第60回カンヌ国際映画祭 レポート

 今年で第60回を迎えたカンヌ国際映画祭が、5月27日に閉幕した。コンペティション部門では、ルーマニア映画「4ヶ月、3週間と2日」がパルムドール(最高賞)を獲得、次席のグランプリには日本の「殯(もがり)の森」(河瀬直美)が輝いた。節目を記念する数々のイベントで、話題に事欠かなかった映画祭をリポートする。
 映画祭の花形であるコンペ部門には、各国から22作品が集められた。パルムドール受賞経験者が何人も参加する中で、映画祭2日目に登場して話題をさらったのがルーマニアの俊英・クリスティアン・ムンジウ監督だ。妊娠した女子学生が違法な手段で堕胎を試みるという衝撃的な内容で生命の尊厳を問うた、長編劇映画2作目。審査員たちからも最高賞の栄誉を得た。
 3度目のカンヌ参加となった河瀬直美の「殯の森」は、コンペ最終上映。妻の死を受け入れられない老人と、子どもを亡くした若い介護士が、老人の妻の墓参りのために森に分け入る。殯とは、古来の倭言葉で、本葬に移すまでの間、遺体を安置する場所や行為のことを言う。2人が深い森の中で、次第にそれぞれの愛する人の死を受け入れる過程を圧倒的な映像美と緊張感あふれる演技で描き出した。
 その他のコンペ各賞も、比較的製作本数が少ない若手の監督たちの作品が受賞を重ねた。一方でコーエン兄弟や、ウォン・カーウァイ、エミール・クストリッツァなどは各々の実力を示したものの無冠に終わり、ベテラン勢の中ではガス・ヴァン・サントが60回記念賞を受賞。これは、映画監督のスティーブン・フリアーズ率いる審査員団が、これからの新しい才能の可能性に賭けた結果と言える。
 コンペの他に注目を集めたのは、競作オムニバス「To Each His Own Cinema」だ。ケン・ローチやホウ・シャオシェン、ナンニ・モレッティなど各国の巨匠33組が映画館をテーマとした3分の短編を製作。日本からはただ1人、北野武監督が「素晴らしき休日」で参加、満場の観客の笑いを誘った。それぞれにおいて作家の個性が十二分に発揮され、カンヌが独創的な監督たちを意欲的に発見して、紹介を続けてきた底力がこの1つの映画の中に示された。なお、「素晴らしき休日」のみ、北野監督の最新作「監督・ばんざい!」の公開時にあわせて上映される。
 映画祭が果たすべき使命は多いが、今年のカンヌに参加して筆者が強く感じたことは、映画祭は作家を育てるということである。河瀬監督は会見で「カンヌが私を育ててくれた」と感謝の念を込めて語った。若手に与えられた賞の数々は、今後その結果が証明されていくことになろう。「大日本人」の松本人志監督は、賛否両論の激しい反応に驚きを受け、それだけに次回作への意欲とも思われる発言を残した。北野監督は「『HANA-BI』のベネチア映画祭での金獅子賞以来、10年をかけてようやくここまでたどり着けた」と感慨深く振り返った。「映画の授業」を行ったマーティン・スコセッシは、「情熱とクレイジーさをもって製作に努めて欲しい」と若者たちを励ました。
 人間で言うところの還暦を迎えようとしているカンヌ映画祭は、伝統と格式を誇りながらも、新しい映画と才能を迎え入れ続け、若々しさを失わない。
(報告者:岡崎 匡) *公明新聞(2007年6月2日)に掲載された記事を転載

中国映画の全貌2007 開催!

中国映画ファン、アジア映画ファンにとっておなじみの好評企画「中国映画の全貌」が今年も7月21日から8月31日の日程で開催されます。
今回は新宿のケイズシネマに会場を移して、新旧の注目作品全74本が上映されます。
この中には過去の東京フィルメックスでもプレミア上映された作品が7本、並んでいます。
この機会にぜひご覧ください!
■ロゥ・イエ監督
「ふたりの人魚」(7/31 18:30, 8/21 16:30)
■ワン・グァンリー監督
「イチかバチか-上海新事情」(8/2 16:05, 8/26 20:10)
■ジョニー・トー監督
「エレクション」(7/28 16:05, 8/3 13:40, 8/6 18:30)
「PTU」(8/3 18:30, 8/6 16:05, 9/6 14:30)
■ジャ・ジャンクー監督
「プラットホーム」(8/4 13:40)
「青の稲妻」(8/4 16:55)
■チャン・ユアン監督
「ただいま」(8/22 19:20, 8/31 11:00)
*上映作品、スケジュールは公式サイトでご確認ください。
<新宿ケイズシネマ 公式サイト>

第8回チョンジュ国際映画祭 レポート

チョンジュ(全州)国際映画祭は今年で8回目を迎えた。いまやアジアを代表する国際映画祭となった感のあるプサン映画祭が昨年10月で11回目の開催を迎えたわけだから、その約3年後のスタートだったわけだ。また、同映画祭は長編・短編合わせて約200作品の映画を上映する比較的規模の大きな映画祭で、おそらくはプサンに次いで、総合的な映画祭としては韓国国内で2番目に大きな映画祭なのではないかと思う(ちなみにジャンル映画の映画祭としては、プチョン国際ファンタスティック映画祭という大規模な映画祭がある)。
最初からプサン映画祭との関連の話から始めたのには、ある程度必然性がある。というのは、チョンジュ映画祭のプログラムは実際に、プサン映画祭のプログラム内容に大きく左右されているからだ。理由は単純で、チョンジュ映画祭は作品の国内でのプレミア上映を重視しているからであり、それ故、事実上多くの作品出品者がプサン映画祭の方にプライオリティを置いている現状では、「プサン映画祭で上映されなかった映画」を上映する映画祭という立場に、自らを置かざるをえないのである。もちろん、そうは一言で言っても様々なケースがあることは確かで、例えばプサン映画祭の作品選定後に完成した作品がチョンジュでプレミア上映されることはままあるし、また、見方によってはどんな映画祭でも、多かれ少なかれ「他の映画祭で上映されなかった映画」を上映しているものではあるのだけれども。
ただもちろん、同じ韓国国内に、国内のみならずアジア全域に、あるいは世界的にも影響力を持つに至ったプサンのような映画祭を持つ事の意味は、それ以上に大きいことは間違いない。というのは、国内的にも国際的にも、プサンとの差別化を図り、何らかの独自性を表現するということが、そもそもの最初からチョンジュに課せられた非常に難しい命題だったのであり、そのことは、チョンジュがこれまで描いてきた軌跡を辿ってみれば、それなりに明らかであるからだ。
結論から先に言えば、差別化、あるいは独自性のためにチョンジュが採った、あるいは採ってきた選択肢は、よりハードコアな方向へと舵を切る、ということだったと言っていい。つまり具体的にいえば、よりインディペンデントな映画を支援するという方向性だ。そしてそれを含む形で打ち出されたのが、デジタル映画の可能性を開拓するという方針であり、それを最も端的に表現している企画が、国際的にもよく知られている「三人三色」である。この企画は既にこれまでにも一定以上の成果をあげていて、傑作として知られる2004年のポン・ジュノの作品をはじめ、すでにアジアの名だたる監督たちがデジタル短編作品を同企画のために寄せてきており、8回目を迎えた今年は、ついにアジアを離れ、ヨーロッパからハルン・ファロッキ(オランダ)、ペドロ・コスタ(ポルトガル)、ウジェーヌ・グリーン(フランス)という3人の監督が迎えられることとなった 。
ただ、未だに試行錯誤の中にあるのは、映画祭のメインプログラムである国際コンペティション部門だろう。この部門(と韓国映画の特集部門)が、映画祭の旗印たる「インディペンデント映画の支援」という理念を最も象徴すべき部門であることは間違いなさそうなのだが、理念の明確さと比べて、肝心の内容の方の焦点がやや不明確であり、その辺りが、幾度にも渡る当部門の再編成という結果となってあらわれているのではないかと思える。今年に関しても、これまで続いてきた「Digital Spectrum」というデジタル映画のコンペティションが廃止され、国際コンペ部門が従来の2部門から1部門となるなど、大きな変化が施されていた 。
また、海外から訪れる観客にとって、この種の映画祭の魅力的な点は、韓国映画の新作をまとめてショウケース的に観ることができるということかもしれない。そして、その意味では、国内のインディペンデント作品を対象にした「Korean Cinema on the Move」という既存部門の新たなコンペティション化は、そうした部分への注目をさらに高めたいという映画祭側の意欲の表れだとも受け取れる。ただ、国際的に訴求力のある作品はそれよりも先に海外の映画祭、あるいはプサン映画祭などに出品されていることが多い現状では、同部門の作品の質を国際的な基準で維持するのは並大抵なことではない。そしてそのことは、今回に関しても、ある程度明らかになってしまったともいえる。しかしながら、これに関しては、継続して努力をしていく以外に方法はないのかもしれない。
それから、言うまでもないことだが、映画祭の大切な仕事の一つには、映画史的な過去の作品に再び光を当てるということがある。そして、その意味で、今年行われたイギリス人映画作家ピーター・ワトキンスのレトロスペクティブは、実に素晴らしい仕事だったといえる。中でもやはり白眉だったのが、ノルウェーの画家エドワルド・ムンクの生涯を描いた『Edvard Munch』(邦題『ムンク 愛のレクイエム』)で、ワトキンスの作品によく見られるフェイク・ドキュメンタリー的な手法と従来的なフィクションの作法が高度に融合され、非常にユニークな、そして魅惑的な世界を現出せしめた濃厚な傑作だった。また、フェイク・ドキュメンタリー的な手法を駆使して痛烈な社会批判を行うワトキンスの本流とも言える作品群の中では、”Punishment Park”という架空の場所を通じて国家による暴力を比喩的・寓話的に描いた『Punishment Park』が、強く印象に残っている。
加えて、今回「三人三色」で招聘されたハルン・ファロッキやアルメニアの映像・映画作家アルタヴァスト・ペレシャンの特集上映、あるいはミッドナイト上映でのジョン・ウォーターズや押井守の小特集など、今年のチョンジュの回顧上映は、昨年のインドの巨匠リティック・ゴトクの特集上映に引き続き、著しい充実度だった。また、この映画祭に特徴的なことの一つに、観客の層が非常に若いということがある。事情を聞けば、映画を勉強する大学生等がソウルやプサンなどからも団体で駆けつけて来ているのだという。また、チョンジュという比較的小都市で開催されていることもあり、野外での無料上映や音楽バンドによるコンサートなど、地域社会のイベントとしても定着している様子が伺える。まだまだ試行錯誤が続く部分もあるかもしれないが、少なくとも「プサンで上映されなかった映画」を上映する映画祭、という以上の存在になれる地盤は、十分に整いつつある。
(報告者:神谷直希)

ジャ・ジャンクー監督「長江哀歌」が日本公開されます。

昨年の東京フィルメックスのオープニング作品「長江哀歌(エレジー)」(原題:三峡好人)が、8月よりシャンテ・シネを始めとして全国順次公開されます。
映画祭では、オープニング・セレモニーが行われた国際フォーラムを満場の観客が埋め尽くしました。その前で、ジャ・ジャンクー監督と主演女優のチャオ・タオさんが舞台挨拶と質疑応答に応えてくださった模様は、下のデイリーニュースやブロードキャストで見ることができます。
ヴェネチア映画祭の金獅子賞(最高賞)を本作品で獲得して、どこかそれまでよりも風格を感じさせていた監督でしたが、謙虚な姿勢はいつもと変わらなかったのが印象的でした。変わりゆく街をとらえた圧倒的な映像美と深い人間洞察は観客からも熱狂的に迎え入れられて、映画祭の華々しい幕開けを飾っていただきました。
また、映画祭期間中にMARUNOUCHI CAFEにて行われたトークショーでは、とても興味深いお話がたくさん飛び出しました。特に監督が映画を目指すことになった時に、お父様と交わした会話や、ダンスの先生だったチャオ・タオさんが映画に出演することになったきっかけなど、その状況ひとつひとつが映画の一場面のようなお話でした。
<ビターズ・エンド公式サイト>
<「長江哀歌(三峡好人)」舞台挨拶@第7回東京フィルメックス>
<「長江哀歌(三峡好人)」Q&A@第7回東京フィルメックス>

<「長江哀歌(三峡好人)」動画レポート@第7回東京フィルメックス>
<「アニエスベー Director’s Talk@MARUNUCHI CAF?
 ジャ・ジャンクー監督を囲んで」テキスト>

<「アニエスベー Director’s Talk@MARUNUCHI CAF?
 ジャ・ジャンクー監督を囲んで」動画レポート>

「日本クラシック、海外発信中!」が盛況のうちに終わりました

映画をめぐる、今年の世界の動向を大きく左右する一大イベント、カンヌ国際映画祭が閉幕しました。日本から唯一、コンペティション部門に出品されていた「殯(もがり)の森」(河瀬直美監督)がグランプリを獲得したことは、報道でも大きく取り上げられた嬉しい出来事のひとつでした。
ちょうどカンヌでの授賞式が行われている頃、東京では第8弾となった英語字幕付き上映会「日本クラシック、海外発信中! Rediscovery of Japanese Cinema」が盛況のうちに3日間の会期を閉じました。
今回は新しい会場に場所を移し、海外で評価されている日本映画の名作を、新しい視点で観なおす機会となりました。平野共余子さんによる講演も、実際に体験された豊富なエピソードを多く交え、とても興味深いお話となり、詰めかけた聴衆も静かに聴き入っていました。
多くのお客様にいらしていただけましたこと、この場で深くお礼を申し上げます。

いよいよ開幕! 第60回カンヌ国際映画祭

5月16日より、カンヌ国際映画祭が始まります。
東京フィルメックスのスタッフも作品選考などのために現地に入ります。
J-WAVEでは市山尚三プログラム・ディレクターによる現地リポートが放送されます。
どうぞ、お聴き逃しなく!
J-WAVE(FM81.3) 「MODAista」
5月19日(土)11:00-15:00
*放送内容、時間は変更される場合があります。

第60回カンヌ国際映画祭コンペティション部門ラインアップ

 今年で60回の節目を迎えるカンヌ国際映画祭が、5月16日から27日まで開催される。
 もっとも注目を集めるコンペティション部門では、過去にカンヌやベネチア、ベルリンなどでの受賞実績のある巨匠や人気監督がすらりと並び、そこに気鋭の若手が挑む。
 コンペティション部門は、全22本(他、コンペ外1本)。
 このうち、昨年の同映画祭で審査委員長を務めたウォン・カーウァイの「My Blueberry Nights」はオープニング作品として上映される。主演にジュード・ロウと歌手のノラ・ジョーンズを迎え、全編を英語で撮影した野心作だ。
 史上初の3度目の受賞を狙うエミール・クストリッツアの他、クエンティン・タランティーノ、ガス・ヴァン・サント、コーエン兄弟などパルムドール経験者が並ぶ。
 三大映画祭常連のキム・ギドクは、意外にもこれが初めてのカンヌ映画祭コンペ参加となる。同じ韓国からは「オアシス」でベネチア映画祭の監督賞や新人俳優賞(ムン・ソリ)に輝いたイ・チャンドンが五年ぶりの新作「Secret Sunshine」で臨む。
 アレクサンドル・ソクーロフは、「Alexandra」で五度目のコンペ参加となる。
 コンペ初参加組の中では、ハンガリーの鬼才タル・ベーラによる「The Man From London」や、第5回東京フィルメックスで「アヴァニム」が上映されたラファエル・ナジャリの「Tehilim」も注目だ。
 日本からは、河瀬直美の「殯(もがり)の森」(6月公開予定)が上映される。10年前に「萌の朱雀」でカメラドールに輝き、一躍世界の注目を集めることになった縁起のよい舞台で、再びの栄光を目指す。コンペティション上映作品の中でも、最後の上映となる。
 これらの作品を審査するのは、「クイーン」でヘレン・ミレンをアカデミー賞最優秀主演女優賞に導いたスティーブン・フリアーズが審査委員長を務める9人の審査員。
 他には香港のマギー・チャン、オーストラリアのトニー・コレット、カナダのサラ・ポーリーなど、女優が目立つ顔ぶれとなっている。
コンペティション部門のラインアップ(短編、学生映画部門は除く)は以下の通り(07年5月14日現在)。
◇オープニング
My Blueberry Nights(ウォン・カーウァイ)香港
◇クロージング
The Age of Darkness(ドゥニ・アルカン)カナダ *コンペ外上映
◇コンペティション
An Old Mistress (Une Vieille Maitresse)(カトリーヌ・ブレイヤ)フランス
The Love Songs (Les Chansons d’amour)(クリストフ・オノレ)フランス
The Diving Bell and the Butterfly(ジュリアン・シュナベール)フランス
Auf Der Anderen Seite Des Lebens(ファティ・アキン)トルコ
Breath(キム・ギドク)韓国
No Country for Old Men(ジョエル&イーサン・コーエン)アメリカ
Zodiac(デビッド・フィンチャー)アメリカ
We Own the Night(ジェームズ・グレイ)アメリカ
殯の森(河瀬直美)日本
Promise Me This(エミール・クストリッツァ)セルビア
Secret Sunshine(イ・チャンドン)韓国
4 Months, 3 Weeks and 2 Days(Cristian Mungiu)ルーマニア
Tehilim(ラファエル・ナジャリ)フランス
Silent Light(カルロス・レイガダス)メキシコ
Persepolis(Marjane Satrapi and Vincent Paronnaud)フランス
Import/Export(ウルリッヒ・ザイドル)オーストリア
Alexandra(アレクサンドル・ソクーロフ)ロシア
Death Proof(クエンティン・タランティーノ)アメリカ
The Man From London(タル・ベーラ)ハンガリー
Paranoid Park(ガス・ヴァン・サント)アメリカ
The Banishment(アンドレイ・ズビャギンツェフ)ロシア
◇コンペティション審査員
スティーブン・フリアーズ / 審査委員長 / 英国、監督
マギー・チャン / 香港、女優
トニー・コレット / オーストラリア、女優
マリア・デ・メディロス / ポルトガル、女優・監督
サラ・ポーリー / カナダ、女優・監督
マルコ・ベロッキオ / イタリア、監督
オルファン・パムク / トルコ、作家
ミシェル・ピコリ / フランス、俳優・監督
アブドラマン・シサコ / モーリタニア、監督
以上
<第60回カンヌ国際映画祭 公式サイト>

大好評のうちに終えた、04年の英語字幕付き上映会

 第1回の英語字幕付き上映会は、2004年の6月25日~27日の3日間にわたり行われました。
 特集タイトルは「日本映画の巨匠と女優たち」(Masters of the Japanese Cinema)。1930年代-50年代の日本映画の傑作6本をお届けしました。
 初めての試みだったので、お客様にいらしていただけるのか、そして上映をご覧になった反応は、と期待と不安とが入り混じった心境で迎えた上映でしたが、結果は1,185名のお客様にいらしていただくことになり、大成功を収めました。また、外国人のお客様の割合も非常に多く、特にアンケート回答の中には、熱のこもった感想を寄せていただいた方もたくさんいらして、次回以降のシリーズ化へと大きな弾みとなりました。
 特に黒澤明監督の「白痴」と「醜聞」はニュープリントでの上映ということもあって、想定を大幅に上回る方が詰めかけたため、急遽、椅子を増やして対応するという一幕もありました。
 この第1回では、映画批評家、映像作家であるドナルド・リチー氏(第5回東京フィルメックス審査委員長)をお迎えして、溝口健二の「浪華哀歌」の解説を中心に、日本映画の海外での紹介の状況などを講演いただきました。その模様は、この「事務局だより」でも採録してありますので、ぜひご覧ください。
<日本映画の巨匠と女優たち(日本語サイト)>
<Masters of the Japanese Cinema (English)>
<ドナルド・リチー氏 講演採録(日本語)>
<Lectured by Donald Richie (English)>

英語字幕付き 日本映画上映会について

 先日お伝えしました、英語字幕付きの上映会についてのお話です。国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、その名の通り、様々な活動を通じて国際交流の推進を行っています。その中には映画を活用した文化交流ももちろん含まれています。先日、赤坂のOAGホールで開催された「アラブ映画祭2007」もそのひとつです。
 「アラブ映画祭」などは、外国の文化を日本に紹介する活動ですが、その対流、日本映画の秀作を海外に紹介する活動も行っています。英語字幕を中心に、フランス語やスペイン語の字幕などの上映プリントを制作、海外での巡回上映に供しています。
 その中には、東京フィルメックスで特集上映された監督のプリントも含まれています。2003年の第4回で特集上映された清水宏監督の作品「恋も忘れて」「小原庄助さん」「母情」「しいのみ学園」や、04年の第5回での内田吐夢特集の「血槍富士」「妖刀物語 花の吉原百人斬り」「人生劇場飛車角と吉良常」、05年の第6回の中川信夫特集では「エノケンのとび助冒険旅行」「私刑」「さすらいの旅路」「毒婦高橋お伝」「亡霊怪猫屋敷」などが、国際交流基金所蔵のプリントでした。これらのプリントや、東京国立近代美術館フィルムセンター、川喜多記念映画文化財団が所蔵しているプリントがあって、東京フィルメックスの特集上映が実現しているのです。
 ただ、東京フィルメックスのような一部の映画祭での上映をのぞけば、国際交流基金が所蔵している英語字幕付きの映画が、日本で上映される機会は非常に少なかったのが現実です。そこで、日本に在住する外国人にも日本映画の傑作の数々に触れていただこう、と企画されたのがこの英語字幕付き上映会「The Japan Foundation Film Series」でした。
 04年6月の第1回以来、大変な好評をいただいて続けてこられました。次は、これまでの上映会を振り返ってみたいと思います。