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2008年10月31日 濱口竜介監督インタビュー(前編)

第9回東京フィルメックスコンペティション部門で『PASSION』が上映される濱口竜介監督は、映画制作のプロフェッショナルを育成する機関として注目の集まる東京藝術大学大学院映像研究科出身である。本作は二年間の課程の集大成である修了制作。若い男女の日常を描きながら、緊張感あふれる演出が強い印象を残す快作である。今年大学院を修了したばかりで、ヴェールに包まれた濱口監督を赤坂のフィルメックス事務局にお招きし、林 加奈子ディレクターがお話を伺った。

林「まずは監督ご自身について、それから芸大での経験についてお話を伺いたいんですが、」
濱口「大学卒業後、監督を目指そうと映画やTV番組の制作現場に入ったのですが助監督としてはあまり使える人間ではありませんでした(笑)。その後、映像研究科が出来た最初の年(2005年)に受験したんですが、落ちてしまって。次の年に第二期生として入学しました」
林「映画が好きだからと言って、みんなが監督になりたいと思うわけではないですよね。監督として映画を作ろう、という強い意志というのは、濱口さんのどこから生まれてきたものなんでしょうか」
濱口「他の選択肢を思いつかなかった、としか(笑)。映画研究者になる、というのも考えないではなかったですが、純粋に作ることに悦びを見い出してるんだと思います」

林「藝大映像研究科には北野武、黒沢清という教授陣がいらっしゃるわけですが、そこでの学びの内容を教えていただけますか」
濱口「北野さんは大変お忙しいということもあり、半年に2~3回、特別講義という形で授業を持っていらっしゃいました。黒沢さんは頻繁に大学にいらっしゃって、悩みの相談なんかにも乗ってくれたり。監督コースは僕を含めて6人在籍していましたが、特に初めの頃は他の技術のコースの学生とは少し距離があって、孤独感を感じることもありました。黒沢さんは、僕たちを自身の作品の現場に呼んでくれたり、色々と親身になってくれて、若手を育てる意識をお持ちなのだなと感じました。僕らが在籍していた頃に、渋谷のシネマヴェーラでレトロスペクティブが行われたり、『LOFT』や『叫』が公開されていたりしたので、「あの場面は一体どうやって撮ったんですか」なんて雑談めいた話から始まって、具体的な演出やスタッフとの関わり方について話してくださいました。黒沢さんからは、「映画監督は、人の意識を揺さぶるものを作る存在でなければならない」ということを学んだと思います。「どうやって撮ったの!?」って思わせるような、そんな映画を撮らなければならない、と」
林「見たことのない、「フツー」じゃないものを見せていく、ということは大切ですよね。我々としては「なんなんだ、これは!」という驚きを経験したい。映画祭の作品選定をする立場からは、これを撮った人はどんな人なんだろう、次の作品も見たい、と思わせてくれる映画を選んでいます。そういう意識を持つ、というのは重要なポイントだと思います」

濱口「映像研究科での映画制作では当然、様々なコースの学生たちがスタッフとして参加するのですが、衝突したり、お互いに諦め合ったり(笑)。学校の中ですから、二年間一緒にやっていくしかないですからね。でも、それはとてもいい経験だったし、修了作品もその二年間の成果だと思います。機会があればまた彼らと一緒に映画を撮りたいと思っています」
林「さて、今後の見通しについては?藝大のサポートはあるのでしょうか」
濱口「撮りたいものはあるのですが、今後は大学院での制作のようにはいかないので、不安はあります。ただ、そういう状況であっても「決して自分からは映画づくりを止めるな」と黒沢さんが仰っていたことが心に残っています。また、外部からの注文企画を受けて製作していくことも、チャンスがあれば是非やってみたいと考えています」
林「資金をどうやって集めるか、出資者を納得させるだけの説得力というか、営業力というのも必要になってきますね。今回、東京フィルメックスで上映されますが、海外の映画祭関係者やプレスなど、多くの人に披露する機会になります。この映画祭の力を最大限に活用して次につなげて行って欲しいと切望しています」

後編につづく

(構成:花房 佳代)

投稿者 FILMeX : 2008年10月31日 13:33


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