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2008年11月19日 トークサロン「映画祭は映画のミライをアカルクする」

1119marucafe_1.jpg第9回東京フィルメックスの開催を目前に控えたプレ・イベントとして、「映画祭は映画のミライをアカルクする」と銘打ったトークサロンが、11月19日にMARUNOUCHI CAFEで開催された。ゲストは、俳優でショートショートフィルムフェスティバル(以下、SSFF)の代表も務める別所哲也さん。林 加奈子東京フィルメックスディレクターとともに、それぞれが主宰する映画祭の裏側や「映画の未来」に関するお話が繰り広げられた。

 会場は満員。仕事とプライベートを兼ねたアメリカ旅行から帰国したばかりという別所さんは、まず今年10回目の開催を迎えたSSFFを振り返って、「気がつけば10年目、というのが正直な気持ちです」と笑顔を見せた。「1年目は専任のスタッフが5人しかいなかったので、映画の収集から、パンフレットの誤植にシールを貼って修正する作業まで、僕も全部やりました。苦労はしたけど、10年経った今、スタッフの気持ちが自分の感覚でわかるので、よかったと思いますね」と語る。

「映画監督になる俳優さんは多いけれど、自ら映画祭を立ちあげるのは珍しい」という林ディレクターの言葉に、「ロバート・レッドフォードが始めたサンダンス映画祭に足を運んで感動したのがきっかけで、自分も映画祭をやりたい、と思った」と別所さん。10周年を迎えたSSFFは、ショート・フィルム専門の映画館「ブリリア ショートショートシアター」を今年横浜にオープンした。SSFFの観客から「映画祭以外でもショート・フィルムを観られる場所がほしい」という要望が増えたことと、映画祭では紹介しきれなかった作品を見せる場があれば、との思いから、実現に至ったという。

 映画祭で上映される作品の字幕に関する話になると、同じ映画祭でも違った苦労があるということが見えてきた。「フィルメックスで上映するために外国から借りた素材は、そのままの形で返却しなくてはならないから、日本語字幕を焼きこむことができないので、『字幕を投影する』という手法を取るんです」と林ディレクター。一方、「SSFFでは、基本的に作品を買い取るというか『いただく』形になるので、字幕をつけた物とそうでない物の2種類を作って、うちの映画祭のライブラリーにたまっていくという状況」と別所さん。字幕ひとつを取っても映画祭の性質によって扱いも異なるということに、観客は好奇心をそそられていた。

 ここで、SSFFの歴史をまとめたスライド映像を観ながら、第1回から第10回までの思い出を、別所さんが語った。「トークイベントやオープニングセレモニーなどを開催するようになったのは、第3回目からです」という。2002年にロサンゼルスで開催したことをきっかけにSSFFが米アカデミー賞公認映画祭に認定されたこと、今年の第10回目で初めて日本人の監督がグランプリを受賞したことなど、SSFFの成長を足早に、だが、感慨深く振り返った。


1119marucafe_2.jpg 「『映画の未来』を意識しているところが、フィルメックスとも共通すると思う」と林ディレクター。東京フィルメックスは「映画の未来へ」とのスローガンを掲げている。映画の未来とショート・フィルムの意義について訊かれた別所さんは、「初めてショート・フィルムに出会ったとき、映画の原型はこれだとわかった。ショート・フィルムは映画の『未来地図』でもある。若手の映像作家が、自分はどういう映画を創りたいのかということをぶつける場所なんです。10年、20年後に活躍する若い才能が、初めの一歩でどんなことを考えていたのかという『未来地図』が見える」と語り、「また、ここで実験的に取られた手法が、のちに長編映画でも出てくるようになる。まさに、『未来を語る映画の原石』のような部分があるんです」と続けた。

「ルールがないのもショート・フィルムの魅力」と別所さんは言う。「配給が関わってくる長編映画は2時間前後でなくてはならないという傾向があるけれど、ショート・フィルムなら8分の体力しかないストーリーは8分だし、作っていくうちに35分になったら、35分。たとえば、4コマ漫画が長編の漫画に劣るかといったら、それは違って、長さで優劣は決められないと思う」と、例をまじえつつ語った。

 トークは映画祭自体の醍醐味に及ぶ。「映画祭というのは『新しい流れを提案していくこと』」と林ディレクター。「映画を作る人と、お客さんの橋渡しをするのもそうだけれど…」という林ディレクターの言葉を、「映画の作り手同士のブリッジにもなる」と別所さんが引き取る。「俳優同士も、監督同士も、一緒に仕事をしない限りなかなか会う機会がない。映画祭は、作り手同士も知りあえる場所」と別所さん。

 ここで、SSFFの作品から別所さんお薦めのショート・フィルムを上映する予定だったのだが、会場に集まったお客さまの多くが既にその作品をご覧になっていたことが明らかになったため、第9回東京フィルメックスで上映される作品の映像を見ながら林ディレクターが解説をすることに。その後、来年の6月に11回目の開催を迎えるSSFFについて林ディレクターが質問すると、「(コンペティションの応募作が)既に3000本集まっている」と別所さん。それらを年内にスタッフで観て選別し、来年の2月までにプログラムを決定するという。

 最後に、観客からの質問の時間が設けられた。最初の質問は、「映画祭は儲かるのか」というもの。まずは林ディレクターが、「儲かることを目的にはしていないけれど、(フィルメックスを)続けていくために、赤字はまずい。海外からゲストを呼んだり、根本的な活動をしたり、広告を打ったり、すべてのことに日本はお金がかかるので。ひとりでも多くのお客さまに来ていただいて、楽しんでいただきたいし、一緒に熱気を持って、監督たちをお迎えできたときに、『映画の未来』を同時体験できる、というのが映画祭にはある」と話した。別所さんも、「僕自身は完全無報酬のボランティアだし、(SSFF自体も)儲かるか儲からないかといえば、やはり儲からない。ただ、どんなに素晴らしい作品でも誰にも観られなかったら、なかったことと同じになる。『儲け』の話だと、SSFFが20年目の開催になるときくらいには、ショート・フィルムがあたりまえのように売買されていて、ショート・フィルムだけで食べているという映像作家が出てきているのが夢」と語った。

 次は、「プロモーションとして、インターネット配信をしていますか?」という質問。林ディレクターが、「プロモーションという意味ではインターネットを活用しているけれど、新聞やチラシをご覧になる年配のかたや、電話で問い合わせをするかたなど、いろいろなお客さまがいらっしゃる。だから、さまざまな形でプロモーションを届ける工夫をしなければならない、と考えている」と答えた。別所さんは、「プロモーションもそうですけど、(映画祭の模様を配信する)オンライン映画祭をいつかやりたいとは思っている」と話した。

 最後の質問は、「字幕・タイトル・台詞等で、『日本語にして、ばっちりだった』というのがあったら教えてください」という内容。「配給会社は、公開するにあたって全然違う邦題をつけるけれど、映画祭は国際基準的にそうはいかない」と答えた林ディレクターは、第8回東京フィルメックスのコンペティション部門で上映されたハナ・マフマルバフ監督の作品を例に話した。『Buddha Collapsed Out of Shame』という原題の作品を、フィルメックスでは直訳の『ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた』というタイトルで上映した。この作品は日本での配給が決まって、来年の2009年に公開されるが、邦題は『子供の情景』になったという。別所さんは、「(原題と邦題の問題は)永遠の議論でしょうね。もうひとつ、国籍の問題もある。ある監督が、『私の映画の国籍をパレスティナにしてください』と言ったら、(パレスティナは国ではなく)地域だけれど、その監督はそういう思いで作ってるんだとしたら、それを反映してあげるのが映画祭なのではないか」と語った。

 90分に及んだトークサロンは、終始和やかなムードで進んだ。別所さんと林ディレクターの話は尽きず、よい意味での脱線も多く、観客は何度も笑いを誘われながら、それぞれの映画祭の内幕と「映画の未来」について知ることのできる楽しい時間を過ごした。

(取材・文:川北 紀子)

投稿者 FILMeX : 2008年11月19日 22:47


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