11月23日、『ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた』の上映後、ハナ・マフマルバフ監督を迎えてQ&Aが行われた。ハナ監督は客席からの盛大な拍手に手を振り、はにかむような笑顔で登場。子どもたちの姿を通してアフガニスタンの現状を寓話的に描き、弱冠19歳にして映画作家としての力量を見せつけたハナ監督。観客からは、アフガンに暮らす人々が現在の状況をどのように感じているのかについての質問が相次いだ。
まず、司会の林 加奈子東京フィルメックスディレクターが、この作品の主役となる少女のキャスティングについて訊ねたところ、「バーミヤンとその周辺の学校を全て回って、1000人以上の女の子を見ました。その中で(主人公バクタイ役の)ニクバクト・ノルーズが一番良かった」と監督。
観客席から、「自由になりたければ死ね」という少年の衝撃的なセリフについて、「絶望的なセリフだったが、アフガニスタンの今の状況はどうなんでしょうか」という質問には、
「映画の中で、車が通っていない交差点で、警官が交通整理をしているシーンがあります。車はないのに、彼は一歩も動かない。それはアフガン人の今の状況を表していて、つまり、言われたとおりにしか動かない。男の子のセリフについても、自分の生活や人生の中で大人から学んでいることであって、あの男の子が拷問を受け、踏まれても何も言わず、死ねば自由になると言うのは、全て大人たちから学んでいることを意味している」と語った。
客席からは他にも、「タリバン兵を真似した男の子は演技だったのか、それとも日常的な遊びなのか」とか、「映画に出てくる大人たちは頼りない印象を受けたが、意図的な演出なのか」という質問があり、
「この作品は、全て脚本がありドキュメンタリーではありません。アフガニスタンの大人たちの表情についてですが、みんな眠っているような顔をしているんです。まるで自分の過去を忘れたいかのように現在を生きている。ソビエトの侵攻、タリバンの支配を経て、今はアメリカがいる。だから何も信じないのです」
ちなみに本作の脚本を書いたのは、ハナ監督の母でマルズィエ・メシュキニさん(監督作品『Stray Dogs(原題)』は第5回東京フィルメックスで上映)。
また、「作品を観て、子供がタリバンを英雄だと思っているように感じられたが、実際にはどうなのか」という質問とともに、アフガニスタンの治安について訊かれると、
「この映画に英雄は登場しません。子供たちにとってタリバンがヒーローであるかは別にして、子供は大人を真似して遊んでいる。男の子は父を真似して戦争ごっこをし、女の子は母を真似してリップスティックで遊ぶのです。
治安についてですが、『ハナのアフガンノート』を撮った後、アフガニスタンで自分は誘拐されそうになり、その後、姉のサミラがアフガニスタンで撮影していた場所に爆弾が落とされた。私たちの家族を狙ってたんだと思うんですが、そういった恐怖もあります」と、実際に身に迫った危険についても語ってくれた。
最後、林ディレクターが、客席にいたハナ監督の兄でプロデューサーのメイサムさんを紹介し、会場から拍手が起こると、ハナ監督はとても嬉しそうに微笑み、家族との繋がりの強さを感じさせた。
(取材・文:鈴木 自子)
投稿者 FILMeX : 2007年11月23日 18:00