11月23日、『ヘルプ・ミー・エロス』上映後、台湾のリー・カンション監督を迎えてQ&Aが行われた。本作はリー監督の第2作だが、実は初めて脚本を書いた作品であり、監督の人生で最も暗かった時期を扱っている。全編に強烈なビジュアル・イメージが展開する刺激的なこの作品は、ヴェネチア映画祭コンペティションで上映された際にも話題となり、今回のQ&Aでも観客からの質問が相次いだ。
まず「エンディングで舞っていた紙ふぶきは何だったのか?」との質問に、「あれは宝くじのハズレくじです。このエンディングには色々な想像が可能だと思います。一つは希望を持たせた捉え方。紙ふぶきの下でシンが天使のコスチュームを着て佇んでいます。それは僕が演じるアジェを迎えに来た天使である、という考え方です。また別の可能性としては、ここでアジェは生まれ変わるという捉え方。というのも、飛び降りようとする前に言った聖書の中の一節、『一粒の麦は地に落ちて死ななければ一粒のままだが、死ねば多くの実を結ぶ』というセリフにより、生まれ変わると捉えることもできるからです。この宝くじが意味するものは、彼がたとえ自殺したとしても色々な問題が残っている、自殺によっては決して解決しないということです。この世の中には数多くの解決不可能な問題があります。僕はこういう作品を撮ることにより、台湾が直面している様々な社会問題を盛り込もうと思いました。しかし僕はそれを解決しようとはしません。映画を撮ることで、その問題を解決すべき人たち(政治家など)に委ねて解決してもらう、観客の皆さんにはこういう問題があることを知ってもらう、という意図があったのです」と、本作、そして彼の映画作りの核心に迫る答えを述べた。
続いて、「腸詰め、うなぎ、ソファなど、“ニョロニョロしたもの”がいくつか出てくるが、何かこだわりがあるのか?」との質問に、「恐らくご想像の通りです。これは性に対する隠喩です」と答え、笑いを誘った。
日本では馴染みのない“ビンロウ”については、「台湾では高速道路のインターチェンジにビンロウを売る屋台がたくさんあります。覚醒作用があり、買うのは主にドライバー。若い女性が売ることがとても多いのですが、最近は競争が激しく、彼女たちの服の露出度がますます高くなっています」と説明。「ビンロウの木は商品作物として高く売れるため、その他の木を伐採してビンロウを植える農村が増えています。それが台風や地震の際の土石流の原因ともなっていて、台湾の社会問題ともなっているのです」と付け加えた。
「監督と女優さんは本当にマリファナを吸っているのか?また本当にセックスをしているのか?」という質問には、「撮影では大麻もセックスも実際にはしていません。でも私は第1作『迷子』でロッテルダム映画祭でタイガー賞を撮ったときに、うれしさのあまり大麻を吸ったことがあります(オランダでは合法)。その時、不思議な感覚を抱きました。もし自分が一度も吸ったことがなかったら、映画であのようなシーンを撮ることはなかったと思います。でも皆さんは試さないでくださいね」と答え、またもや会場は笑いに包まれた。
最後に「映画の中で“エロス”=“愛の神”と訳されていたが、監督にとっての“エロス”とは?」と聞かれると、「この作品の中では“エロス”は“僕を助けてくれる存在”です。アジェは大麻と“いのちの電話”によって慰めを求めようとしています。またビンロウ屋の女性たちは、ブランド品など“物欲”によって、自分たちの足りない部分を補おうとしています。そして“いのちの電話”の相談員の女性は、家庭がうまくいっておらず、満たされない心を“食欲”によって満たそうとしています。ですから僕がこの映画で描きたかったのは“若者たちの心の空虚さ”であり、その空虚な部分を満たしてくれるものが、“愛の神”=“エロス”なのです」と答え、まだ日本の配給先が決まっていない本作について、「皆さんが“愛の神”となって、こんな素晴らしい作品があるよ、と広めてください」とお願いする一幕もあった。
来年は、ツァイ・ミンリャン監督がルーブル美術館の依頼を受けて制作する映画に出演するというリー監督。自分自身の監督作については、資金の問題や、脚本を自分で書きたいと思っているのである程度の時間が必要だが、新作を撮った時は日本の観客になるべく早く観てもらいたいと思っているそうだ。
(取材・文:湯本 ちひろ)
投稿者 FILMeX : 2007年11月23日 22:00