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『若さ』トム・ショヴァル監督Q&A
from デイリーニュース2013 2013/11/25
11月25日(月)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『若さ』が上映され、トム・ショヴァル監督が上映後のQ&Aに登壇した。本作は、2人の兄弟が引き起こす誘拐事件を通してイスラエル社会の実情を描いた意欲作だ。今回初来日というショヴァル監督は日本映画好きだそうで、「日本で自分の作品を皆さんに見ていただき大変光栄です」と挨拶した。
さっそく市山尚三東京フィルメックス・プログラムディレクターが、「イスラエルの様々な社会問題が織り込まれた素晴らしい作品」と評し、映画化に至った経緯について訊ねた。これに対してショヴァル監督は、自身の「個人的な」要素から出発したことを明かした。監督には、本作に登場する兄弟同様、まるでテレパシーを使っているかのように意思疎通ができる4歳年下の弟がおられ、双子に間違えられるほどルックスも似ているとか。そうした奇妙な2人のつながりを映画に落としこんでみたいと考えたそうだ。
また、イスラエルの中流家庭に育ったというショヴァル監督は、経済不況のあおりを受けたイスラエルで新しい貧困層が生じている現状に言及。中流層がこれまで経験したことのないような経済的苦境にあえぎ、監督の家庭も例外ではなかったようだ。25年間働き続けた会社を解雇された監督のお父様は、再就職もままならず、家族に心配かけまいと苦労のそぶりも見せなかったものの、家庭内には何かしら緊張感が漂っていたのだとか。ショヴァル監督は「まるでホラー映画のような、何かがおかしい、何かが起こりそうな状況」を肌で感じ、そうした状況に兄弟のつながりを絡ませて本作が生まれたのだという。
続いて観客からの質問に移った。まず、安息日をめぐる対応の違いから、登場人物たちの宗教的背景についての質問。ショヴァル監督によると、ユダヤ教にはいくつかの教派があり、コミュニティを形成して戒律を厳しく守る正統派、正統派ほど厳しくはないが宗教的儀礼を重んじるモダン派などがあり、宗教にとらわれない世俗派もいるそうだ。誘拐される少女の家庭はモダン派、兄弟の家庭は世俗派に属するとのこと。
また、本作に登場する兄弟のキャスティングについて質問が及んだ。兄弟役を演じたダヴィッド・クニオさんとエイタン・クニオさんは双子の兄弟で、ショヴァル監督は彼らを探し出すのにイスラエル全土を回って1年ほどかかったそうだ。ルックスの似た俳優ではなく実際の兄弟を起用したのは、「目が合えば電流が走るような関係性を求め、2人でひとつ、双頭の怪物のようなイメージを描いていたから」と説明。車の修理工だったクニオ兄弟には演技経験がなかったためプロデューサーから難色を示されたものの、彼らのルックス、彼らから感じるパワー、つながりの深さは、まさに監督が求めていたものだったそうだ。
さらに、ショヴァル監督はクニオ兄弟への演技指導に関するエピソードを紹介。クニオ兄弟は心優しいシャイな性格で暴力的な衝動を感じさせないタイプだったため、監督はリハーサルの一環として彼らに実際にスーパーで万引きをするように命じたとか。もちろん店には監督から事前に許可を得た上でのこと。店内で1時間半ほど悩んだ末に万引きに成功した2人。店の外で待ち受けた別の役者が2人の万引きを咎め口論になるも、彼らはキャラクターから逃げることなく、その万引き劇を最後まで演じ切ったそうだ。こうすることで、彼らの中に映画を作る心構えや衝動的な感情の蓄えができたのだという。
最後に、誘拐された少女が兄弟にアラブ系かと尋ねるシーンの意図を観客から訊かれると、ショヴァル監督は次のように答えた。「イスラエル軍の侵攻、経済不況、格差問題が生じ、イスラエルは銃口を内側に向けるようになった現状を描きたかったのです。誘拐された少女にしてみれば、まさか同胞のイスラエル人にこんな酷い目に遭わされるとは思いもよらないという気持ちがあのセリフに反映されていると思います」
ここで時間切れとなりQ&Aが終了。日本で触れる機会の少ないイスラエルの生活習慣、宗教的背景、社会問題が盛り込まれた本作に観客の興味は尽きない様子だった。自国の現状を冷静に見つめるショヴァル監督の今後の活躍に期待したい。
(取材・文:海野由子、撮影:村田まゆ)
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