デイリーニュース
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2007年11月03日

11/2 プレイベント 「それぞれのシネマ談義」西島秀俊×塩田明彦 レポート

2291.jpg11月2日、MARUNOUCHI CAFEにおいて、「それぞれのシネマ談義」と題してトークショーが開催された。ゲストは俳優の西島秀俊さんと塩田明彦監督。「旅、土地、場所×映画の幸福な関係」をテーマに、『カナリア』(05)で組んだ二人の親密な関係がうかがえるトークとなった。

西島さんは『カナリア』の舞台挨拶でフィルメックスに登場する以前から、観客として会場を訪れていたという。「去年もオープニングの『長江哀歌』の上映で会ったよね」と塩田監督。映画好きの仲間、といった二人の和やかな雰囲気に、観客も笑いを誘われる。
「このへんで「旅」の話をしましょう(笑)」という塩田監督の言葉に、「旅の映画といえば、ヴェンダースかな」と西島さん。一方塩田監督のお勧めは、モンテ・ヘルマン監督の『断絶』(73)。
「虚無感というか、旅といえば希望や自由に続くものというイメージがあった中で、この映画の主人公たちは結局どこにも行かない、徒労感がある。そこがとてもいいと思った」(塩田)

ここで、今日のテーマに合わせて「ロードムービーのサウンドトラック」が掛けられた。突然聞こえてきた渋い歌声に、場内は爆笑に包まれる。鈴木則文監督の大ファンだという西島さんが選んだのは、菅原文太の歌う東映の『トラック野郎』シリーズのテーマソング、「一番星ブルース」。菅原扮する星桃次郎がデコトラに乗って日本列島を駆け回るまさにロードムービーだが、少し意外な選曲に塩田監督も「僕の女神」と呼ぶ梶芽衣子の「女の呪文」(『女囚さそり』シリーズ)で迎え撃った。
「この映画もそうだし、同じ梶芽衣子の『修羅雪姫』も、ヒロインが復讐という旅に出る、というストーリーなんですよね。アメリカ映画と違って、日本映画の旅というのは彷徨うのではなく、何かを背負っているんです。股旅ものというジャンルも、社会から逸脱しているように見えて任侠という別の社会への旅なんですね。そこでは常に独特の倫理だとか、生き様を問われる。(子どもたちの過酷な逃避行を描いた)『カナリア』でもそういったことは意識していました」(塩田)

2327.jpgその『修羅雪姫』のサントラから「修羅の花」が流れる中、二人の話は映画に関わる仕事ならではの旅の話題に。海外の映画祭への参加は、二人にとって特別な体験になっているという。
「海外とは、映画の仕事で縁が繋がりますね。フランスのカンヌ、スイスのロカルノなどの映画祭……ロカルノでは石畳の大広場で屋外上映が行われるんです。巨大スクリーンを前に、食事をしながらね。そこで『猿の惑星』を見たのは面白かった(笑)。『害虫』(02)でベネチア映画祭に行った時は、時間に遅れて授賞式に入れてもらえなかった、なんて経験もしました(笑)。そういった大きな映画祭ではどうしても緊張してしまいますが、小規模な映画祭は楽しいですね。イランのイスファハンで開かれる青少年映画祭に『どこまでもいこう』(99)が出品された時は、「子ども審査員」という中学生くらいの審査員がいて、すっかり仲良しになっちゃいました(笑)」(塩田)
「僕も北野武監督の『Dolls』(02)に出演した際にベネチアに行きました。キタノ人気が凄くて取材が殺到し、ほとんど自由時間がありませんでしたね。香港映画祭には一昨年、審査員として参加しました。他の審査員の方々と、意見は異なりながらも納得のいく議論が出来たというか……05年のフィルメックスで審査員を務めた時も非常に難しくて大変でしたが、勉強になりましたね。こういう見方があるんだ、と。好き嫌いだけではない批評的ものさしがあることを知りました」(西島)
「基本的には好き嫌いが重要ではあるんだけど、それで人を説得できるだけの言葉を持ちうるかどうか、ということですね」(塩田)
「ピンとこない、嫌いだといって排除してしまうことは、すごく怖いですよね。よく分からないもの=魅力的だという考え方が、世間的になくなっているような気がします。分かろう、と努力することが、映画に関して忘れられているのではないか、と思う」(西島)

最後に、フィルメックスへの熱いコメントも飛び出した。
「フィルメックスのチラシの作品紹介で「こんな感じの映画かな?」と思って見に行くといつも良い意味で裏切られる。ふらっと行ったらトンデモなく人生を変えられちゃうんです。そんな特別な経験ができる映画祭。僕も時間のあるときは必ず行くので、皆さん、また会場でお会いしましょう」(西島)
「どんなものに出会うか分からない、と覚悟しなければならないんですよね。映画を何本も見続けると頭の変な回路が開いちゃう瞬間がありますが(笑)映画祭ならではのそんなランナーズ・ハイを是非体験して欲しい」(塩田)

日本映画の最先端で活躍する二人にとって、映画が導く様々な旅はまさに創造の源となっているよう。時に話題が思いも寄らない方向へ飛んで笑いが起こる場面がいくつもあり、会場は終始弾んだムードに包まれていた。映画によって監督と俳優、そして観客が結ばれる「幸福な関係」を感じつつ、トークショーは終了した。

MARUNOUCHI CAFEでは、第8回東京フィルメックス期間中(18日-23日まで)、連日ゲストを招いて関連イベントが開催される。

(取材・文:花房佳代)


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投稿者 FILMeX : 2007年11月03日 19:05



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