司会 : 東京フィルメックス 市山尚三プログラム・ディレクター
ゲスト: 熊切和嘉監督 濱口竜介監督 日活株式会社 林 宏之さん
これまで日本のすぐれた映画作家たちの知られざる魅力を世界に発信してきた東京フィルメックス。第9回となる今年は、東京国立近代美術館フィルムセンターとの共催による特別企画「蔵原惟繕監督特集~狂熱の季節~」を開催する。
10月7日、特集上映作品の一つである『ある脅迫』(1960年)の試写会がフィルムセンター小ホールにて行われた。開演前に行われたトークイベントでは、第9回東京フィルメックスのコンペティション作品に決定した『ノン子36歳(家事手伝い)』の熊切和嘉監督と『PASSION』の濱口竜介監督、そして日活株式会社の林 宏之さんをお招きし、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターがお話をうかがった。
まずはコンペティション部門に出品が決まった二人の若き監督が登場し、自身の作品について語った。
今春に東京藝術大学大学院映像研究科を修了したばかりという濱口竜介監督は『PASSION』について、「ありふれた恋愛群像劇だけど、最後までありふれているというわけではない」と自信をのぞかせた。「街の撮り方が非常に独特で面白い」と言う市山Pディレクターに、監督は「大学院の修了制作で、予算がかけられなかったので大学がある横浜をロケ地にせざるを得なかったんですが、とても魅力的な街だと思っています」と話した。本作は、先日まで開催されていたサン・セバスチャン映画祭(スペイン)の新人監督のコンペティション部門にも選ばれている注目作である。
続いては、一年に一作品のペースで新作を発表している熊切和嘉監督が、「5年前から温めていたオリジナルの企画で、相当気合いを入れて作った」という『ノン子36歳(家事手伝い)』について語った。
もどかしいラブストーリーが、寺島進さんと菊地凛子(百合子)さん主演の『空の穴』(2001年/同監督)を思わせるという市山Pディレクターに、「ずばり『空の穴』の女性版です。そろそろ女性を描いてみたいと思っていました。ついこないだ完成したばかりで、まだ周りからも感想を聞いてないので、早く聞いてみたい」と熊切監督。
元・売れないアイドルで出戻りの三十路女、ノン子役は映画主演が相次ぐ坂井真紀さん。不器用でさえないヒロインを、独特の空気感で演じている。本作は、12月の公開に先立ち、東京フィルメックスでいち早く観客に披露される。
日活の林 宏之さんからは、蔵原惟繕(くらはらこれよし)監督特集に関するお話をうかがった。林さんはチャンネルNECO(日活系の邦画エンタテイメントCSチャンネル)の担当になった際に初めて蔵原監督の『狂熱の季節』(1960年)を観て、そのスタイリッシュな作風に衝撃を受けたという。『狂熱の季節』は、市山Pディレクターが「日活のヌーベルバーグ」と評する、無軌道なエネルギーに満ちた青春映画。当時の渋谷の様子も映されており、時代の鮮烈な記録という意味でも貴重な作品といえる。『狂熱の季節』と『硝子のジョニー/野獣のように見えて』(1962年)は北米各地でも上映されており、非常に高い評価を得ているという。
市山Pディレクターは「蔵原監督といえば、石原裕次郎の作品や『南極物語』といった娯楽大作映画の監督としての印象が強いが、日活時代は全く違うタイプの映画を作っていた。その時代に作られた作品には大きな発見と驚きがあり、お宝のような映像が満載」と、とくに初期の作品を絶賛した。「いくつかの作品については、これまでも名画座などでは主演俳優や日活アクションといった切り口から上映されていましたが、今回のように監督特集としての機会はなかなか無く、とても貴重な機会です。日活は4年後に100周年を迎えるのですが、それを前にして今回、蔵原惟繕監督作品を特集上映し、評価していただく場が与えられたことをありがたく思います」と林さん。
特集される全12作品はすべて英語字幕付きで、2008/11/22~2008/11/30の映画祭開催期間中、東京国立近代美術館フィルムセンターにて上映される。(月曜日は休館日)
投稿者 FILMeX : 2008年10月14日 16:36