デイリーニュース

TOP<>BACK

2008年11月22日 『リーニャ・ヂ・パッシ』Q&A

linha_1.jpg 第9回東京フィルメックス初日の11月22日、開会式に引き続いて行われたオープニング上映『リーニャ・ヂ・パッシ』、本作上映後、ウォルター・サレス監督と共同監督をつとめたダニエラ・トマス監督を迎えてQ&Aが行われた。本作はブラジル・サンパウロに生きるひとつの家族を描いたもので、4人のそれぞれ別の父親をもつ息子と、彼らを女手ひとつで育て、また新たにもう1人の子供をお腹に宿すシングルマザーが物語の中心となっている。

上映後の興奮が冷めやらない会場に登壇したダニエラ・トマス監督に、林 加奈子東京フィルメックスディレクターが「このような素晴らしい作品をオープニングで上映させて頂きありがとうございます、オブリガード」と述べた後、さっそく作品のタイトルについて話が及び、トマス監督がその意味について答えた。
「リーニャ・ヂ・パッシという言葉はどこの国の言語にも訳するのが難しい。というのは、これはブラジルの子どもの遊びの名前なのです。4人でボールを下に落とさないように蹴って、足から足へと繋ぐ遊び(日本の蹴鞠のようなもの)で、ボールを下に落としたらアウトです。この作品のメタファーとしてふさわしいと思い、タイトルに決めました」
トマス監督はこれまでにウォルター・サレス監督との共同監督で何作か作品を撮っているが、実際に長編で3作品、短編も含めると5?6作品になるという。
「サレス監督の初長編『Foreign Land』でも私は共同監督をつとめました。その後、彼は単独でも監督をしていますが、その間私は2人の子供を育て、セットデザイナーとしての仕事も続けてきました」
また、共同監督にあたっての役割分担について質問が及ぶと、共同監督での製作は共演者や製作チームとの共同作業という意味で、2人の監督というより大勢の監督によって作られた作品だという意識が強い、と監督。部分によっては、出演者が、例えば作中で末っ子を演じた少年が自らのアイディアで演出したシーンもあるなど、とても自由で実験的な映画作りができる環境であったことにも触れた。

linha_4.jpg また、製作に4年の月日を費やした本作。実は脚本を書き上げるのに3年掛かったのだという。
「サレス監督が原案を考え、その後私と友人たちとで脚本に取り掛かったのですが、脚本を書いている3年間に、サレス監督は『モーターサイクル・ダイアリーズ』と『ダーク・ウォーター』の2作を撮ったのです。あとの1年半をこの作品の撮影と製作に費やしましたが、役者たちとのリハーサルにそのうちの4ヶ月を掛けたので、結果としてとても説得力のある家族というものが出来上がったと思います」とトマス監督。続いて、敢えて素人を役者に起用するのは映画に現実感を与えるためなのか、という観客からの質問には、この映画がサンパウロのリズムやソウルをリアルに伝える作品であることと、路上で自由に撮影できる利点を挙げた。「もしブラジルの有名な役者が出ていたら、このような路上ロケは実現しなかったでしょう。無名の役者にサンパウロの街を自由に歩き回らせて、小回りの利く小さな撮影隊で撮ることが必要でした」
続いて、キャスティングについての質問。「この映画の発端というべき人物がいて、彼を中心に作品が立ち上がったのですが、それは4人の子供の長男にあたる少年で、ヴィニシウス・オリヴェイラといいます。彼はサレス監督の『セントラル・ステーション』に出演していた少年です。『セントラル・ステーション』から10年を経た彼、という設定で作品を作り上げました。彼は本作で唯一映画への出演経験のある役者ですが、家族役には彼に似た顔とムードを持った、なおかつ才能を感じさせる人たちを何ヶ月もかけてリサーチし、キャスティングしていったのです。また現地のNGOをつうじて、サンパウロ郊外に住む人々の中から新鮮で、聡明そうな子供を探して、末っ子役の少年をキャスティングしました」という答えに、観客からは感嘆の声が上がった。
最後にラストシーンについて話が及び、物語をどう終わらせるか苦心されたのでは、との質問には「サレス監督との共同監督作には、本作のように(観る側に考える余地を与える意味で)開かれた終わり方で幕を閉じる作品が多いと思います。というのは、サレス監督も私も、登場人物の運命を我々が左右してしまうことは横柄だと考えていますし、人の人生というのはそれほど単純なものではない、とも言えるからです。物語の最後のセンテンスにピリオドを打つのは観客であり、我々はその余地を残したい、と考えています」というトマス監督の力強い言葉に、会場には大きくうなずく姿も見受けられた。

サレス監督とトマス監督はよき友人同士だが、お互い大変なシネフィルということもあり、プライベートでは映画の話しかしないのだという。会場からの質問の一つ一つに、言葉を選びながら、丁寧に答える姿が印象的だった。
『リーニャ・ヂ・パッシ』は、11月28日に有楽町朝日ホールにて上映のほか、ダニエラ・トマス監督が『オデッセイ』という作品で参加しているオムニバス作品『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』が11月26日に朝日ホールにて上映される。なお、上映後には日ホール11階スクエアにてトークイベントも行われる。

(取材・文:大坪 加奈)

linh_2.jpg linha_3.jpg linha_5.jpg

投稿者 FILMeX : 2008年11月22日 21:00


up
back