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2008年11月25日 トークイベント「中国映画のいま」

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11月25日、有楽町朝日ホール11階スクエアにて「中国映画のいま」と題したトークイベントが行われた。ゲストは、いずれもコンペティション作品である『サバイバル・ソング』のユー・グァンイー監督、『黄瓜』のチョウ・ヤオウー監督、『完美生活』のエミリー・タン監督とプロデューサーのチャウ・キョンさん。ひとくくりに「中国映画」といっても、3作品の背景はさまざま。それぞれの作品がどのような環境のもとに作られ、また公開されているのか、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターがお話をうかがった。

まずは3人の監督に製作の背景や監督になるきっかけについて話していただくことに。
ユー監督の『サバイバル・ソング』は、監督第一作『最後の木こりたち』(第8回東京フィルメックスで上映)に続き、山間部に暮らす人びとに寄り添いながら撮られたドキュメンタリーである。
「撮影から編集まで、すべて一人で行っています。私は20数年間その場所で暮らしていて、映画に登場するのは幼い頃から知っている人たちです。彼らは私が一体何をやっているのか知りません。以前から私は版画家として人びとを描き、また文章を書いたりしてきました。中国はいま、大きな開発の波に洗われていますが、その開発の遅れた場所ほど変化によって失われてゆくものへの思いが切実です。映画は私の専門分野ではありませんでしたが、扱いの容易なデジタルカメラを手にすることでそれができるのなら、人びとの生活を記録しておきたいという強い思いがありました」
市山Pディレクターが中国国内での上映機会について尋ねると、「そのような機会はほとんどありません。ですから、こんなふうに映画祭に招かれるときはまるで春節を祝う中国の庶民みたいに、大騒ぎの気分ですよ(笑)」。
謙虚なコメントを貫くユー監督だが、『サバイバル・ソング』は韓国・ソウルで開催された映画祭「シネマ・デジタル・ソウル」で最優秀作品賞を受賞するなど、国際的評価は高まっている。

チョウ監督の長編第一作『黄瓜』は北京の市井に生きる人びとを描いた群像劇。
「以前は広告デザインやアニメーション制作、短編映画のプロデュースをやったり、絵を描いたり、映画の評論をやったり、さまざまな仕事を経験しました。しかしどれも2年くらいでやり尽くした感じがしていました。それに対して映画による自己表現は、最もクリエイティブな喜びを与えてくれるものだったんです」(チョウ監督)
市山Pディレクターが「プロフィールには、ジャ・ジャンクー監督のワークショップに参加されたとありますが?」と訊ねると、
「ジャ監督は大好きで、2001年に『プラットホーム』を見て映画監督になろうと思った程です。2007年、そのジャ監督によって若手監督を育成するワークショップが開かれました。まず脚本が募集され、資金を集めてからその脚本を映画化するワークショップを開催するという流れで、私は自分の脚本が採用されたので、参加することができたんです。『黄瓜』はワークショップ終了後に撮影を始めました。完全に自主制作で、広告会社から8万人民元の資金を出してもらいました。電影局の審査を通っていないので、国内での公開はされていません」。

tyugoku_2.jpgエミリー・タン監督の『完美生活』は、ロカルノ映画祭に正式出品された『動詞変位』(2001)に続く第二作。
「第一作を撮るまでは学生でした。修士課程で演劇を学んだ後、中央戯劇学院という演劇の学校で、2年間監督コースに通いました。本来は舞台演出を学ぶところですが、映像を専攻することも出来たんです。『動詞変位』は天安門事件後の若者を描いた作品なのですが、実際事件を経験したという方から資金提供を受けて撮りました。『完美生活』の資金は製作会社のエクストリーム・ピクチャーズから、後からロッテルダム国際映画祭のヒューベルト・バルズ・ファンドからも支援をいただきました」(タン監督)
ドラマとドキュメンタリーの融合により大きな効果を上げている『完美生活』だが、どのような過程でこのような構成になったのだろうか。プロデューサーのチャウ・キョンさんが事情を説明する。
「当初はドキュメンタリー部分はなく、半年間かけて撮影が終了した時点で監督は不満を覚えたんです。ドラマのみでは語りきれない、と。新たにヒューベルト・バルズ・ファンドから資金を得て、さらに1年をかけてドキュメンタリーの部分を撮影し、現在の形になったのです」
国内での公開は?
「脚本の段階では、電影局の審査に通るのは難しいと感じました。その後修正が行われたので電影局の関係者に接触してみたところ、分かったのは、審査の結果が出るまでに非常に時間がかかる、ということでした。そのため、香港映画として公開するという手段を取ったのです。現状、電影局としては香港映画として輸入すれば国内での公開は問題ないという姿勢でした。心配していることは、映画館の方がこのようなアートフィルムを受け入れてくれるか、ということです」(チャウさん)
プロデュースや配給に手腕を振るうチャウさんに、市山Pプロデューサーが「国内ではどのようなものが好まれるんでしょうか」と問うと、
「2002年頃からシネコンが登場し、興行システムは変化し始めていますが、現在は二大配給会社の手の中にあって、映画館は確実にヒットする大作しか掛けられません。集客が悪ければ翌日にも契約を無視して打ち切られてしまう。政府はアート作品を保護する姿勢はとっていません」。
チャウさんはジャ・ジャンクー作品の配給も手がける。他のアート系作品とは知名度も異なるジャ監督だが?
「『世界』(2004)と『長江哀歌』(2007)の2作品を扱いました。『世界』の時は自主配給というかたちを取り、映画館との直接交渉を行って38スクリーンでの公開を実現しました。『長江哀歌』は上海映画制作庁と共同で配給し、35mmとデジタルという2種類の素材を使って180スクリーンで公開されました。大変すばらしい作品ですが、デジタル上映の際は1000人規模の劇場が使用されたため動員と釣り合わず、残念ながら数日で打ち切りということもありました。最新作の『四川のうた』(2008)ではプリントコピーの数も抑え、手堅い方法で配給することになっています」(チャウさん)

年齢やバックグラウンドもさまざまで、三者三様のスタイルを見せる中国の映画作家たちが集まった今回の東京フィルメックス。しかしいずれの作品も、大きな変動の時代を迎えた中国社会に生きる人びとの姿を見据えている。チャウ・キョンさんのプロデュース作品『PLASTIC CITY』(ユー・リクウァイ監督、オダギリジョー、アンソニー・ウォン主演)はヒューマントラストシネマ渋谷、新宿バルト9他にて09年3月公開、『四川のうた』(ジャ・ジャンクー監督)はG.W.に渋谷ユーロスペースで公開される。

(取材・文:花房佳代)

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投稿者 FILMeX : 2008年11月25日 16:00


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