11月29日、コンペティションの一本として上映された『ショーガ』のQ&Aが開催され、プロデューサーのリマラ・ジェクセンバエワさんが駆けつけた。本作はダルジャン・オミルバエフ監督が文豪トルストイの名作「アンナ・カレーニナ」を映画化した作品で、急激な変化を続けるカザフスタンの社会を背景に、家庭のある女性が愛を見つけ年下の男に走る姿とその後の悲劇を描いている。
まず、市山Pディレクターが主演で家族を想いながらも愛を選ぶ女性を演じたアイヌール・トゥルガンバエワさんについて尋ねた。『ザ・ロード』に続いてオミルバエフ監督作品には2本目の出演となる彼女だが、実はプロの役者ではないという。「オミルバエフの撮っている映画は基本的にはプロは扱っていません。ブレッソンみたいなのです。初期の作品ではプロの俳優を使っていますが、後の作品はほとんど素人の俳優さんを使っています」
ロベール・ブレッソンは芝居がかった演技を嫌い素人を起用する事で有名な監督だが、どう影響受けたのかという質問も寄せられた。
「映画に対しての考え方、主人項のありかたに現れていると思います。ブレッソンの映画では主人公は演技をせずそこに存在するだけです。その間ショットの中に動いて存在する主人公というものの連続によって映画が出来上がっていきます。まさにそういう映画作りや映画についての考え方、それはブレッソンからきていると思います」
また、音楽をほとんど使わない手法や上映時間の短さの理由、全てを語りきらない断片的なシーンの意図が知りたいという質問も飛び交い、「良い質問ですね」と言い置いてジェクセンバエワさんはひとつひとつ丁寧に答えた。
「確かに音楽はほとんど使われていません。彼にとって映画は、そこに形あるイメージと音というものからできています。そこに映っている物がたてる音、人物の囁き声、そういったものが重要な構成要素なんです」
原作が長編小説なのに対し、88分という尺の短さも監督の意図だと続ける。「ダルジャンは、物語のあらすじを借りるだけで端から端まで全て映画化する必要はないと考えていました。彼の映画は少し分かりにくいですが、それは全てを説明しつくすような形ではないからです」そして、そうやって表現されるシーンは俳句のようなものでもあると最後に解説してくれた。「例えば松尾芭蕉の俳句のようなものがあります。イメージを並べていく事によって長い文章でも伝えられないような事を伝えられています。そういう事を目指しています」
「私にとって最終目的というものは、スタイルであって内容ではありません。鑑賞の質にあって観客の数ではありません」とは上映前にジェクセンバエワさんが伝えたオミルバエフ監督のメッセージだ。会場には作品について熱心な続き、そういうオミルバエフ監督の気持ちが伝わったようなQ&Aとなっていた。
(取材・文:中村好伸)
投稿者 FILMeX : 2008年11月29日 14:00