デイリーニュース

TOP<>BACK

2008年11月30日 受賞会見

kaiken_1.jpg 第9回東京フィルメックスの最終日となる11月30日。閉会式に先立ち、国内外のマスコミ関係者が見守るなか、今年のコンペティション作品の受賞会見が行われた。野上照代審査委員長はじめ、レオン・カーファイさん、ソン・イルゴン監督、イザベル・レニエさん、レオン・カーコフさんの審査員全員が出席。野上審査委員長が今年の総括を述べるとともに、受賞作品を発表した。

「最優秀作品賞は『バシールとワルツを』」。野上審査委員長が冒頭から上位作品を発表すると、集まったマスコミからは大きな拍手が沸き起こった。
続けて審査員特別賞の発表に移ると、「変則的ですが」と前置きをした上で、ソヨン・キム監督の『木のない山』と、ユー・グァンイー監督の『サバイバル・ソング』の名前を読み上げた。「いずれも捨てがたく悩みに悩んだ末、(東京フィルメックス始まって以来)初めて2本になった」と説明した。
最優秀作品賞の『バシールとワルツを』について、審査員のレニエさんは「観客に強烈なインパクトを与える大変重要な映画。特に感銘を受けたのは、幻想的なビジョンと史実を交差させる知性と、語りの手法としての音楽の使い方です」と、授賞のポイントを述べた。
また、審査員特別賞の『木のない山』について、野上審査委員長は「2人の子供が成長していく姿がとても感動的だった」とコメント。ソン監督は、『サバイバル・ソング』を「人間が持っているあらゆる感情の真実の顔が見える。人間に対する監督の温かな眼差しを感じる」と評価した。

kaiken_2.jpg 「さすが東京フィルメックス。選び抜いた10本でみな素晴らしいと思いました」と野上審査委員長。また、「ソン監督やカーファイさんらは、日本の若い監督の作品も非常に面白かったと評価していた」という裏話を披露した。
総評に続き、市山尚三・東京フィルメックスプログラム・ディレクターの紹介で、『バシールとワルツを』のアニメーション監督であるヨニ・グッドマンさん、『木のない山』のソヨン・キム監督が登場。会場から大きな拍手が送られた。
まず、グッドマンさんより、受賞の喜びとともに、アリ・フォルマン監督からのメッセージが伝えられた。「この賞を、映画製作中に生まれた私たち関係者の赤ちゃんに捧げたい。この子たちが大人になったとき、この映画を見て『こんなの嘘っぱちでしょう』と言える世の中になることを願っています」
キム監督は、「きょうここで取材があると呼ばれただけで、まさかこんなことになっているとは思いもしませんでした」と驚きを隠せない様子だった。
すでに帰国した『サバイバル・ソング』のユー監督からは、「私は幼いころ、長白山で育ちましたが、そこでは1年にほんの数回ほどしか映画を見る機会がありませんでした。それが本日、映画祭で賞をいただけるとは、本当に感無量です」とのコメントが寄せられた。

kaiken_3.jpg 続く質疑応答では、まず「カーファイさんらは、日本の若い監督の作品の、どのような点が具体的に気に入ったのか」という質問が飛んだ。『ノン子36歳(家事手伝い)』を見て、久しぶりに映画で泣いたというカーファイさん。「単純な理由で気に入りました。俳優の演技が素晴らしかったから。また、私のようにシンプルに作品を楽しむ観客にとっても、ストーリーがとても分かりやすくて面白いと思った」と説明した。また、『PASSION』を「非常に良い作品」と評価したカーコフさんは、続けて「これまで多くの映画を見てきました。どの映画からも、良いところを受け取って、それを自分のものにしていく」と、自分自身の映画に対する見方について語った。
次に、受賞作3本の日本公開について質問が及ぶと、「いま日本で配給してくれる会社を求めているところです」とアピールしたキム監督。「この映画は来年5月から韓国で公開されます。来年4月からは米国で、来年内には英国でも公開が決まっています」という情報を明かしてくれた。

グッドマンさんからも、「どの段階まで話が進んでいるかは分からない」と断った上で、「いま交渉中だが、フォルマン監督からはほぼ決まりだと聞いている」との期待させられる回答が飛び出した。
今回は、中国語圏のマスコミからカーファイさんに、審査員を引き受けた経緯や、最近の金融危機が映画産業にもたらす影響についての意見を問う質問が相次いだ。「この機会を通じて、世界の映画人と交流することができて非常に光栄でした」というカーファイさん。「世の中、日々刻々と変化している。大きく変わる世界の中で、どんどん新しい映画のテーマが生まれてくる。もちろん資金も大切ですが、やはり“心”をもって取り組むことが、映画作りにとってより重要だと思う」と語った。
アニメーション大国といわれる日本において、『バシールとワルツを』が最優秀作品賞に輝いたことを受け、今後のアニメーションの可能性を探る質問も多かった。「さまざまなタイプの映画をアニメーションを通して作ることができる」と言うグッドマンさん。受賞作に限定して言えば、「最初からアニメーションでなければいけないと思っていた。この映画でやりたかったファンタジーや恐怖の部分、あるいは幻影というものを描き出すには、アニメーションという手法でないと上手くいかなかったと思う。まして、アニメーションを使わなければ、これほどのインパクトを観客に与えることはできなかった」と述べた。
審査員からも、「アニメーションというとなんとなく敬遠するのですが、これに関しては格別素晴らしい」(野上審査委員長)、「この映画がもしドキュメンタリーであったなら、私たち観客はこの非常に大きな政治的、歴史的な問題を直視し続けることが難しかった」(ソン監督)等、アニメーションゆえに伝えることが出来た、強烈なインパクトとメッセージ性を評価する声が相次いだ。

「今回の受賞作品には、アニメーション、ドキュメンタリー、フィクションという3つの全く異なるジャンルのものが選ばれた。そのことが、映画の未来の可能性について語っていると思う」というレニエさん。「アニメーションの未来に限らず、むしろ映画自体が形式の多様性、表現方法の多様性の、ある種の爆発を迎えている」と締めくくった。

合評会では審査員全員がほとんど同意見で、受賞した3作品を最終選考に推したという今年の東京フィルメックス。映画の手法の多様化を垣間見るとともに、根底にあるのはやはり作り手の心とメッセージであることを、改めて提示した結果でもあった。


(取材・文:新田理恵)


kaiken_4.jpg kaiken_5.jpg

投稿者 FILMeX : 2008年11月30日 15:00


up
back