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2007年11月24日 11/24 トークイベント「中国ドキュメンタリー映画の現在」

IMGP3586s.jpg 11月24日有楽町朝日ホール11階スクエアにて、中国・黒龍江省の山岳地帯で活動する木こりたちを追ったドキュメンタリー作品『最後の木こりたち』のユー・グァンイー監督を迎え、「中国ドキュメンタリー映画の現在」と題してトークイベントが行われた。進行役には、山形国際ドキュメンタリー映画祭でコーディネーターを務める藤岡朝子さん、そしてユー監督作品のワールドセールスを担当するジュー・リークンさんも同席し、トークは始まった。

 まずは藤岡さんから、中国におけるドキュメンタリー映画をめぐる状況について説明が行われた。中国におけるドキュメンタリー映画の歴史は15年程度と浅い。というのも、これまでは政府機関やテレビ局によって制作されるものがほとんどだったため。しかしここ5、6年でデジタルビデオが市民の間にも普及し、個人での映画作りが容易になったという。
 ここで、本来は版画家であるユー監督に、藤岡氏が「版画制作とドキュメンタリー制作というのは監督の中で一本の筋としてつながりがあるように思いますが」と問いかける。
 これに対し、「私は、木版画の仕事をやってきて、やはり版画で表現できることには限界があると感じました。それを超えられるのが、ドキュメンタリーなのだと思ったわけです」と、ユー監督。また、『最後の木こりたち』が撮影された場所に家を建て、そこで2作目の編集作業中であることも語った。ちなみに2作目は山で修行に励む人々に焦点をあてた作品で、さらにはシャーマンをテーマにした3作目の制作も進んでいるという。

IMGP3573s.jpg また、作品を監督の故郷で撮影していることについてユー監督は、「私にとって故郷で撮ることはとても意味があります。故郷の人々と一緒にいると、自分が映画を撮っていることを忘れ、まるで皆が親戚みたいに感じられる、そういう雰囲気の中で撮ることは重要でした」と語った。そして、中国のテレビで通常放送されているナレーション付きのスタイルを採らなかったのは、「観てくれている人達に、私と同じ視線で観てもらいたいのと、直接映画の環境に入り込んでもらうためです。そのためにはナレーションは不要だと考えました」とのこと。
 続いて、近年の中国ドキュメンタリーの躍進について、藤岡さんが山形ドキュメンタリー映画祭ではここ3回続けて中国の作品がグランプリを受賞していることに触れ、「近年の中国ドキュメンタリーの活況について、映画を上映したり海外の映画祭に紹介したりする立場として、どう見ていますか」との質問がジューさんに向けられた。ジューさんは「まず、活況への導き手として、デジタルビデオを始めとする機材の発達が挙げられます。低コストで撮影でき、なおかつ技術的に難度が高くないですから。また、インターネットの普及などで制作にあたっての自由度が広がったことも重要です。また技術的なことだけではなく、現在の中国社会にはドキュメンタリーで撮っておくべき様々な問題、状況があるのです」と答える。

IMGP3589s.jpg 続いて藤岡さんから「作品を観客に観てもらうことは作り手にとって励みになると思いますが、中国ではどのようにして市民の目に触れるのでしょうか」との質問を受け、ジューさんが「90年代の終わりから、これまで高価で入手が困難だったVHSのビデオに代わってVCDという、比較的安価で買えるものが出てきたことは観てもらう場の拡大につながりました。また、北京、上海、広州あたりに限られますが、大都市では映画のサークルが組織され、そこでは台湾も含めた主に国外の作品を観る会が設けられました。さらにこの10年の間に国内のドキュメンタリー作品を観ようとする動きが出てきました」と答えた。また、それらの大都市ではない大慶市に住むユー監督に「監督の住む所ではDVDなどは簡単に手に入るのですか」と質問が投げかけられると、ユー監督は「いまや、中国じゅうで世界の優れた作品を観られる機会はありますよ。とくに…海賊版DVDを通じて、ですがね」と、ややばつが悪そうに答え、場内の笑いを誘った。

 続いて、ドキュメンタリー映画の製作者たちの出身についての話となった。藤岡さんが「中国ドキュメンタリーの特徴として、元々女優であったり現代アートで活躍する人であった人が映画を作るようになってきていて、出身が様々な分野に及んでいることが挙げられると思います」と述べると、ジューさんが続けて「かつてのように、北京電影学院出身の人に比べて、他の分野の人の比重が高くなってきていることは事実です。例えば、今回のフィルメックスで上映されたジャ・ジャンクー監督の『東』で描かれているのは有名な画家(リュウ・シャオドン)ですが、そこでも描かれる通り、中国の現代美術はかつてないほど活況を呈していて、この分野から映画を撮り始める人が多くなっています」と応じた。
 最後に、中国国内におけるドキュメンタリーとフィクションの監督同士の交流について。例えば国内で大小の映画祭が立ち上げられており、また各地で上映会が開催され、交流の場が拡大している。ジューさんも参加しているある映画監督の交流会では、監督同士でお互いの作品を大いに批評しあうという。ジューさんは「彼らは本当に厳しいことを言う。でもこれは中国の映画界がとても良い状況にあるということだと思います」と述べ、トークは終了した。

 まだまだ話は尽きない様子であったが、満席の場内では訪れた人々が、中国ドキュメンタリー映画の未来に期待を込めるような眼差しでトークに聞き入っていた。


(取材・文:大坪 加奈)

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投稿者 FILMeX : 2007年11月24日 14:00



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