11月27日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『木のない山』が上映された。母親に見捨てられた幼い姉妹が前向きに力強く生きていく日々を描いたこの作品は、韓国に生まれ、現在はアメリカに在住するソヨン・キム監督の長編第2作目。上映後、温かい拍手が沸いた会場のステージには、キム監督とプロデューサーのブラッドリー・ラスト・グレイさんが登場し、和やかな雰囲気のなかQ&Aが行われた。
この作品で映像として印象に残るのが、クローズアップによる子供たちの表情。そこで「どうやってこんなに自然な子供たちの演技を撮ることができたのか」とまず林 加奈子東京フィルメックスディレクターが質問。キム監督は「映画作りではキャスティングが大事だと思っている」と話し、姉役の子供はソウルの学校を15校くらいまわって見つけ、妹役の子供は韓国のスタッフがソウル近くの孤児院で見つけたことを明かした。また、子供たちの撮影の仕方としては「日常の生活感をコンセプトとし、彼女たちにリラックスして撮影に臨んでもらうために、それぞれのシーンをゲームのように楽しめるよう苦心しました。事前にセリフは一切覚えさせず、フレームの外からその都度『次はこう言って』とセリフを耳で覚えさせ撮影していきました」と語った。
続いて、客席から「なぜこのような映画を作ろうと思ったのか。作品の中に『アルプスの少女ハイジ』の話がでてくるが、韓国国内やまた監督自身にもなじみのある話なのか」との質問が飛ぶと「自伝ではありませんが、この映画のストーリーは、私の個人的な経験からできています」とキム監督。『ハイジ』については、韓国でも有名な童話であり、監督自身も知っていたが、今回は妹役の子供が孤児院からその本を持ってきたことが映画につながったとした。
年配の男性客は映画の時代とタイトルについて質問した。それに対してキム監督は「時代は70年代後半から80年代初頭を考えました。撮影場所は、私の故郷の町ですが、そこに戻ってみたら、その時代から様子が変わっていなかったことも影響しています」とした。またタイトルについては「企画の当初から決めていました。通常だとストーリーを展開するなかでタイトルも変わっていくことが多いのですが、今回は不思議と変わりませんでした。しかし映画が出来上がって何度も見るたびに、私自身タイトルのとらえ方が変わるような気がします。みなさんもそれぞれの思いでタイトルを考えてみてください」と語った。
さらには、特別招待作品『ベガス』のアミール・ナデリ監督からも手が挙がり「魔法のような映画。テンポ、リズムが素晴らしい」と称えたうえで、音楽の使い方について質問した。キム監督は「当初は友人たちに脚本を読んでもらい、どういう音楽をつけようかと検討していました。しかし、40時間の編集作業において映画の声に耳を傾けていくと、この映画があまり音楽を必要としてないのではないかと考えました」とあくまで作品に登場する姉妹の存在や映像の力を重視したこと明かした。
最後の質問として女性から「監督はどのように映画の勉強をしてきたのか」と聞かれると「私は映画学校ではなく美術学校に行ったので、学校で映画について学んではいません」とキム監督。しかし、プロデューサーであり、映画監督であり、パートナーでもあるブラッドリーさんが映画を作るときに、プロデューサーとして参加し、録音技師やドライバーなどの役割もこなしながら実践的に映画の撮り方を学んでいったと語った。
ブラッドリーさんからは、この映画がアメリカ、韓国、イギリスでの配給が決まったことが伝えられると、林ディレクターは「日本ではまだ決まっていないので、前向きにご検討ください」と会場の関係者に願った。会場からも日本での配給を求めるような大きな拍手が沸き、『木のない山』のQ&Aは終了した。
(取材・文:田中美和)
投稿者 FILMeX : 2008年11月27日 19:00