2009年02月27日
第38回ロッテルダム国際映画祭 レポート
映画祭期間:2009年1/21~31
●今年の傾向について
新映画祭ディレクターのルトガー・ウォルフソン(Rutger Wolfson)のもと、映画祭ロゴマークの刷新や部門の統合など、原点に立ち返って映画祭の持ち味を伸ばそうとする意気込みを感じさせた。
特集上映では、近年のトルコ映画の秀作を紹介する<Young Turkish Cinema>が充実したラインナップとなっており、タイガーアワード・コンペティションでの『Wrong Rosary』(Fazil Coskun, トルコ)の受賞も相まって、トルコ映画の躍進ぶりを印象づけていた。
●日本映画の上映について
『ノン子36歳(家事手伝い)』(第9回東京フィルメックスにて上映)がインターナショナル・プレミアされ、熊切監督としては01年『空の穴』、07年『青春金属バット』に続く3度目のロッテルダム参加となり、観客から温かく歓迎されていた。
オダギリジョーが初監督した長編『さくらな人たち』は、英語題名"Looking for cherry blossoms"が日本情緒を期待させることや当地でも俳優として知名度が高いこともあり、注目を集めていた。
上映された日本映画は多彩なラインナップとなっており、『トウキョウ・ソナタ』『アキレスと亀』『歩いても、歩いても』や自主製作映画『へばの』やドキュメンタリー『KIKOE』など、巨匠から新鋭まで日本映画の層の厚みを示すものとなった。
●アジア映画の傾向について
ロッテルダム映画祭では長年に渡って、アジア映画を精力的に取上げているが、今年は特集企画として
ラインナップはホラーとしての完成度という基準にこだわらず、ジャンル映画としてホラーの企画に新鋭監督が起用された場合や製作上はホラーだが主題は別にある場合なども含まれており、ホラーという枠組の中で作家性がいかに発揮されるかという観点からも興味深いものとなっていた。また、特集にちなんで、ガリン・ヌグロホやリリ・リザ、アミール・ムハマドなど東南アジアの気鋭の映画作家たちによる、お化け屋敷をイメージしたインスタレーション展示も行なわれた。
明解でインパクトのある「ホラー」というトピックスと作家性の強い映画監督を組み合わせることでイベント的に演出するのは、映画祭ならではの試みだといえる。また、ファンタスティック映画祭とは一味違うアプローチを提示してこそ、ロッテルダム映画祭であえて特集を組んだ意義があるといえるだろう。
(報告者:森宗 厚子)
【2009年授賞結果】
*タイガーアワード・コンペティション
"Be Calm and Count to Seven" Ramtin Lavafipour (イラン)
"Breathless" Yang Ik-June (韓国)
"Wrong Rosary" Mahmut Fazil Coskun (トルコ)
*Fipresci(国際批評家連盟)賞
『空を飛びたい盲目のブタ』"Blind Pig Who Wants to Fly" Edwin (インドネシア)
*NETPAC賞
"The Land" He Jia (中国)
*NETPAC Special Mention
"Agrarian Utopia" Uruphong Raksasad (タイ)
*KNF賞(Dutch Critics)
"Tony Manero" Pablo Larrain (チリ/ブラジル)
*Movie Squad賞(Rotterdam young People's jury)
『スラムドッグ$ミリオネア』 ダニー・ボイル (イギリス)
*観客賞(KPN Audience Award)
『スラムドッグ$ミリオネア』 ダニー・ボイル (イギリス)
【2009年 開催結果について】
総来場者数:341,000人 (前年355,000人)
総ゲスト数:2,128人 (前年2,799人)
プレス数:357人 (前年 458人)
シネマート・ゲスト数:790人(前年 830人)
第38回ロッテルダム国際映画祭(2009年1月21日~2月1日) 開催
ロッテルダム映画祭は、新鋭の才能を紹介し、また世界の作家たちの果敢なチャレンジを応援するという方向性が特色で、アジア映画を継続的に取上げてきている。
前回、暫定的に映画祭ディレクターの任にあたったRutger Wolfsonが正式にディレクターに任命され、映画祭の真価を伸ばすため、プログラム構成について抜本的な合理化をはかっている。昨年の9部門から3部門(Bright Future, Spectrum, Signals)に統合した。Bright Future部門は新人監督を取上げ、その中に長編と短編のコンペが含まれる。Spectrum部門は気鋭の作家たちを対象とし、Signals部門では企画特集やレトロスペクティブを行なう。プログラムをシンプルにして、映画の芸術性や可能性を尊重する姿勢を明確に打ち出していく方針とのこと。
長編コンペ(タイガー・アワード)は、日本映画「不灯港」(内藤隆嗣監督、PFFスカラシップ作品)を含む14本が対象となる。なかでも、アメリカの俳優マイケル・インペリオリの初監督作「The Hungry Ghosts」は映画祭のオープニング作品も兼ねており、話題を集めている。またアジア作品が多く、イラン、インドネシア、韓国、中国のほか、台湾からは俳優レオン・ダイ(戴立忍)の監督2作目「No puedo vivir sin ti」が取上げられている。
Bright Future部門では、第9回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞した中国映画「サバイバルソング」(ユー・グアンイー監督)や、日本からは「へばの」(木村文洋監督)「ジャーマン+雨」(横浜聡子監督)などのほか、オダギリジョーの長編初監督作「さくらな人たち」もお目見えする。また、第9回東京フィルメックスでも好評を博した「ノン子36歳(家事手伝い)」(熊切監督)は、Spectrum部門で上映される。
Signals部門では、レトロスペクティブとしてイエジー・スコリモフスキー、Paolo Benvenuti(イタリア)、Peter Liechti(スイス)の3監督を取り上げる。テーマ企画としては、上映フォーマットについての実験的なアプローチを試みる<Size Matters>、最近の東アジアのホラー映画を特集する<The Hungry Ghosts>、イオセリアーニからポン・ジュノまで一線で活躍している巨匠たちの処女作を集めた<First Things First>や、躍進目覚しいトルコ映画を紹介する<Young Turkish Cinema>、映画製作についてのドキュメンタリーや修復された作品を上映する<Regained>など、多彩なラインナップとなっている。
注目のイベントとしては、<Size Matters>では、市内中心部のオフィスビルの外壁に設置された巨大スクリーンに、今回のために依頼して作られた、ガイ・マディン、カルロス・レイガダス、Nanouk Leopoldによる作品が上映されるとのこと。
また、<The Hungry Ghosts>では、タイ、インドネシアなど東南アジアを中心近年の話題作を集め、日本からは「悪夢探偵2」(塚本晋也監督)、「ラザロ」3部作(井土紀州監督)がラインナップされているが、特集の一環として、ガリン・ヌグロホやリリ・リザ、アミール・ムハマドなど東南アジアの気鋭の映画作家たちによる”お化け屋敷”のエギジビジョンも行なわれる。
(報告者:森宗 厚子)
(終了後に映画祭レポートをお送りします。)
映画祭期間:2005年1/26?2/6
<今回のロッテルダム映画祭のトピックス>
●今年の傾向について
映画祭ディレクターが、オランダ人のサンドラ・デン・ハマー氏の単独担当となったこと、および、オランダの映画監督で昨年11月にイスラム過激派により暗殺された、テオ・ヴァン・ゴッホ監督の作品上映が話題となったことなど、ややオランダよりの傾向があったように感じられた。
また昨年と引き続いての特集企画<Homefront USA>への注目など、政治的な関心が高かったことも指摘できる。
タイガーアワード・コンペティションについては、どちらかというと暗い作品が多かった中で、受賞作としては、目を引く美しさや視覚的にインパクトのあるものに重きが置かれたように思われる。
●日本映画の上映について
今回のロッテルダムで上映された日本映画は
『おそいひと』(第5回東京フィルメックスにてプレミア上映)は、その独創性が好評を持って受け入れられ、柴田剛監督と主演の住田雅清さんによるQ&Aも盛り上がっていた。
●内田吐夢作品(7本)の上映について
旧作にスポットライトを当てる
特に『恋や恋なすな恋』や『飢餓海峡』が激賞されていた。
2005/1/26-2/6 開催
今回から、従来の<長編劇映画部門>と<フーベルト・バルズ・ファンド作品(Hubert Bals Fund)>を変更し、3つの新設部門に再編成された。それにより、ロッテルダム映画祭の目指す、若々しい革新的な映画製作への支援、国際的な視野、作家主義の擁護をプログラムとしてより明確に打ち出している。
監督特集としては、フランスのブノワ・ジャコー、ロシアのYevgeni Yufit、また地域での特集として、ロシアのオルタナティブ映画特集、また、東南アジアをとりあげ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどのインディペンデント映画を特集する。
日本からの映画としては、タイガーアワード・コンペティションに『ある朝、スープは』(高橋泉)、クロージング上映作品に『ハウルの動く城』(宮崎駿)のほか、昨年の東京フィルメックス・コンペティション作品『おそいひと』(柴田剛)も上映される。
また、昨年の東京フィルメックスでの特集で再評価の機運が高まった内田吐夢監督の作品が7本上映される。海外にて異なる視点で見られることによって、内田監督の作品がどのように受けとめられていくのか今後の展開が期待されるところである。
(終了後に映画祭レポートをお送りします。)
第33回ロッテルダム国際映画祭レポート
2004年1月21日?2月1日開催
【2004年の概要】
第33回ロッテルダム映画祭は、これまで8年間ディレクターを務めてきたサイモン・フィールド氏の最後の年にあたり、映画祭の発展に尽力した彼への感謝と惜別のムードが活気溢れるこの映画祭をより暖かく盛り上げていた。オープニングとして北野武、カトリーヌ・ブレイヤという縁の深い監督の新作の上映や、また授賞式後に続いて展開されたフィールド氏を送るセレモニーでは、ツァイ・ミンリャン、アボルファズル・ジャリリといった親交の深い監督たちによって撮り下ろされた短編作品が上映されて、オマージュを表した。
昨年の東京フィルメックスでも好評だった「地球を守れ!」(チャン・ジュヌァン監督)が注目を集めた他、韓国からはチャン・ソヌがタイガー・アワード審査員を務めた。 また日本映画では、映画祭のオープニングを飾った「座頭市」の大盛況はじめ、「アカルイミライ」「ドッペルゲンガー」の新作2作上映された黒沢清、三池崇史など常連ともいうべき監督の作品を中心に日本映画に対する根強い関心が寄せられていた。山下敦弘「リアリズムの宿」上映時には笑いのポイントが日本とあまり変わらず、絶妙の雰囲気で観客を引き付ける監督のセンスが光っていた。
なお2004年は、長短編その他関連上映を含め世界の70以上の国と地域より合計700本以上の作品が集められ、全12日間に渡り7会場(20スクリーン)で上映された。
今後はこれまで共同ディレクターを務めてきたサンドラ・デン・ハマー氏が単独でディレクターにあたる。次回は2005年1月26日(水)?2月6日(日)の開催予定。