デイリーニュース
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2007年11月21日 11/21 トークサロン「それぞれのシネマ」飯田昌宏×ハナ・マフマルバフ

3131s.jpg 11/19より連日開かれているMARUNOUCHI CAFEでのトークサロン、本日のゲストは第8回東京フィルメックスコンペティション作品『ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた』のハナ・マフマルバフ監督、聞き手には国際情報誌「SAPIO」の副編集長を務める飯田昌宏さんを迎えて行われた。ハナ監督にとってアフガニスタンを扱った作品は『ハナのアフガンノート』に続きこの作品が2作目となる。国際問題を扱う編集者の立場からアフガニスタンの現状について質問する飯田氏に、監督が現地での撮影活動の経験も交えて答える形となった。

 まず、大変印象的なタイトルについては、ハナ監督の父モフセン・マフマルバフ監督の著書「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」からの引用であり、また映画の中で石仏が粉々に破壊された様子を映し出すことで、仏像が目撃してきた悲劇を表したかった、とハナ監督。
 バーミヤンの石仏爆破に関して、飯田氏は「日本も世界もバーミヤンの事件で関心を寄せたのに、それ以降、アフガニスタンに対する関心を忘れてしまった。この映画には、アフガンを見ようとしない世界に対するメッセージが込められていると思うのですが」という問いに対し、ハナ監督は「この題材を通して見せたかったのは、特にアフガンの人々に対してなのですが、大人たちが目の前で起こす暴力を見てきた子供たちが、どれだけ影響を受けるのかということです。この大人たちというのは、かつてソ連の支配下にあった頃は共産党を支持するよう強いられ、タリバン政権下ではタリバンに忠誠を誓い、そしてアメリカが介入した今は親米派であることをアピールしなくてはならない、そんな人たちのことです。たとえば、アメリカの子供たちは映像やゲームから暴力を覚えるが、アフガンの子供たちはそうではない。日々目の前で起こっている惨劇から暴力を覚えるのです。アフガンの子供たちにとって暴力ごっこが日常となっている」と答え、これまで私達の知りえなかったアフガニスタンの現状を語ってくれた。
3128s.jpg 続いて、出演者について話が及んだ。
 飯田氏はまず、主人公の少女バクタイ役のニクバクト・ノルーズについて、ただ愛くるしいだけではなく、演技もしっかりしている点が素晴らしいと述べ、彼女はどこでどうやって見つけたのか尋ねた。「バーミヤンとその周辺の学校をすべて回って、のべ1000人以上の女の子を見ました。その中から100人余りの女の子をテストし、彼女に決めました」と監督。しかし彼女にはカメラに対する恐怖があって、他の子どもたちとカメラの前で遊ぶように言っても、彼女は拒否し続けたという。しかし「そこで、もうあなたにカメラは向けないから台詞を言わなくてもいい、と言うと彼女は意地になって、カメラの前に立って台詞を言うんです(笑)」という少女の健気なエピソードに、会場は笑いに包まれた。
 また、飯田氏の「素人の子どもたちをよくここまで演出できたと感心するばかりですが、演出にあたって、何かコツはあるのですか」との質問には、「演技を撮ろう、と特に意識はしません。子供たちにも(実際は回っている)カメラを回していないかのように言い、カメラの前で遊ぶように指示しただけでした。またこの地域の子供たちはテレビ慣れしていないし、映画なんて観たこともない、という子がほとんどなので、その点はやりやすかったと思います。カメラも小さいものを選ぶようにしていました。」(ハナ)とのこと。
 次に映画に出てくるいくつかのアイテムについて、「この作品にはいくつかの大切なメタファーが込められていると思いました。そのひとつがノートだと思うのですが、このノートを、学ぶことの象徴として考えると、アフガニスタンでは食べていくことと学ぶことの両立がまだまだ難しい、ということを示しているのでは、と思いました」と飯田氏が述べると、監督は「昔、父が言っていた言葉で忘れられないものがある、それは『多くの国々はアフガニスタンに爆弾を落としてこの国を救おうとした。もし、このとき爆弾ではなくてノートが落とされていたら、この国の文化はずっと豊かになっていたことだろう』というもので、映画の中でノートが破られたり踏みにじられ、やがてノートの切れ端が紙飛行機となって石仏を襲撃するシーンは、ノートが学ぶことの象徴であると同時に、アフガニスタンの文化をも象徴している」と応じた。

3146s.jpg 最後に、マフマルバフ・ファミリーについての話となった。
 家族が映画監督である特殊な環境にあって、好きな監督、影響を受けている監督については興味が尽きないが、この質問に対してハナ監督はこう答えた。「一人を挙げるとすれば、日本の小津安二郎監督です。でもそれ以上に、私は父が一番好きなんです。父の作品一つ一つが、まるで別の人が撮ったかのように違う、それらの作品がすべて好きです」と尽きない父への敬意と愛をうかがわせる答えが返ってきた。
 また今回の映画製作にあたっては、脚本を母のマルズィエ・メシュキニさん、プロデューサーに兄のメイサムさんなど、家族が揃って参加しているが、父モフセン監督については、「父は何もしてくれません(笑)でもその代わり、口も出しません。すべて自分の視線でつくるようにと言うだけです」
 この映画への感想は何か仰っていましたか、という飯田氏の問いには、照れを隠すような様子で「思い出せません。たぶん、何も言っていません。でも、好きなんだと思います」と監督。

 ハナ監督ははにかんだような笑顔で、時折周りを横目で窺うなど、はじめはやや緊張した様子だったが、飯田氏や会場の観客から質問を受けると、大きな手振りで熱く明快に答えていたのが印象的だった。また、兄のメイサムさんが会場に現れたときにはひときわ笑顔を見せていたように、彼女の映画作りのベースには家族に対する愛が欠かせない、そう感じられる温かな雰囲気のなか、トークサロンは終了した。

MARUNOUCHI CAFEでのトークイベントは23日まで開催される。


(取材・文:大坪 加奈)

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投稿者 FILMeX : 2007年11月21日 21:00



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