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2008年11月26日 トークイベント「『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』のできるまで」

saopaulo_1.jpg キリスト教の聖パウロに由来する名を持つ街、サンパウロ。その街の表情を世界各国の監督が17つの視点で綴った特別招待作品『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』を題材に、「『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』のできるまで」と題したトークショーが、朝日ホール11階スクエアで11月26日行われた。イベントには第9回東京フィルメックスの審査員でもありサンパウロ映画祭代表でもあるレオン・カーコフさん、オムニバスの1本『オデッセイ』のダニエル・トマス監督、さらに『ウェイトレス』の吉田喜重監督、そして女優の岡田茉莉子さん来場し、日本・ブラジルから4名のゲストがそれぞれの作品にまつわるエピソードや思いを語った。

「外国人がサンパウロにやってきた時の視点はどういうものだろう?彼らはサンパウロにどういう印象を持っているのだろう? いつの日かその視点を映画化したいと夢みていました」。まず最初にマイクを握ったカーコフさんは、本作のプロデューサーとして率直な気持ちを述べた。そして、「とてもシンプルな始まり方でした。「低」予算映画ではなく「無」予算映画でした。計画なく自然にスタートしましたが、その年に(サンパウロ映画祭に)来場した監督達と話しながらこの企画に参加してもらえないかと相談したらみんなが承諾してくれたのです」と特徴的なハの字の眉を下げ、温厚な笑顔で本作を鑑賞したばかりのお客さんを迎えた。

saopaulo_2.jpg 続いてマイクを握った吉田監督も声をかけられて参加した監督のひとり。2003年サンパウロ国際映画祭でサンパウロを訪れた際、かねてから交流のあったカーコフさんに声をかけられたのは帰国の前々日だったという。「大変忙しくてサンパウロの街をゆっくり見ている時間がなかった。とても時間がないのでお断りました」と最初は乗り気ではなかったものの、カーコフさんの熱意に負け撮影を引き受けたのが『ウェイトレス』だ。この作品はサンパウロを訪れた日本人女性が日本料理屋で働く日系三世の女性にインタビューし、戦前戦後を通しブラジル生きる彼女の日系人としての姿を浮かび上がらせている。
インタビューアーを演じた岡田さんは最初不安だったという。「インタビューを受ける事はあってもインタビューアーという仕事をした事はなくて、出来ないかなと思いました・・・。(インタビューアーの役は)後にも先にもこれ1本だけです。うまくいったか分からないですけどいい経験をさせていただきました。カーコフさんの愛情があって、出演を決意できたんだと思います」と最後はにこやかな表情で結び、撮影を楽しんだ様子。

saopaulo_3.jpg さらに吉田監督は日本映画とブラジル映画の接点はもっと深い所にあると声を強めた。「実は私の映画をサンパウロの人が初めて観たのはなんと1961年です。60年に『ろくでなし』という映画を撮りました。それが1年後にはサンパウロで公開されていました。なぜかというと、日本人街の近くに松竹の映画館があり、私が撮った松竹時代の映画は全てサンパウロで上映されていたのです」。サンパウロに松竹の映画館があった事実もだが、何より驚いたのは当時ブラジルではフランス映画よりも日本映画が受け入れられ、ブラジル映画に多大な衝撃と影響を与えていた事だという。そしてその事を知ったのは自分の作品がサンパウロで公開されて実に30年たった後という吉田監督は、「映画は不思議な力を持っている。映画というのはやっぱり素晴らしい・・・」と静かに締めくくりマイクを置いた。

一方、「外国人の目でサンパウロを見る事ができる」と称されカーコフさんに誘われたのは『オデッセイ』のトマス監督。「私はリオの出身で19歳の時にブラジルを離れ、イギリスやN.Y.で暮らした後に28歳でブラジルに帰国しました。その時選んだのがサンパウロでした」とルーツを話す。また、セットデザイナーでもありアートディレクターをしているトマス監督は都市の建築に非常に興味が強いという。「人間が、現実への欲望を建築を通して表現する事に興味があります。あるファンタジーを具体的にどのようなビルやハイウェイにしていくのか、その創作行為に興味があるのです。例えばベルリンの壁だとかハイウェイやバイパスのようなものです。バイパスと言えば東京にもありますが、20年前に東京に来た時に高速道路の渋滞に3時間くらい巻き込まれました。大変な経験でしたが、その体験を愛しく思います。というのは3時間のうちに日が落ちていき、ビルのライトがつきはじめまたのです。その経過を車の中で感じる事ができたからです」。サンパウロのハイウェイにも興味を惹かれたというトマス監督は、そのハイウェイを本作で独自の感覚で切り取っている。「このハイウェイは週末・休日になると車の通行が規制され公園みたいになります。コンクリートとアスファルトなので酷いといえば酷いですが、そこには人の精神が活き活きとうごめいていると思います。自転車に乗ったり走ったり友人と過ごしたりエクササイズしたり・・・。この人間が生きようとする精神が表れているこの場所を旅をする事によって人間の精神がいかに都会を征服するかという事を描きたかったのです」
 
トークイベントも終盤になると、カーコフさんは最後に現在取り組んでいる新たな企画を明かしてくれた。「(併映された)『可視から不可視へ』(マノエル・デ・オリヴェイラ監督)は今製作中の長編映画の一部になっています。オムニバス作品ですが最初に完成したのがこの部分だったのです」この作品は東京フィルメックスだけでなく今年のヴェネチア国際映画祭のオープニングとしても上映されている。「決して急がないで、ゆっくりとじっくりといつ終わるかも知らず進めていきたいと思っています」最後はそう語りながら人懐っこい笑顔を見せてトークショーは幕を閉じた。

(取材・文:中村好伸)


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投稿者 FILMeX : 2008年11月26日 17:00


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