Why Did She Let the Monkeys Loose?/Made in Japan


Why Did She Let the Monkeys Loose?
Introduction

Japan / 2022 / 98 min.
Director:TAKAHASHI Izumi

Yuko, a reportage writer, begins investigating Miu, a high school girl who was arrested for destruction of property after breaking a cage at a zoo and releasing some monkeys. Miu was exposed to critical articles based on speculation and slander. Yuko tries to find out the truth to defend her, but her mental balance is gradually shaken. Her husband, a filmmaker, seems to be quietly watching over her... This is the latest work by the video production duo "Gunjo-iro“ formed by TAKAHASHI Izumi and HIROSUE Hiromasa. The story unfolds in twists and turns while carefully questioning how people should face the images presented by media. The story then reexamines and relativizes the act of making films in a self-referential manner, and even brings up the act of passing the baton to the next generation. In addition to the mature performances of HIROSUE Hiromasa and SHINE Midori, the two regulars in "Gunjo-iro," two young cast members, FUJISHIMA Kanon and HAGIWARA Mamoru, leave a strong impression, making the film open to the future.

Director TAKAHASHI Izumi

Born November 1, 1973 in Saitama Prefecture, Japan. Screenwriter and film director. He founded the film production unit “Gunjo-iro” with Hiromasa Hirosue in 2001. Since then, he has produced more than 20 independent video works. His outstanding portrayal of characters is widely acclaimed both domestically and internationally. His representative works include The Soup, One Morning (2003/Director & Screenplay), winner of the Grand Prix at the 26th Pia Film Festival, Fourteen (2006/Screenplay), winner of the International Film Festival Rotterdam 2007 NETPAC Award, and Dari Marusan (2014/Director & Screenplay), which was entered in the Forum section at the 65th Berlin International Film Festival.

Movie
in preparation
News

11/5『彼女はなぜ、猿を逃したか?』Q&A

2022.11.14

 

11月5日(土)、メイド・イン・ジャパン部門『彼女はなぜ、猿を逃したか?』が有楽町朝日ホールで上映された。脚本家の高橋泉さんと俳優の廣末哲万(ひろすえ・ひろまさ)さんによる映像制作ユニット「群青いろ」の最新作。動物園の猿を逃がした女子高校生への取材を通して、メディアのあり方を問う。上映前には監督を務めた高橋さんと出演の廣末さん、藤嶋花音さんが舞台挨拶し、上映後には高橋監督と廣末さんによるQ&Aが行われた。

本作は、高校生が猿を逃したという実際にあったニュースがモチーフになっているという。事件の発生が報じられただけで詳細は不明だったため、高橋監督はその高校生が猿を逃した理由が気になって脚本を書き始めていったそうだ。

廣末さんの役柄は、過去に自主映画を撮っていた人物。自己言及的な設定にした理由について高橋監督は「(登場人物の)言ってることや、やっていることを自分にリンクさせたかった」と説明。「だんだん自分に夢中でなくなっていることに気付いた、と言うのかな。昔は自分の成功や失敗にすごく一喜一憂していたと思うんです。でも、今は誰か(他人)の成功や失敗に一喜一憂することが増えてきた。誰かが落ちれば自分が上がるみたいな感覚が嫌だなぁ、と思っていて、それで『自分に夢中』な映画を撮りたくなった」と思いを語った。

高橋泉監督

撮影監督は、映像作家や俳優として活躍している恵水流生(えみ・りゅうせい)さんが務めた。自然光を生かした恵水さんの撮影技術やセンスに高橋監督は絶大な信頼を置いていたと明かした。主人公夫婦が暮らす家も、実は恵水さんの自宅。家具や小道具もすべて恵水さんの家にもともとあったものをそのまま使ったというエピソードに、会場からは驚きの声が上がった。

自ら監督を務める作品のみならず、『凶悪』『朝が来る』『東京リベンジャーズ』『仮面ライダーBLACK SUN』など他の監督の作品にも脚本家として参加してきた高橋監督。脚本へのアプローチについて、自主映画は「頭の中にあるものをビチャーと出したまんま」作るのに対し、他の監督作品では頭の中を「細かくしっかり整理整頓する」という違いがあると説明。自主映画は「自分たちが見るために作っているので、完成したものが誰かに伝われが嬉しいとは思うけれど、作る時点ではまず自分が見たい世界を撮らせてもらう。頭の中で考えることは一緒でも、出し方を整理するかしないかの違いは大きいです」と語った。

藤嶋花音さんと萩原護さんという若手キャストの演技も、本作の魅力の一つだ。高橋監督は、藤嶋さんの第一印象について「高校生活が楽しくでしょうがないという様子」だったと語る。「僕らの作品はトーンが暗くなってしまうので、陰のある女の子を使うと、いい意味でツンケンした“17歳の毒”みたいな人の焦げちゃいそうなまぶしさは出なかったと思う」と振り返った。一方、萩原さんについては、他の仕事のオーディションで会った時からずっと気になっていたとのこと。彼のために役を二つ作ったというほどの絶賛ぶりだ。

会場からは「『ある朝スウプは』などのストイックな初期作と比べて、本作は会話や音楽などかなりポップな感じがした」と、映画作りの変化を尋ねる質問もあった。高橋監督は「昔は、リアルとは何かをすごく突き詰めていた」と回想し、「でも、だんだんリアルを追うならドキュメンタリーでいいんじゃないか、と。自主映画の中でリアルを追い詰めていっても、ドキュメンタリーの方が面白いものが見られるし」と説明。さらに「本作も含めて、最近はフォーカスするもの自体がファンタジックになってきている。例えば廣末くんのようなファンタジーを支える土台があるのだから、そっちに行ってしまいたいという感じですね」と付け加えた。

廣末哲万さん

「群青いろ」での役割分担にも話は及んだ。廣末さんは、「群青いろ」作品における自らの立場を「司令塔」や「インナープレイヤー」という言葉で説明。「高橋監督の言いたいことを、芝居をやる者として中で伝える、他の役者さんに感じさせる役割を僕が担っているような気がします」。高橋監督は「僕は監督といっても、脚本でだいたい演出を終えている。それを廣末くんが今度は内側から支配する。それで成り立っている感じですね」と補足した。編集のプロセスも独特。高橋監督がざっくりと編集した後、廣末さんが細部を編集するという二段階の構成で行っているという。廣末さんの監督作品のファンだという高橋監督は、廣末さんの感覚やリズム感に寄せてもらうと明かし、さらに「届ける時には届けたい人たちの顔が徐々に見え始めているので、そこは頑張っています」と話した。

 

本作で印象的なのがプリンを使ったシーン。「プリンを用いるというアイディアは、いつどんな時に思いついたのか」という質問に、高橋監督は、「プリンのことは常に考えていますね」と即答し、会場は笑いに包まれた。廣末さんも「プリンを手に乗せるって、ふつうしないじゃないですか。僕もこれまで生きて来てやったことがない。不思議ですよね、もうSFです」とコメントした。また、バルコニーから飛行機雲が見えるシーンは偶然撮れたものだという。高橋監督は「呼ぶ時は呼ぶんだと思いますね。撮ってる側のエネルギーを感じてくれると思う」。高橋監督は音楽へのこだわりも披露。本作の音楽を担当した小山絵里奈さんと相談したり、曲を書き直してもらったりしながら完成させていったと語った。

最後に、廣末さん演じるキャラクターの狂気性が話題になった。誰もが狂気性を持っているのではないかと廣末さん。「結局、それをでっかく膨らましているだけなんだと思います。結構苦労します。小さいものを引っ張り出してきては膨らますイメージでやってます」。一方で、「僕のああいう演技を他の現場でやったら、たぶん監督さんは迷われると思う。自由すぎて現場が止まっちゃう。でも、高橋さんには、人はなんでも起こしうるという許容範囲の広さがある。はみ出しているかどうかのジャッジはちゃんとしてくれるので、内側ギリギリで自由にやっている」と高橋監督の懐の深さへの信頼を語った。これに対して高橋監督は、「僕は廣末くんの演技がツボなので、笑ってしまって見てられない時は、よーいスタートをかけて消え去ります。で、戻って来て『よかったです』って(笑)。それくらい信頼しているし、ダメ出しすることもほとんどない」と絆の強さが垣間見えるエピソードを披露した。

たくさんの質問にユーモアを交えながら答えてくれたふたり。映画製作の裏側を伝える様々なエピソードからは、キャストや
スタッフの間の信頼関係も感じられた。

文・塩田衣織

写真・吉田留美