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2008年11月23日 『PASSION』Q&A

passionqa_2.jpg 11月23日、コンペティションに出品の『PASSION』が有楽町朝日ホールにて上映された後、濱口竜介監督を迎えてQ&Aがおこなわれた。横浜を舞台に繰り広げられる『PASSION』は、30歳前後の男女による群像劇で、東京藝術大学大学院映像研究科で学んだ濱口監督が、大学院の修了作品として制作した映画である。

観客の盛大な拍手に迎えられた濱口監督。まず、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターに、撮影期間について訊ねられると、「撮影そのものは2007年12月12日からおこなって、(その前に)1週間のリハーサルをした。藝大の卒業制作の撮影期間は11日間が基本なのだが、出演者の都合で12日間にしてもらった」と語った。

 続いて、観客からの質問を受けつけた。最初は、「ジャン=リュック・ゴダール監督の映画に『パッション』(原題は『PASSION』)という作品があるが、同じタイトルを使うことに抵抗はなかったか」というもの。濱口監督は、「ゴダール監督の『パッション』は観たことがある」と前置きをした上で、「“passion”という単語は、(自分の作品の)内容に合っていると以前から考えていて、覚えやすく、語感がよいから使った」と答えた。市山Pディレクターに、このタイトルをつけた具体的な理由について訊ねられると、「“passion”は、受動的という意味の“passive”からきていて、(自発的という意味を持つ)“action”の対義語にあたる。“passion”というと日本語では『情熱』だが、もっと『受動的な感情』という意味でタイトルをつけた。この映画は、“passion”に持っていかれる人々と、“passion”というシステムの話なんです」と語った。

passionqa_3.jpg 次の質問は、「シナリオ、台詞のやりとり、ト書きを、どこまで『笑わせてやろう』と思って書いていたか。劇中で、ゲームがおこなわれるシーンや、包丁を使うシーンで、客席から笑いが起こったが、監督としては、どこまで狙っていたのか」というもの。濱口監督は、「喜劇的にしようと思っていたわけではない。まじめに生きている登場人物の、いろいろな感情のすれ違いを書いたので、彼らを滑稽に表現したつもりはなかった。ただ、人がまじめに恋愛などに取り組んでいる姿は、他人から見ると滑稽に見えることがあるから、(観客の目にそう映っても)それを拒絶するつもりはない」と語った。包丁を使ったシーンについては、「撮影現場のスタッフも『ここで包丁かよ』と思ったようだったが、役者さんがあのシーンをやりきってくれて嬉しかった」と笑顔で話した。

 次は、録音に関する質問で、「バスの音や、部屋の中で爪を切る音などが、非常にリアルだったが、どこまで意図的だったのか。また、抜群のタイミングでトラックが大きな音をたてて出てくるシーンは計算だったのか」というもの。濱口監督は、「音に関しては、特に細かい指示は出していなくて、藝大の技術コースのスタッフが持ってきたものを聴いて決めた。印象的な街の音などは、(あとから故意に入れたものではなく)だいたい元から入っていた。生活の感情を使った映画なので、『生活とはこういうものか』という音にした」と答え、トラックのシーンについては、「あのトラックは、(ロケ現場で)まったく偶然に洗われたので、カメラをのぞいていて驚いた。役者の声が拾えるかどうかという意味で、NGの要因になるかと思ったが、『トラックが入る→Uターンして出ていく』という動きが、登場人物・果歩の心情のようだったから、そのまま使った。もしも事前に『トラックを用意する』と言われていたら、ノーと答えていたと思うが、(あのハプニングが起きて)結果的にはよかった。あのトラックを拒まなかったのが、僕の演出だと思ってほしい」と笑顔で語った。

 同じ観客から、編集に関する質問も出た。「室内で、登場人物が座りっぱなしの場面があったが、あのシーンを編集するにあたって、参考にした作品はあったのか」というもので、濱口監督は、「編集というか、出演者の動きについては、役者に任せていた。役者が動けば、それに対応してカットを割って、動かなければ割らない、という感じ」と話し、参考にした作品については、「ジョン・カサヴェテス監督の『フェイシズ』を、以前、編集スタッフと一緒に観た」と答えた。

 最後の質問は、「『PASSION』は言葉に重きを置いている映画に見えたが、濱口監督は言葉についてどのように考えているか」というもの。「僕は台詞の多い映画を作りがち」と濱口監督は答え、「台詞が多い映画はよくない、と言われるが、それに対しては反発を覚えていて、『台詞は映画にとって力になる』と思っている。『PASSION』は、見えていること・聞こえていることが真実とは限らない、という話。普段の生活でもよくあることだが、『人の見た目と性格が全然違う』ということを、この映画で表現したかった。台詞は(人の見た目の印象を)ひん剥いて、層を作るものになっていたと思う。また、台詞というものは、役者にとっても観客にとってもはしごになって、その台詞を聴くことで、違う感情にたどりつくことができる。台詞を使うという演出は、今後もやっていきたい」と語った。

 1978年生まれの濱口監督は、今年大学院を修了したばかり。長編第1作となる『PASSION』で、確かな力量と才能を発揮した濱口監督の今後の活躍が楽しみである。

(取材・文:川北紀子)

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投稿者 FILMeX : 2008年11月23日 19:00


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