【レポート】第19回東京フィルメックス、ラインナップ発表記者会見

2018年10月4日
第19回東京フィルメックスのラインナップ発表記者会見が行われました。

10月4日、ゲーテ・インスティトゥート東京にて第19回東京フィルメックスのラインナップ発表記者会見が行われ、市山尚三東京フィルメックス・ディレクターが登壇した。まず、市山ディレクターから、長らくフィルメックス支援の中心的役割を果たしてきたオフィス北野による支援打ち切りに伴い、各方面から心配の声や激励が寄せられたことについて謝辞が述べられ、新たに木下グループの支援のもと、新体制でのフィルメックス開催の運びとなったことが報告された。

本年のフィルメックスでは、コンペティション作品10本、特別招待作品16本、「特集上映アミール・ナデリ」で4本、計30本(現時点)が上映される。また、国際批評家フォーラム、映画の時間プラスでの上映など、様々な関連イベントも予定されている。

コンペティション部門には、新進気鋭の作家たちの独創的な作品が揃う。フィルメックスのコンペ選出初となるトルコ作品『シベル』をはじめ、カザフスタン出身の主演女優がカンヌ映画祭最優秀女優賞を受賞した『アイカ』、ロヒンギャ難民の問題を扱った『マンタレイ』、タレンツ・トーキョー修了生が手がけたロカルノ映画祭金豹賞受賞作『幻土(げんど)』、力強い構成力でストーリーに引き込む『幸福城市』、フィルメックスのコンペではおなじみのイン・リャン監督の新作『自由行』、ウォン・カーウァイがプロデュースを手がけたペマツェテン監督の『轢き殺された羊』、圧巻のワンカット3D映像に加えてタン・ウェイやシルヴィア・チャンが出演する『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』、自らの命を絶った若き監督のデビュー作であり遺作の『象は静かに座っている』、是枝裕和監督や西川美和監督の助手を務めた広瀬奈々子監督がオリジナル脚本で挑む『夜明け』が選出された。

審査委員長には『スモーク』(’95)などで知られるウェイン・ワン監督を迎え、審査員は、昨年のコンペティション部門で『殺人者マルリナ』が最優秀作品賞に輝いたモーリー・スリヤ監督、イラストレーターでアートディレクターのエドツワキさんのほか、あと2名(後日発表)が務める。市山ディレクターによると、ウェイン・ワン監督も今春の騒動を知りフィルメックスの先行きを案じておられたひとりで、「ウェイン・ワン監督からは何かできることがあれば言ってくださいと言われたので、審査委員長をお願いしたところ、快諾していただいた」というエピソードも明かされた。

特別招待作品には実績のある気鋭の作家たちによる多彩な作品が並び、特に日本から6作品が紹介される。オープニングを飾るのはホン・サンス監督の新作『川沿いのホテル』、クロージング作品にはジャ・ジャンクー監督の『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』。ほかに、アモス・ギタイ監督が現在のイスラエルとパレスチナを映し出す長編『エルサレムの路面電車』と短編『ガザの友人への手紙』、クメール・ルージュによる暗黒の支配を一貫して描くリティ・パン監督の『名前のない墓』、坂本龍一が音楽を担当したツァイ・ミンリャン監督の『あなたの顔』、ホン・サンス監督のもうひとつの新作『草の葉』など、フィルメックス常連ともいえる顔ぶれが揃う一方で、意外にもフィルメックスでは初お目見えのブリランテ・メンドーサ監督がドゥテルテ政権の麻薬取締政策を題材にした『アルファ、殺しの権利』も上映される。日本映画としては、豊田利晃監督による小笠原を舞台にしたドキュメンタリー『プラネティスト』をはじめ、東日本大震災後の人間関係を詩情豊かに描く篠崎誠監督の『共想』、福島とハワイの意外な結びつきに注目した中江裕司監督のドキュメンタリー『盆唄』、先ごろサン・セバスチャン国際映画祭にて最優秀新人監督賞を獲得した奥山大史監督の『僕はイエス様が嫌い』も上映される。

記者会見でゲストとして登壇した奥山監督は、大学卒業間近の今年2月に本作を撮影し、卒業後、会社に勤務しながら編集を行って完成させた。サン・セバスチャン国際映画祭での反応を訊かれると、「キリストを扱っているため、カトリック教国でどのような反応があるか不安だったが、みなさん面白がってくれた」と現地での手応えを語った。本作の劇場公開は来年以降となる予定で、年内に国内で上映されるのはフィルメックスのみとなる。

さらに「特集上映 アミール・ナデリ」と題して、ナデリ監督の初期作品『ハーモニカ』(’74)、『期待』(‘74)、ナデリ監督が脚本を執筆したマイケル・B・ジョーダン出演作『華氏451(2018)』、新作の『マジック・ランタン』が上映される。

本年で9回目の映画人材育成事業「タレンツ・トーキョー」も引き続き開催され、選りすぐりの15名のタレンツたちに期待が寄せられる。なお、本事業のプログラムは非公開だが、公開イベントとして11月22日(木)には「オープン・キャンパス」が予定されている。

また、フィルメックスでは、木下グループが掲げる映画業界の新しい才能の発掘という理念を継承し、「フィルメックス新人監督賞・シナリオ賞」を創設し、企画の応募を受け付ける。応募要項は11月1日に開設される公式サイトを確認されたい。

第19回東京フィルメックスは11月17日(土)から25日(日)まで、有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日比谷、有楽町スバル座(11/17、11/18のみ)にて開催される。チケットの発売は11月3日(土・祝)。有楽町朝日ホールでの上映回はセブンチケットでの取り扱い、TOHOシネマズ日比谷での上映回はインターネットチケット販売vitまたはTOHOシネマズ日比谷チケットカウンターでの発売となる。詳細は、公式サイトにて確認されたい。

文:海野由子、写真:白畑留美

映画の時間プラス 『天然コケッコー』 山下敦弘監督トークショー

11月26日(日)、東京国立近代美術館フィルムセンター小ホールにて,「映画の時間プラス 親子で映画&聴覚障がい者向け日本語字幕つき鑑賞会」と題して、『天然コケッコー』(’07)が日本語字幕付きで上映された。本作は,くらもちふさこさんの人気漫画を原作とした青春ドラマ。上映後には山下敦弘監督が登壇し,手話通訳付きのトークイベントが行われた。 続きを読む

映画の時間プラス『父を探して』シモネさんトークショー

第18回東京フィルメックスの開催に合わせ、多様な観客に開かれた上映会として実施された「映画の時間プラス」。11月26日(日)、ブラジルのアレ・アヴレウ監督によるアニメ―ション映画『父を探して』(2013)が上映され、たくさんの親子連れが東京国立近代美術館フィルムセンターを訪れた。上映後のトークショーにはブラジル人タレントとして活躍するシモネさんが登壇。この映画が作られたブラジルについて、子どもたちに楽しく紹介してくれた。 続きを読む

『暗きは夜』アドルフォ・アリックスJr.監督Q&A

11月26日(日)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『暗きは夜』が上映された。Q&Aに登壇したアドルフォ・アリックスJr.監督は、「今、フィリピンで起こっている麻薬撲滅戦争を扱った数少ない作品の一つだと思います」と本作を紹介。麻薬取引に関わっていた家族の視点で描いた、社会派の映画だ。 続きを読む

国際批評フォーラム・フィードバック(合評会と振り返り)

11月26日(日)、有楽町朝日スクエアBで国際批評フォーラム・フィードバックが行なわれた。これは、11月19日(日)に行われた国際批評フォーラムを受けて、今回のフィルメックス上映作品に関する批評を一般から公募。映画祭事務局が選んだ批評に対して講師2名が講評するというもの。映画批評に関心を寄せる観客を前に、経験豊富なプロの視点から、様々な意見が寄せられた。
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『見えるもの、見えざるもの』カミラ・アンディニ監督Q&A

11月25日(日)、TOHOシネマズ日劇3でコンペティション作品の『見えるもの、見えざるもの』がレイトショー上映された。本作は、バリ島を舞台に、生と死に向き合う双子の姉と弟の結びつきを描いた幻想的な物語。上映後にはカミラ・アンディニ監督が登場し、質疑応答が行われた。質疑応答を前に、司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターから、直前に行われた授賞式で本作が『殺人者マルリナ』(モーリー・スリヤ監督)と共に最優秀作品賞を受賞したことが報告され、会場から大きな拍手が寄せられた。 続きを読む

授賞式

11月18日(土)から9日間にわたって開催された第18回東京フィルメックスの授賞式が、会期を1日残した11月25日(土)、有楽町朝日ホールで行われ、最優秀作品賞以下、各賞が発表された。今年はサプライズな展開もあり、これまでにないセレモニーとなった。
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タレンツ・トーキョー授賞式

11月25日、有楽町朝日ホールスクエアにて、審査員会見に引き続きタレンツ・トーキョー2017(以下、TT)の授賞式が行われた。TTは、「次世代の巨匠」になる可能性を秘めた「才能(=talent)」を育成することを目的に、映画監督やプロデューサーを目指すアジアの選抜された人材を東京に招いて実施する、東京都などが主催する映画分野の人材育成プロジェクト。今年も事前審査で選ばれた15名の若手監督・プロデューサーたちが6日間のワークショップに参加した。 続きを読む

『ニッポン国VS泉南石綿村』舞台挨拶、Q&A

11月25日(土)、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『ニッポン国VS泉南石綿村』が上映された。8年にわたる大阪・泉南アスベスト訴訟を記録したドキュメンタリー。舞台挨拶には原告団の柚岡一禎さん、佐藤美代子さん、志野善紹さん、石川ちう子さんと、原一男監督が登場した。 続きを読む