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2008年11月27日 『バシールとワルツを』Q&A

bashir_qa_1.jpg 11月27日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『バシールとワルツを』が上映された。“サブラ・シャティーラ事件”と呼ばれるパレスチナ難民の大量虐殺を引き起こしたレバノン戦争の記憶を掘り起こそうとするこの作品は、ドキュメンタリーをアニメーションで再現するというユニークな試みがなされている。上映後に、アニメーション監督のヨニ・グッドマンさんによるQ&Aが行われると、「アニメーションに興味がある」という観客から熱心な質問が相次いだ。

「イスラエルからこのような長編アニメが生まれるのは、1962年の作品に次いで2作目のこと。日本というアニメーションの伝統のある国に来ることができてとても光栄です」と挨拶したグッドマンさん。またこの映画は今回来日できなかった「アリ・フォルマン監督のもの」とし、「監督自身が戦争を経験し、戦場には英雄はなく、ただ戦闘員として人々がいるだけだったこと。その多くが恐怖を抱えた若者だったことなど、この映画を通じて戦争のむごさを伝えようとしています」と語った。

まず、市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターからドキュメンタリーをアニメーションにした今まであまり例のない映画を作った経緯について問われると、グッドマンさんはフォルマン監督が通常は実写映画の監督であることを述べた上で、テレビドキュメンタリーシリーズで、エピソードの前に短いアニメーションをつける仕事をした時に「恐怖や幻想をありのままに伝えるにはアニメーションは最適なツール。戦争体験の長編映画でアニメーションを使いたい」と監督から相談を受け、有意義なコラボレーションにつながったことを明かした。

bashir_qa_2.jpg 客席に質問を求めると、アニメーションの手法に興味あるという男性が「アメリカ映画の『スキャナー・ダークリー』のようなものを想像したが違った。ドキュメンタリーをアニメーションにしたというが、実際の人間よりも動きを簡略化したのはなぜか」と尋ねると、グッドマンさんは「『スキャナー・ダークリー』はロトスコープというビデオの上に絵を描く技術を使っていますが、この作品はカットアウト(切り絵的なもの)の技術を用いています。伝統的なアニメーションの手法であれば200から300人のアニメーターを起用し巨大な予算を使うところです。しかし、イスラエルでの制作のため、カットアウトの技法を用い10人で作りました。カットアウトはその特徴から画を単純化せざるを得ないのですが、技術の欠陥ともいえる部分を独特でスタイリッシュな映像に結び付けることができたのではと考えています」と語った。

続いて外国人の観客から「イスラエルではまだ戦争が続いているが、この作品に対してどのような反応を見られたのか」と質問されるとグッドマンさんは「当初は政治的であったり、あるカテゴリーの映画という見方をされるかもしれないと思っていたがそうしたことはなく、戦争がすべての人に大きな影響を与えるという、こちらが伝えたいことは伝わったように思う」と語った。また「この映画が作られることで何か変わることになるか」という質問に対しては「人々の心を変えることになればいいがそれはわかりません」としながらも、この映画を見た元兵士たちが監督や自分のところにやってきて戦争について語り始めたエピソードを挙げた。
また「異なる時間や場所で起こったシーンを断片的に見せていったのはなぜか」という質問については「これは監督が自身の記憶を辿り、そのパズルのような記憶を組み合わせていく過程を描いている」と語った。

観客の多くが上映後もそのまま残りQ&Aに耳を傾けていた。この作品がそれだけ見る人に何らかの衝撃を与えたということだろう。なお『バシールとワルツを』はシネカノン有楽町1丁目にて11月29日(土)21:15より再度上映される。


(取材・文:田中美和)


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投稿者 FILMeX : 2008年11月27日 22:00


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