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2008年11月29日 トークイベント「映画の未来へ~<「映画」の時間と映画教育>~」

kodomo_1.jpg 11月29日、フィルメックス映画祭のプロジェクトである「えいがのじかん」本年度講師の中江裕司監督と、同じく、来年度講師である篠崎誠監督によるトークイベント「映画の未来へ~<「映画」の時間>と映画教育~」が有楽町朝日ホール11階スクエアにおいて行われた。小学生・中学生を対象にした映画制作ワークショップ<「映画」の時間>での映画制作エピソードとワークショップを通じてみる「映画の未来」への可能性について楽しく語る、和やかなイベントとなった。

<「映画」の時間>プロジェクトは、小学生、中学生を対象とした東京フィルメックス主催の映画制作ワークショップである。第一回となる2008年度は3月8日(土) 15日(土) 16日(日) 23日(日)の4日間、慶應義塾大学三田キャンパス大学院棟にて41名の子どもたちが参加した。ワークショップはストーリー作り、カメラ機材の使い方から始まり、撮影、編集そして父兄を招いてのお披露目上映会という内容となっている。

kodomo_2.jpg 今回の作品のテーマは「愛」。中江監督は「愛以外は撮るな、それだけは強く言いましたね。そこで、子どもは引くわけです。愛って、(子供は)もうすぐエッチなこと想像してしまう。「え~この大人は何を言っているの?」みたいなね」と子どものリアクションが楽しくて仕方がない様子。事務局の岡崎匡さんも「「 テーマは愛です」っていった瞬間に「え~」って言ってましたね。男の子は完全にブーイングでした」と当時を振り返る。
「ところが、そっからが面白くて、子どもって本当はエッチなことに興味があるから、それが入口となり「愛とはなにか」を考え始めて、じゃあそれをどうやったらできるかなみたいに考えていました」。「愛」について自分たちだけで真剣に向き合う子どもたち。大人が手助けすることはない。このプロジェクトには中江監督をはじめ、映画学校のスタッフやボランティアスタッフも参加しているが、映像の使用許可の手続きなどのフォローはするものの、基本的に大人は後ろにいて「見守るだけ」。あくまでも子どもたちだけで制作することが重要と考えているからだ。

ワークショップで出来上がった作品は全部で五本である。
1.ILOVE 十番(ドキュメンタリー 17分)
2.走れ!!発電少女(ドラマ 7分)
3.みなと区の中心で愛を探せ (ドキュメンタリー 18分)
4.竜崎探偵事務所 事件ファイル ~2つのエンゲージリング~ (ドラマ 9分)
5.KISSしておねがい (ドキュメンタリー 16分)

どれも、魅力的なタイトルだ。作品を見た篠崎監督の評価は非常に高い。「とにかく子どもたちの発想がいい。10代の終わりから20代の映画を製作する学生は個人的な話を取り上げることが多いが、それとは全く違っている。子どもたち(の作品)は大げさにいうと「世界と向き合っている」感じがする。」と語る 。篠崎監督はドラマ班が制作した「走れ!!発電少女」をとりあげ、「なぜ、発電少女なのかというのはドラマの冒頭からくっきりと出ている。この発想がいいなと思った。普通、いろいろな経験を積んでくると、めんどくさいからやめようとか、リアリティないよと言っちゃうんだけど、映画の面白さは思いつきを思いつきのまま終わらせないで走っていくことだと思う」と高度な技術は持たなくても、自分たちの発想を形にしようとする子どもたちの姿勢をほめたたえた。
またドキュメンタリー班が制作した「ILOVE 十番」では、あてもなく撮影をスタートしているようにみえたものの、「ある時“パシッ”とスナイパーが狙いを定めるみたいに照準が決まって、そうすると、大人が仕事をするところをきちんと見せて、その人の好きな人はこんな人って、ちゃんとテーマに戻って行くんだよね、あれはすごいなと思った」と子どもたちがきちんとテーマを消化し、作品を描いていることに驚きを隠せない様子。子どもたちの作品はプロの映画監督にとって、大きな刺激となっているようだ。

それでは、ワークショップは実際どのように進められていったのだろうか。
一日目に班分け。中江監督が子供たちの顔を見ながら「直感で」かつ強制的に決定する。班に分かれてから、機材の使い方の説明、ストーリー作り、担当者決めなどが行われる。ここで、驚くべきことに、中江監督から「絶対、公平には扱わない。やりたければ、自分で大きい声で言え」と学校では聞かれない言葉が飛ぶ。作業分担が重要な映画制作の現場ならではの一言だ。「最初にここは学校ではありませんと言った。ここは学校ではないから、なにしてもいいんだよ」と中江監督が説明。学校とは違うワークショップが始まる。
2、3日目は撮影。カメラは実際に子どもたちが回す。「子どもと大人って理解力はほとんど変わらないけど、時間がかかる。通常はそれを待てないから、教えてしまう。(このワークショップでは)そういう我慢を強いられます」と中江監督は語る。大人は手助けしない。あくまで、子どもに自発的にやらせるという、ポリシーが貫かれている。
最終日には、編集、お披露目上映会。「最終日に上映会を子供たち主催してやるんですけど、親は撮影現場に入れないから待たされて待たされて、やっと見れるというときの会場の一体感。すごい幸せな上映会です」子供たちの興奮を思い出してか、中江監督の言葉も熱い。「子どもたちは鼻高々です。前に出て、舞台挨拶をして…いい思いをしたと思う。作り続けてもらわないと困る」と将来の映画製作者達への期待を高める。

kodomo_3.jpg ここで、篠崎監督が子供たちの持つ力について語る。「子どもたちの作品を見ていて思います。「ものを作る」ってこういうことだなと目の前にあるものにちゃんと目を見開いて、しっかり聞いて、じゃあこうしようかと。頭で考える前に手を動かす。子供ってそれが、すごい」中江監督も「判断力すごいからね、町を歩きながら、ドキュメンタリー撮ってる時に警察官撮りに行くからね。それは、おれはできないな」と笑いながら同意し、撮影者が子どもであることの利点についても触れた。「撮っている人との関係性がドキュメンタリーは映ると思うんだけど、むさいおっさんが「キスしてください」っていったら、一発殴られて終わるけど、やっぱり子どもに言われるから、ああいう表情になっていくんだよね」。決して大人では撮ることのできない表情があることを篠崎監督も認める。「最初に子どもたちに映画を作るって話があった時に、大人が作る映画を子どもたちが真似してもしょうがないなと思った。子どもたちにしか作れない映画を作る雰囲気を作らなければならなかった」と中江監督。子どもたちならではの感じ方、行動力は、その時代にしかないもの。その能力への両監督の興味はつきない。

このプロジェクトの意義について、中江監督は「スタッフの問題とか、映画制作における危機感は相当ある。システマティックな作り方を強要されているとか、あまりいい状況ではない。(しかし、)子どもたちと映画を作ってみて、日本映画の(明るい)未来というものを感じた。映画をやっていくやつもいるかもしれないし、やっていかないかもしれないけど、この子どもたちが、この国を良くしていってくれるかもしれない。本当に大袈裟ではなくそんな風に感じました」と述べ、初の試みとなる、<「映画」の時間>プロジェクトに大きな手ごたえを感じているようだ。

来年講師をされる篠崎監督は、来年開催される第二回の<「映画」の時間>について「(今年のワークショップの)精神的なものは受け継ぎたい、そこに、原っぱを作ろうと思っています」と「<「映画」の時間>~原っぱ計画」の構想を明かした。「僕が子どものころは空地がいっぱいあって、そうすると学区の違う子が入り込んで、ちっちゃい子から中学生までくらいの子がみんなで追いかけっこしたりしていました。映画作りはこれに近いものがあると思っています。それぞれにみんな違う技を持っていて、同じじゃない。中江さんもさっき言っていたけれど、みんな公平だとは思わない。たとえば、すべり台をすべりたい子もいれば、喧嘩にならないように並ばせるのが好きな子もいれば、人を早く滑らせるために砂をまき始める子もいる。みんなそれぞれ楽しみたい心の琴線は違う。映画ってそういうもんで、全然違うやつらが集まってきて、盛り上がる。そのテンションは誰一人欠けても違うんです。一期一会で(映画作りの)原っぱを作りたい」公平な世の中ではなく、自分の強みを生かしながら、一人一人がグループに貢献するという「原っぱ計画」ここから、新たな名作が生み出されるのであろう。

次に、会場に来ていた参加者のお子さんに登場していただき、感想などを聞く。ワークショップではドキュメンタリーの制作に携わった彼女。「やってみて面白かった。(知らない人に撮影を)頼むのが緊張したけれど、皆の前で上映した時にはうれしかった」と恥ずかしそうに話してくれた。

<「映画」の時間>で制作された映画はなんと、海を渡っている。ドラマ2本とドキュメンタリー3本をパックにして「It’s time for cinema」の名前でNY子ども映画祭(NY international children’s film festival)にエントリーをしたところ、第一次審査を通過したのだ。2000本あまりの「大人が作った」子ども向け作品に混じって、「子どもたちが作った」作品が健闘している。最終審査の結果は12月初めに出る。良い結果を楽しみに待ちたい。

ここで、終了の時間が迫る。「終わった後にクタクタに疲れるけれど、得るものも多く、楽しい時間を過ごさせていただきました」と充実感たっぷりの中江監督。その精神は篠崎監督に受け継がれ、発展していくのだろう。
来年のワークショップは3月頃の予定。募集は2月頃を予定しており、詳細については東京フィルメックス公式サイトにて告知される。

中江監督はドキュメンタリー『40歳問題』が12月20日よりシアターN渋谷、新宿バルト9他で公開。また、現在編集中だという『真夏の夜の夢』は来年夏、公開が予定されている。篠崎監督は12月6日吉祥寺バウスシアターにて新作が公開される。

(取材・文:安藤文江)

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投稿者 FILMeX : 2008年11月29日 15:00


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