てドイツ(一部スイス)で行い、それは新たなチャレンジだったという。映像クオリティーについて、「撮影もすばらしく、現像もいい感じで出てる」と市山Pディレクターがコメントすると、ビー監督は、製作手段や日数の感覚の違いによるトラブルや苦労話を、笑いながら披露してくれた。
本作は、スイスで行われたロカルノ国際映画祭でも野外上映されたが、そのときの観客の反響が、一斉に笑ったり泣いたりしてくれて、とても感動的だったという話もしてくれた。
ここでリーさんが退場し、主演のジェイシーさんが観客の拍手に迎えられながら登場。ジェイシーさんは少し照れながら「ジェイシーです。よろしくお願いします」と日本語で挨拶し、会場を沸かせた。
ジェイシーさん起用の理由を訊ねられたビー監督が、「彼しかいないと思った。でもそのときなぜか脚本を全然読んでくれなかった。しばらくたってから、ストーリーを口で伝えて出演してくれることになった」というと、「脚本を読まなかったのは、全て英語で書かれていたからです!でも監督と話しているうちに、この監督には深みがあって、作ろうとしているテーマも面白そうだと思った。どんなにすぐれた脚本であっても、すぐれた監督でなければできない、とよく言われることですが、私も脚本以上に監督の人柄に惹かれた」とジェイシーさんは、お互いの気持ちが通じ合ったときのことを話してくれた。
ビー監督は、ジェイシーさんを山の上で修行させてから、山の撮影に入ったそうで、ジェイシーさんは当時を「寂しかったです。撮影は1か月で、最初の2日間は楽しかったけど、残りの28日間はとても寂しくて怖かった。蚊とヘビと特にハエが多くて、まるで世界中のハエが集まって休暇をとってるかのようだった」と当時の撮影環境の過酷さを振り返った。
映画をみる限りでは、映像がとてもキレイでとてもそんな風には見えない、という市山Pディレクターは、さらに二人に質問を投げかける。「太鼓を叩く役で、すごい迫力ですが、相当練習されたんでしょうか。監督はジェイシーさんの演技をどう思われましたか」
「最初2週間特訓を受けて、その後は撮影の中で練習しました」(ジェイシー)
「もともと音楽の才能もあり、リズム感もすぐれているので、それほどむずかしくなかったんですが、不思議なことに撮る前はほとんどわからなかったはずなのに「アクション」といったらすぐにリズムにのって叩いてくれた。勘がいいというよりは、センスと才能がある。私が出会った若者の中でも最も頭のいい人ではないかと思います」(ビー監督)
実際ジェイシーさんに会うと、映画での筋肉質な身体とのギャップに驚かされる。撮影のため、監督からいろんなトレーニング指導を受けたそうだ。筋肉やリズム感だけでなく、精神面についても哲学や禅など人生に対する考え方のようなトレーニングもあったという。
ジェイシーさんは『ドラマー』の後、6作目で東京国際映画祭でも上映されたばかりの『男児本色』に出演しているが、今後はコメディーに挑戦したいという。「コメディーは結構儲かるでしょうから(笑)。車も買いたいけどお金ないし、もちろんお父さんにお願いするわけにはいかないので。アクションは大変だし、ぜひコメディーに出演したいです」とユーモアたっぷりのコメントに、会場は大爆笑となった。
最後に『ドラマー』で一番気に入ってるシーンについて、山の上の修行の場面でヒロインと会話するシーンを挙げた。セリフは短いが、そのぶん演技が非常に難しかったという。ビー監督は「ジェイシーもヒロインのアンジェリカ・リーも演技がとてもすばらしかった。ジェイシーは、ストーリーの深みとかメッセージを理解していたように思う」とジェイシーさんとの素晴らしいコミュニケーションのなかで、この作品が生まれたことをうかがわせた。
(取材・文:鈴木 自子)
投稿者 FILMeX : 2007年11月21日 19:00