第9回東京フィルメックスコンペティション部門で『PASSION』が上映される濱口竜介監督へのインタビュー、後半では、出品作について語っていただいた。
濱口「『PASSION』では、十分とはいかないまでも、自分のカラーを出すことが出来たと思います。修了制作ではそれまでの課題と違って、システム的に監督のワガママが利いたので。脚本から自由に書かせてもらいました」
林「キャスティングは監督自身が?」
濱口「製作スタッフと僕で、相談して決めました。河井さん、渋川さん、岡部さんは以前一緒に仕事をしたことがあったので、最初からそのイメージで脚本を書きました。占部さんと岡本さんはお会いして決めました。以前学校で撮った作品では役者さんを抑制するというか、カメラを中心とした演出だったのですが、今回は役者さんと向き合い、彼らが解放されるようにしようと心がけました。役者さん中心の演出にしよう、と」
林「役者さんのナチュラル感を大切にした作り方をしているな、というのは見ている方にも伝わってきますよね。撮影のスケジュールは大変だったんですよね?」
濱口「撮影は10日ほどでした。リハーサルには時間を掛けました。とは言っても実際にそのシーンをやってみるというわけではなくて、即興で、脚本にない部分をやってみました。役者さんのメンタルな環境づくりという感じですね。それさえ出来ていればシーン自体の撮影にはそれほど時間は必要ない、ということがやっているうちに分かってきました」
林「役者さんのエモーションを持続させる、っていうのはこの作品に関しては特に大変だったと思うんですね。緊張感を保たなければならない部分と、それがフッと緩和される部分とのメリハリがすごく効いている、これは演出の力でもあるとは思うんですが。撮影は順撮りだったんでしょうか」
濱口「限定された日数だったので、全部というわけにはいかないけれど、できるだけ順撮りで進めていきました。脚本に書かれていない部分の動きや感情は、役者さんの中から出て来たものに任せました。現場にいながら、お、これは本当にすごいものがでてきたな、と(笑)。撮影段階からそういう手応えを感じるというのは初めての経験でした。大変だったのは役者さんに“正解を持っているのが演出側なのではない、役者さんのやっていることがそれ自体もう既に正しいのだ”ということを理解してもらうことでしたね。それを伝えるコミュニケーションの力の大切さを感じました」
林「監督って、伝えたいことを抱いているからこそ映画を作るわけですよね。それをどう人の心に働きかけ、実現させていくか。そういうことばを持つことは、実は技術よりも重要なことだったりします。その意味で、映画をつくることは日常と繋がっているのだと思います。
会話のシーンの複雑なカメラポジションの切り替えなど、色々なことをやろうとしている、チャレンジ精神を感じました。その効果というのは観客の判断に委ねられるわけですが、ひとつところに安定、安住しないフレッシュさがあるな、と。さて、そんな濱口監督はこれからどこへ向かおうとしているんでしょうか?」
濱口「『PASSION』みたいに、人物がたくさんでてきてぐちゃぐちゃに入り乱れる話は好きなので、またこういうものが撮りたい、と思う反面、自分の範疇にないものっていうのもやってみたいですね」
(10月17日、東京フィルメックス事務局にて取材 構成:花房佳代)
投稿者 FILMeX : 2008年11月07日 20:07