11月26日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『ヘアカット』の上映が行われた。髪を少年のように短くした少女の苦い青春を描いたこの作品は、中央アジア・カザフスタンから届けられた。上映後、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターの紹介を受け、成田空港から直接会場に駆けつけたというアバイ・クルバイ監督が登壇すると、会場は温かな拍手に包まれた。
まず市山Pディレクターが、長編第一作となるこの作品を作ったきっかけ、学校にも家庭にも馴染めない十代の少女という題材を選んだ理由について尋ねた。
「私自身はどちらかというと外向的な人間なのですが、こういった内向的な主人公ー自分とは違った性格で、同じ国、同じ時代で同じ空気を吸っているにも関わらず異なった世界に生きる人物のことを描いてみたいと考えたからです。また、現在、カザフスタンは大きな変化のただ中にあるのですが、そのような社会の将来を担っていく、若い世代の人々についての映画を撮りたいと思ったのです」
続いて、会場からカザフスタンの映画界の状況はどのようなものなのか、という質問が寄せられた。「製作本数の面では、たくさんの映画が作られています。しかし、だからと言って決して良い状況ではありません。杏の木にどんどん水をやって育てているけれど、その実を収穫して食べるところまでいっていない。つまり、折角作っても配給・上映のシステムが未整備なのです。良い作品を作っている監督がその後も作り続けられる環境は、残念ながら整っていません」
ヒロインが街を彷徨うなか、バスや路上、工事中のビルなどでさまざまな印象的な人物が代わる代わる登場するが、キャスティングはどのように行われたのだろうか。「この作品以前にも短編映画を何本も作りましたが、役者選びはいつも大変な悩みの種です。街で、役に合うと思った人に声をかけて出てもらいました。ヒロインについては、アシスタントに候補者探しをしてもらいましたが、なかなか見つかりませんでした。しかし、私の母校でロケハンをしている時に近寄ってきた女の子を見て、ああ、この子でなければダメだ、と感じました」。監督にそう言わしめるほど、大きな瞳のヒロインが見せるささくれた表情は、全編を通じて深く心に刻まれる。
最後の質問は、「映画の中では随分寒いところのように見えたが、カザフスタンはどのような気候なのか」というもの。
監督は「寒そうな印象を受けたかもしれませんが、カザフから来た私はあったかいハートの持ち主ですよ」と微笑んだ。「カザフにも四季があり、この作品を撮ったのは冬の終わり。敢えてその季節を選んだのは、積もった雪が溶けかかって路面が濡れ、街がいちばん汚れて見えるからなんです。冷たく寒々とした景色が、ヒロインのすさんだ心に重ね合わせられています」
長旅の疲れも見せず、全ての質問に丁寧に答えたクルバイ監督。『ヘアカット』のヒロインを待ち受ける運命は厳しいが、監督の視線はあたたかい。そんな人柄を感じさせるQ&Aとなった。
(取材・文:花房佳代)
投稿者 FILMeX : 2008年11月26日 19:00