8月6日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて「『二十四の瞳』親子鑑賞会」が開催された。小豆島の分教場を舞台に、大石先生と子どもたちの心あたたまる交流と戦争の悲劇を描いた永遠の名作だ。監督は今年生誕100年を迎える木下惠介。参加したのは杉並第一小学校PTAの呼びかけで集まった児童と保護者のみなさんで、中には祖父・母・子どもの三世代で来場した家族も。
夏休みが始まって約2週間、久しぶりに学校の友達と再会した子どもたちの元気な笑い声で、ロビーは賑やかな雰囲気に包まれた。
上映に先立ち、杉並第一小学校PTA会長の高橋由美さんが挨拶に立った。
「今日これから見る『二十四の瞳』は、子どもたちが戦争や貧困の犠牲になってしまう、それをどうすることもできない…そういう時代のお話です。でも、美しい自然や、先生や子どもたちの思いやりといった心の豊かさがたくさん出てきます。今日はこの映画を見て、戦争や貧困のこと、また心をどのように持って生きていけばいいか、そんなことを家族で考えるきっかけ作りになればいいなと思っています」
くしくも、広島に原爆が投下されてから67年目となるこの日。司会の岡崎 匡さんが子どもたちに「今日は何があった日か、知っていますか?」と呼びかけると、すぐに客席の子どもたちから「原爆の日!」という声が上がった。「この映画の中には、直接原爆のことは描かれていません。でも、戦争はいやだ、平和は素晴らしい、という強い願いがいっぱい込められています」と岡崎さん。
「この映画には、みなさんと同じ年頃の子どもたちが出てきます。自分たちと比べてどうだろう、なんてことを考えながら見てみてください」と岡崎さんが呼びかけ、上映が開始。156分と長時間の上映にも関わらず、子どもたちは最後まで集中して鑑賞していた。ラストシーンには、すすり泣く声も聞こえた。
上映後、子どもたちが映画について知ったことや感想をまとめられるよう配布された「しおり」を使いながら、作品についてのレクチャーが行われた。
1年生の頃の生徒たちと、成長した6年生の頃を演じた子どもたちは、それぞれそっくり。二つの時期を描くために、「子どもたちは、顔の似ている兄弟姉妹で選ばれました。だから、そのまま大きくなったようにそっくりなんです」と説明されると、会場からは意外な事実に感心した声が上がった。
『二十四の瞳』の公開は1954年。小学生の子どもたちにとっては遠い昔だが、その頃の状況を知るために近い時期でデータの残る<1958年の、映画館の総来場者数は何人でしょうか?>とクイズが出題された。ちなみに2010年の映画館への来場者数は1億7435万人。客席の子どもたちからは「テレビがなかったから、今より2倍くらい多いんじゃないかな?」という声。正解は、6倍以上の11億2745万人。「映画が最高の娯楽だった時代に大ヒットし、観客だけでなく批評家からの絶賛を集めたのがこの作品です」と岡崎さん。
その他、作中の時代背景や、監督の木下惠介、主演の高峰秀子についての説明に、子どもたちはしおりに書き込みしながら、熱心に耳を傾けていた。
最後に、来場していた杉並第一小学校の鈴木校長が登壇。「戦争が激しくなっていく頃の物語ですが、そんな時代の中で一生懸命生きてきた人々に思いをはせて、おうちに帰ってからも家族のみなさんとお話してください」と呼びかけた。
教職30年を超える鈴木さんは、「映画の中の一年生の時の子どもたちの顔は、みんなの一年生の頃の顔と同じだなと思いました。だけど、六年生になってからの表情は今の子どもたちとは随分違った。それはなぜなんだろうということを考えてみてください。”先生”の大切さということも考える機会にもなりました」と感慨をこめて語った。
帰り際、松竹株式会社からのお楽しみプレゼント『おかえり、はやぶさ』のペーパートイが手渡されると、子どもたちからは歓声が上がった。
この鑑賞会は杉並第一小学校PTAによる特別鑑賞会、松竹株式会社による木下惠介生誕100年プロジェクト、そして東京フィルメックスによる第6回<「映画」の時間>として、三者の恊働により実現した。松竹の木下惠介生誕100年プロジェクトでは、今後も各地でさまざまなイベントが開催される。11/23〜12/2に開催される第13回東京フィルメックスでは、特集上映が行われる。
また、第7回<「映画」の時間>も同期間に実施を予定している。
(取材・文/写真:花房佳代)