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『青春残酷物語』(大島渚監督)ジャ・ジャンクー監督舞台挨拶
from デイリーニュース2014 2014/11/28
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11月28日、有楽町朝日ホールで特集上映(2)"1960 -破壊と創造のとき-"『青春残酷物語』が上映された。本作は、1960年に制作され"松竹ヌーヴェル・ヴァーグ"の言葉を生んだ大島渚監督作品の4Kデジタル修復版。今年のカンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映され、今回が日本初上映となる。上映に先立ち、ジャ・ジャンクー監督による舞台挨拶が行なわれ、本作への想いや見どころを語ってくれた。
大きな拍手に迎えられて登壇したジャ・ジャンクー監督。「大島渚監督の傑作『青春残酷物語』の上映前にこのように紹介させていただくことになり、大変光栄です」と前置きしてから、ゆっくりと大島渚監督と『青春残酷物語』に対する想いを語り始めた。
大島監督の作品を初めて見たのは、北京電影学院で映画を学んでいた頃だったという。「それは、社会に対する反逆の精神と批評に満ちていました。そのような反逆の精神は、大島監督の最も突出した思想であると考えました。そういう大島監督の作品を見て、私が強く感じたのは、普通の道徳で判断するのではなく、人間性をいかに洞察してゆくかという点です。単なる道徳観を越えるものを私は大島監督の作品に見ました」
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そして、話は『青春残酷物語』に及ぶ。
「この作品の特徴は、青春のただ中にいる若者たちの個人的な事を扱いながら、非常に社会性があるという事です。大島監督はこの作品の中で、個人と社会を断ち切ることなく、個人が属する社会の問題をしっかり見据えていたわけです。この観点は、現在の映画の中で、啓発を受けるべき非常に重要な姿勢だと思いました」
さらに、現在の映画制作に見られがちな傾向を「個人的な題材を扱いながら、社会との関係を断ち切ったような姿勢」と指摘した上で、大島作品の優れた点について言及。
「しかし、我々個人はあくまでも社会に属しているわけで、決して関係を断ち切ることはできません。『青春残酷物語』の中には、様々な問題が盛り込まれています。青春という意識の問題、命の問題、社会、経済、学生運動といったものです。さらに、大島監督の凄いところは、社会をしっかり見つめながら、ただ社会の方向にだけ映画を持っていくのではなく、そこに人間性に対する洞察力をしっかり込めているということ。社会を題材に、社会的な見方でしか映画を撮らないとしたら、それは芸術ではなくなってしまいます。この点が社会学者とは違い、芸術にまで高めているところだと思います」
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続いて、"忘れられない場面"として、序盤、街で出会った主人公の真琴(桑野みゆき)と清(川津祐介)が材木の浮かぶ川で遊ぶ場面を挙げた。「男が女の子にキスしようとすると、彼女が嫌がります。すると、男は彼女を水の中に突き落とし、彼女は溺れそうになりながら必死にあえぐわけです。その時の会話がまさに人生に関わることでした。セリフのやり取りを通じて、2人が傷つけ合いながら互いの存在感を確かめ合っているようで、大きな孤独感を感じました。そのような表現が、この場面に盛り込まれていたわけです」
この作品が「自分が映画を撮り始めた1990年代の中国を思わせ、不思議な感じがする」と語ったジャ・ジャンクー監督。最後に"とても好きな大島渚監督の言葉"を紹介して挨拶を締めくくった。「"深海に生きる魚族のように、自ら燃えなければ何処にも光はない"。どのような苦難に見舞われても、この言葉は絶えず我々のような映画制作を続けている者を励まし続けてくれると思います。」
『青春残酷物語』4Kデジタル修復版は、"1960 -破壊と創造のとき-"として、ヒューマントラストシネマ有楽町にて11/29(土)、12/9(火)にレイトショー上映。製作から半世紀を経て色彩鮮やかに蘇った日本映画史上の名作を是非、1人でも多くの人が味わってくれることを願ってやまない。
(取材・文:井上健一、撮影:白畑留美)
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