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『見知らぬあなた』チュエン・リン監督Q&A
from デイリーニュース2013 2013/11/24
第14回東京フィルメックス2日目となる11月24日、有楽町朝日ホールにて、コンペティション部門の『見知らぬあなた』が上映され、チュエン・リン監督が上映後のQ&Aに登壇した。本作が監督デビュー作というリン監督。まず司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが、何故あえて「夫婦」という難しい題材に挑戦したのか、と訊ねた。
既に小説家としてのキャリアを重ねているリン監督は、自身にとって映画はチャレンジングなこと、と前置きした上で「今の中国社会のリアルな実情を映画で撮りたかった。そこで、ある家庭の問題を題材に選び、重慶辺りに住んでいる"ある女性"を想像し、彼女を中心に描こうとしたのです」と説明した。また、「自分にとっては馴染みのある場所で乗っているエレベーターでも、遭遇する人が見知らぬ人だったりすれば、そこが初めての場所のような感覚を覚える。そんな感覚を表現したかった」と語り、タイトルに『見知らぬあなた』と名付けたとリン監督。
続いて会場からの質疑応答へ。女性監督の作品でありながら男性である夫の視点から描かれている様に感じたが、意図的に描いたものなのかという質問には「とてもいい質問をありがとう」と応じ「特別なテーマを選んだ訳ではなく、普通のテーマで面白い作品を撮りたかった。だた、編集段階でありふれたテレビドラマの様にならないか心配でした」と明かし、「小説家でもある私としては、テーマそれ自体は大きな問題ではなく、創作の方法が大事なのです」と語った。また、映画の脚本と小説を執筆する際に共通しているのは「作者の性別だけでなく、男女どちらの視点で描いているかもあえて分からない様に書く」ことだという。「女性監督だからといって女性に同情するのではなく、また男性の気持ちを理解しようと考えているわけではない」と、客観的に色々な視点で物語を作り出す手法を大事にしていると語った。
次に、日常的な光景の中に挿入された廃墟や建築現場が印象的だったという観客からは、その場所を選んだ理由について質問が寄せられた。ロケハンは脚本に基づいて行い、細かい部分は各ロケ地の現状に合わせたとのことだが、中には創作意欲を刺激され脚本を変更したシーンもあるという。舞台に重慶近郊の白沙を選んだ理由について「母の故郷であり、かつては文化・教育を大事にしていて、とても美しい風景があります。しかし、毎年夏になると決まって洪水が起こり、街の人たちは山に避難しなくてはならない。そんな災害を繰り返しても人々は離れず戻ってくる興味深い街です」と語り、ちょうど作品終盤がその時期だったエピソードも披露した。
続いて、映画制作に携わっているという学生の観客から「作品に自分の持ち味を出す秘訣は?」との質問。リン監督は、自身の強みとして「小説家として、自身の脚本をきちんと把握できること。多くの映画(トルコやイラン映画など)を観て刺激を受けていること」を挙げた。
最後に、初監督作品ならでの苦労などがあれば、と訊かれると「ジャ・ジャンクー監督がプロデュースして下さったことで、仕事を順調に進めることができました」と応じ、本当に良い撮影スタッフやチームに恵まれたことをラッキーと表現し、スタッフとのめぐりあいがなければ作品は完成しなかったと語った。また、事前にジャ・ジャンクー監督の撮影現場に出向いて監督がどう現場を仕切るのか勉強もしたというリン監督。一方で、「主演のふたり、スタッフを含め経験豊かなベテランが、いつでも撮影が出来るように現場を整えてくれたことが大きい」唯一、困ったのは脇役を演じた俳優への演出で「映画製作所のない重慶で活動する俳優たちは、テレビ俳優が殆どで、そのままテレビの雰囲気で演技をしてしまうのをコントロールするのが難しかった」と締め括った。『見知らぬあなた』は11月26日(火)にも有楽町朝日ホールにて上映される。
(取材・文:阿部由美子、撮影:白畑留美、永島聡子)
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