【レポート】『空の瞳とカタツムリ』舞台挨拶、Q&A

11月18日(日)、有楽町スバル座にて特別招待作品『空の瞳とカタツムリ』が上映された。上映後、舞台挨拶とQ&Aが行われ、斎藤久志監督、出演者の縄田かのんさん、中神円さん、藤原隆介さん、脚本を担当した荒井美早さんが登壇した。


左より斎藤監督、縄田さん、中神さん、藤原さん、荒井さん

斎藤監督より「どういう感想を持たれたかぜひお聞かせいただければ」と一言。本作が初めての主演作であった縄田さんは「撮影期間は10日間で、本当に濃い毎日でした」と振り返り、「役と自分が同化する瞬間や、観ている景色、光、匂い、空気が触れる瞬間を味わうことができて、贅沢でかけがえのない瞬間を経験させてもらった」と挨拶。初めてセリフのある役をもらったという中神さんは「斎藤監督はカメラを回すまでのテストを何回もするので、映画でこんなにカメラが回らないものなんだ」と思ったそうだ。初めて映画出演となった藤原さんは「オールアップがちょうど19歳の誕生日でその日に、濡れ場のシーンがあって、前貼り記念で19歳になった壮絶な誕生日でした」と笑いながら話し、「スタッフさんから貰ったケーキと花束をもらって、それを見ながら僕は役者で生きていこうと覚悟した作品」だと語った。荒井さんは「不器用な人たちもいるんだと思ってもらえたらうれしい」と挨拶した。

そのままQ&Aに移り、市山尚三東京フィルメックスディレクターが作品制作の経緯を尋ねたところ、アクターズ・ビジョンのワークショップから始まったそうだ。「相米慎二さんが遺したタイトル案である『空の瞳とカタツムリ』で荒井さんに脚本を書かないかという話が荒井さんに伝わって物語が出来上がりました」と斎藤監督。続けて、市山ディレクターがタイトルからインスピレーションを得て書いたのかという問いに「タイトルをいただいた時に、カタツムリのことを調べました」と荒井さん。調べるとカタツムリが交尾をする時、恋矢(れんし)という生殖器官を頭に突き刺すことを知り、その恋矢を突き刺すことは相手の寿命を低下させることを知って、本作を着想したそうだ。

本作は縄田さんをキャスティングすることは早めに決まっており、脚本が出来上がった時に、ワークショップに受講していた中神さんが決まったそうだ。中神さんは「もともとワークショップの時は縄田さんが演じた役を与えられていて、縄田さんがその役に決まったので、もう一人が決まらなくて、オーディションすることになり、立候補しました」と配役のエピソードを話してくれた。

リハーサルも本番テイクも重ねる制作方法に質問に対し、斎藤監督は『サンデイドライブ』(2000)まではフィルムでテイクをあまり重ねることはできなかったが、デジタル以降はそれが可能になったと前置いたうえで、「演じるということより、そこに存在してほしい、芝居しているかわからなくなるくらい彼女たちを麻痺させたいという想いが伝わっているのでは」と斎藤監督は話した。
作中の2人の女性が再会するのではという質問に荒井さんは「10代、20代は付き合ったり別れたりしてたんですけど、30代になってまた一度別れても40年後に会うことができるのかもしれないように、2人はまた出会うかもしれないです。出会うことができなくても別の人の中に生きていて出会うことができるのだと思います」と答えた。

作中に出てきた映画館はどこにあるのか、という質問が上がり、斎藤監督は「あれは高崎電気館という場所で、今は映画館として機能していませんが、イベントとして高崎映画祭で使用される場所です。映画館のシーンは朝から夜中の2時までかけて撮影しました」と回答した。
市山ディレクターが映画評論家の宇田川幸洋さんが出ていられましたね、とコメント。それを受けて、「宇田川さんは面白い人で、過去にも作品に出てもらったのですが、今回もお願いして高崎まで来てもらいました」と斎藤監督。

本作が映画初出演の縄田さん、中神さん、藤原さんの映画で演技をしたことについての質問が及び、まず縄田さんは「今までは舞台が多かったんですけど、自分の中であまり違いは感じていません。でも、撮影を経ていく上で、アンテナのようなものが張った気がします」と語った。中神さんは「今まで頭の中で役を考えて演じていましたが、すごく楽にお芝居ができるようになりました」と答えた。藤原さんは「演じていたというより、存在しようって思いました」と語った。

作品の物語性の質問に対して、斎藤監督は「お話という部分に関しては脚本家が作っています。一緒に話しながらつくっているものもありますが、基本的に荒井さんのオリジナルストーリーです」と話したうえで、「特殊な人たちかもしれないけれど、特殊であると簡単に捉えず、存在している一人一人は誰の心の中にもある存在として、自分自身の中に投影して作っていました」と語った。

本作は2019年2月に公開を予定している。市山ディレクターが「ぜひとも知り合いの方にお勧めいただきたい」と締めの言葉を語り、会場より温かい拍手が送られた。

文責:谷口秀平、撮影:明田川志保、吉田(白畑)留美

【レポート】『共想』舞台挨拶、Q&A

11月18日(日)、有楽町スバル座にて特別招待作品『共想』が上映された。本作は『あれから』(2013)、『SHARING』(2014)(第15回東京フィルメックス特別招待作品)に続く東日本大震災を見つめた篠崎誠監督の最新作だ。上映に先立ち舞台挨拶が行われ、篠崎監督、善美役の矢﨑初音さん、珠子役の柗下(まつした)仁美さん、さらに櫻井保幸さん、大杉樹里杏さん、播磨誌織さん、村上春奈さんが登壇した。

挨拶の前に、市山尚三東京フィルメックスディレクターが本作は出来上がったばかりでこの後も変わるかもしれないというギリギリで完成した作品だとコメント。

第1回、第15回に続き第19回東京フィルメックスに参加することとなった篠崎監督は「東京フィルメックスに帰ってくることできて嬉しいです」と喜びの言葉が。また本作品はとても小さな作品だと表現し、「市山さんが観た段階から、ワンシーン増やしました。数日前に出来上がった作品で、まだ僕しか観ていません」と語った。矢﨑さんは「小さな映画ですが、私の中で大切にしたい作品」と話し、柗下さんは「タイトルの通り、皆さんと一緒に大切な人や会えなくなってしまった人を共に想える作品だと思います」と話した。櫻井さんは「すごい心に残る作品」、大杉さんは「演者、スタッフが一人一人自分たちの役割を考えて作った作品です」、播磨さんは「伝えられることは言いたいことは大事に言わないといけないと思えることができる映画です」、村上さんは「篠崎先生は大学の先生で、大学に入学したての頃に撮影に呼ばれて、撮影が始まって、試写が始まって、舞台挨拶をしているのでとても緊張しています」と想いを語った。

上映後、質疑応答には篠崎監督、柗下さん、矢﨑さんが登壇。本作品が持つ雰囲気は脚本の段階から考えていたのか、編集の段階で作ったのかという質問が上がると、「最初から最後まで書いたシナリオではなくて、ワンシーンだけセリフはしっかり書かれていて、あとは大体の展開を考えて、説明しました」と篠崎監督。また柗下さんと矢﨑さんに本作撮影の前に3月11日に何をしていたのかをインタビューをするところから始めたそうで、矢﨑さんは「1回目は実際に自分たちが経験した話を撮影して、その後、善美はこうだ、珠子はこうだったというのを付け加えて、2回目で実際役を通して撮影しました」と語ってくれた。出演者に「こういう経験はありますか」と聞いて、それを踏まえて矢﨑さんや柗下さんと話して、さらに撮影当日に2時間くらい話して、テストなしで本番撮影を行ったそうだ。「なので、脚本の段階というより、撮りながら考えて作っていきました」と篠崎監督は語った。また編集の段階でも順番を変えたり、一回撮影したものを落としたり戻したり、悩みながら作っていくうちに作品の雰囲気が形作られていったと話していた。

本作から2人でいることについての映画だと感じた観客より、監督や出演者にとって、2人でいることの意味について質問があった。回答に当たって、矢﨑さんが自分と柗下さんが同じ専門学校出身の友達同士であることや、ラストシーンは撮影の2日目、3日目の早い段階で撮影したというエピソードを語り、「自分たちのどこがゴールなのかわからない状態でラストシーンを撮ったのですが、柗下さんとの関係もあって、珠子が柗下さんで良かった。ラストシーンが2人で居る意味の答えになって、そこに向かってどんどん映像を埋めていったって感じです」と振り返っていた。柗下さんも「矢﨑さんじゃないと成立しませんでした。何もセリフを決まっていなかったんですが、私がしゃべったらそれに応えてくれると信頼して委ねていたので、2人でできてよかったです」と語った。篠崎監督は「2人は僕が言ったことを覚えてくださって、頑張ってくれていました。(撮影時は)緊張しながら観ていて、ラストシーンでは2人の何年か積み重ねがちゃんと映っていて、僕はカメラ脇で観てて泣きそうになりました。そのシーンを見た時、この映画は出来た。ここに向かっていければいい」と話した。

作中に出てきた詩についての質問があり、詩は篠崎監督の娘が小学校の時に学校の課題で書いた詩で、非常に印象に残ったそうで、「いつか映画で使ってもいいと、許諾を得たんです」と言うと会場から笑い声が。続けて「この映画を撮った時に、これはいいかな、と思って使った」と答えた。

ラストシーンは丘で撮影した理由を聞かれ、篠崎監督が学生時代、『おかえり』(1996)で撮影に使用した場所であり、35年かけて3回撮影しているエピソードを語ってくれた。また、本作は室内で撮影する映画なので、最後は広い場所で終わりにしたいと考え、採用したそうだ。

今作はエチュードの手法が取り入れられた経緯を問われると、「1本撮り終えてから次の映画まで時間がすごくかかります」と語り「もう少し身軽にとは言わないのですが、かつて中学校の時に8mm映画を撮った時は、同級生に『今日夕方空いてる?』と声をかけて、そこで集まったメンバーの顔を見ながら即興で話を作っていたのを思い出し、その場で『一緒に何かやりませんか』と言って、『いいよ』って言ってくれた人たちとやってみたい」と話した。
2017年3月に撮り始めて、今まで時間をかけるつもりはなかったが、「自分の中で映画が終わり切れていないという想いが消えずにいて、無理やりまとめるより、少し距離を置いて作ろう」と思ったそうだ。「本来はデッサンとかエチュードのつもりでしたが、結果としてものすごく中断しつつ長い映画になりました。そうしないと次の映画が作れないような気がしました」と篠崎監督。

質疑応答後、篠崎監督は東京フィルメックスのスタッフ、本作品に携わってくれたさまざまな人への感謝、何らかの形で本作品を上映したいと想いが述べられた。東日本大震災を通じて変化していく人々を描く篠崎監督の作品に胸を打たれた観客から盛大な拍手が送られた。

文責:谷口秀平、撮影:明田川志保

【レポート】『コンプリシティ』舞台挨拶、Q&A

11月17日(土)、有楽町スバル座にて近浦啓の長編デビュー作『コンプリシティ』が上映された。本作はトロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、続いて釜山国際映画祭の「アジア映画の窓」へ出品、日本国内では初の上映となる。昨今、社会問題と化している失踪した技能実習生を主人公に、異国の地でどう行きていくか、普遍的な物語を描いた意欲作だ。他人になりすまして蕎麦屋に住み込みで働き始める中国人青年チェンを中国人俳優ルー・ユーライが演じ、寡黙な蕎麦屋の主人役を藤竜也が演じる。上映に先立って近浦啓監督、藤竜也、赤坂沙世、松本紀保の舞台挨拶を行われた。

藤竜也さんはルー・ユーライさんとの共演を振り返り「非常に新鮮な現場でした。ユーライさんは当然ながら日本語はしゃべれません。共通語はお互いの不確かな英語です。でも、基本的に俳優として難しいコミュニケーションをとる必要はないんです。演じる上で、何となく分かり合えちゃうんですよね」と両社の間に役者同士の通じるものがあったと語った。

赤坂沙世さんは、「ユーライさんは悪夢除けのために、日本の5円玉みたいなのを枕の下にいれて寝ていて、それをホテルに忘れてきちゃって大変だった」とエピソードを語り、会場の笑いを誘った。蕎麦屋の娘役を演じた松本紀保さんは「わたしは蕎麦屋の娘でユーライさんにいろいろ教える役でしたが、オフの時でも日本語を覚えようと一生懸命な姿が印象的でした。普段のにこやかな印象と撮影前の真剣な表情のギャップに驚きました」と語った。

近浦監督は「この映画で描いた技能実習生、不法滞在者については、最近ニュースでよく話題になっています。しかし、この映画では社会的なテーマではなく、もっと小さな物語、彼らが何らかの理由で姿を消し不法滞在者になったあとに、どう異国の地“日本”で生きていくかを描きたいと思いました」と述べた。

上映後のQ&Aでは、近浦監督と藤さんが登壇した。藤さんの出演のきっかけは「会いたい人に会いにいく」がテーマの近浦監督が立ち上げたインタビュ−サイトだったと明かした。それを発端に、近浦監督による『Empty House』という20分の短編に藤さんは出演、続いて製作した『SIGNATURE』という短編では、本作の主人公チェン・リャンの前日譚が描かれる。藤さんは本作のオファー時にこれを観て「すごく感動した、ルー・ユーライが説明出来ないような不思議な存在感で、なんて悲しそうでせつない顔をしているのだろう」とユーライさんに魅了され出演を快諾したという。

会場からは、「技能実習生の失踪というタイムリーなテーマですが、参考にしたものがありますか?」と質問があがると、近浦監督は「2014年に起こったベトナム人の技能実習生が農家で育てていたヤギを除草剤で殺して解体して食べたというニュースがあって衝撃を受けました」と答えた。それをきっかけに、監督は技能実習生の制度の仕組みを調べ、そして多くの実習生が失踪し、年々その数字が上がっている状況を知る。「失踪したあと、彼ら、彼女たちはどのように生きただろう」と想像をふくらますことが着想のきっかけとなった。彼らの置かれている状況や故郷に帰れない理由を聞き、取材を重ねていくことで映画の構想へと連なっていく。それから「藤竜也さんに出演してもらうために、藤さんに何の役を演じてもらおうか?」と考え、最終的に蕎麦屋の職人に決めたという。

「僕は職人の役が大好きです」と答え、以前出演した映画の中華料理人の役づくりについてのエピソードを披露。「プロの中華の大先生からワンツーマンで五ヶ月半、中華料理のすべてを学びました。オファーが来た時は、次はそばの練習が出来るんだ!って喜んだ」とのこと。蕎麦屋の主人役の役づくりについては「現実は実習生の様々な問題があるんでしょうけれど、僕が演じる親父はそういう事をなにも知らないと思う。だから僕自身がきちんと蕎麦を打てるようになってしまったら、あとは何も考えない。その親父にまかせようと思いましてね、全部即興で演じて、蕎麦だけはひたすら必死に打ちました。全部で70キロくらい打ちましたね」藤さんの蕎麦づくりの打ち込む様は、普段厳しい蕎麦の先生が驚くほどで、そのプロさながらの手さばきに免許皆伝も近いと監督は加えた。

会場から「中国との製作の上で大変だったことは?」と聞かれ、「中国との国際共同製作と言葉だけ聞くとおおげさな感じはしますが、端的に言うと親友の中国人の映画作家と一緒に作った形です。彼にも話を持ちかけた時、『この映画にはナイーブな部分もあるけど、描かれているのは人間と人間の普遍的な関係だ。これは、お互いの国で絶対上映しよう』という小さなところからはじまりました。現場では、もちろんクリエイティブな意見の衝突はありましたが、撮影でも編集でもすごくよい関係の中で作れました」と映画製作の上では、国家間の壁がなかったことを語った。

文責:松下加奈 撮影:吉田(白畑)留美

【レポート】『期待』Q&A

11月18日(日)、有楽町・朝日ホールにて、「特集上映 アミール・ナデリ監督」から『期待』(’74)が上映された。本作は、1970年代にイランで撮影されたナデリ監督の初期作品の一つ。東京フィルメックスではすっかりお馴染みの顔となったナデリ監督は、上映前に、にこやか登壇し、初期作品の上映の機会を得た喜びと感謝を述べた。古い映画をイランから持ち出すのは難しいそうだが、今回はイラン側の協力を得てDCP上映が実現した。

上映後に再び登壇したナデリ監督は、自伝的作品としての本作の背景を語り始めた。イラン南西部にある石油産業の町アバダンで生まれ育ったナデリ監督にとって、子供の頃の思い出といえば石油の匂いだったとか。砂漠と海はあるが緑はなく、水や氷はとても貴重なものだったそうだ。劇中の設定どおり、子供の頃は、おばあさんの言いつけでガラスの器を持って氷を買いに行き、誰よりも先に冷たい水で喉を潤すことが楽しみだったという。そして、氷で満たされたガラスの器を渡されるときには手しか見えないが、その手の女性に恋心を抱いていたとも。イラン・イラク戦争が始まってから、その氷をくれた家を再び訪れたそうだが、すでに一部が崩れ、誰も住んでいなかったという。

ガラスの器に反射する眩しい光の場面が印象に残るが、全編を通して、人工的なライトを加えずに、自然の陽光のみで撮影したそうだ。ナデリ監督は、久しぶりにこの作品を鑑賞しながら、今の自分がこの作品をもしリメイクするならばどうするだろうかと考えていたそうだが、「ワンフレーム違わず、まったく同じものを撮ると思います」と本作に対する自信をのぞかせた。そして、『CUT』(’11、第12回東京フィルメックスにて上映)の美術監督を務めた磯見(俊裕)さんにこの作品を捧げたいと述べ、来場していた磯見さんに会場から拍手が贈られた。

続いて、少年が遭遇する宗教的な儀式について質問があがった。この儀式は年に1回イランで行われている渇きや水をテーマとした祭りで、男性は屋外で、女性は屋内で儀式を行うとのこと。ただ、子供の頃に見ていた儀式のイメージを映像化することに苦心したそうだ。そして、「渇き」という話の流れでは、「今の自分は水を欲しがっているのではなく、ただ映画を作りたいだけ」と映画制作への熱い想いをあらためて語ったナデリ監督。

また、この作品はどこかファンタジックなもののように見えるが、現地ではリアルなものとして見られるのかという、作品のとらえ方についても話が及んだ。実は、この作品を制作していた頃、溝口監督に憧れていたというナデリ監督。この作品はすべてリアルなものを映し出しているが、溝口監督がよく使っていたゴーストのような感じ、夢の中のような感じが映像に出ているという。「誰か気付いてくれないかなと期待していたのに…」と茶目っ気たっぷりに残念がる一幕も。

「この頃の作品は自分が欲するものや希望がテーマで、その後はどうやって生き延びるかということがテーマでした。『山<モンテ>』(’16、第17回東京フィルメックスにて上映)の後は、原点に戻りたいと思いました。新作の『マジック・ランタン』(’18、第19回東京フィルメックスにて上映)は、『期待』の続きとなるものです。ぜひご覧ください」と述べ、Q&Aを締めくくった。

本年の東京フィルメックスでは、「特集上映 アミール・ナデリ監督」と題して、ナデリ監督の新旧合わせて5作品を紹介する。11月20日には『マジック・ランタン』、11月23日には『ハーモニカ』(’74)と『華氏451』(’18)、11月25日には『タングスィール』(’73)が上映される。この貴重な機会を見逃さないよう、ぜひ会場へ足を運んでいただきたい。


※ロビーにある『マジック・ランタン』のポスター前で

文責: 海野由子 撮影: 村田麻由美

【レポート】『名前のない墓』Q&A

11月18日(日)、TOHOシネマズ日比谷12にて特別招待作品『名前のない墓』が上映された。多彩な文学作品を引用しつつ、クメール・ルージュの支配がいかに無軌道であったかが語られる。上映後のQ&Aにはリティ・パン監督が登壇した。

パン監督は『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』(03)で犠牲者と加害者の関係を問い、「Duch, le maître des forges de l'enfer」(11)で政治犯収容所S21の所長だったドッチを撮った。15年以上前から温めてきたテーマは、「人々の心に宿った暴力性」であるという。

「これらの映画をつくる過程で考えたのは、どうすれば死者を悼むことができるのか。よく『赦す』などと言いますが、それは何が起こったかが分かって初めてできること。大量虐殺の場合、犠牲者の遺体の所在が分からないことが問題です。この映画では死者のさまよえる魂を探求することになりました」

映画には監督自身も出演している。「出るつもりはありませんでしたが、あるとき、この映画のアプローチを尊重しなければならないと思ったのです。例えば、霊媒師や僧侶が儀式に参加するよう、私を手招きします。そうすると、どうしても頭の一部や手の先が写ります。霊媒師の一人が、私の父の魂を呼び出して自らに憑依させたとき、父が私を呼んでいるのだと分かりました。そのとき、私はカメラを回し続けて後ろにいるべきか、父に会いに行くべきかを考えました。そして、後者を選んだのです。あまりにも強く彼女が私を抱きしめたので、本当に父の魂がそこにいるのだとはっきり分かりました。その時から、自分がフレームの中に存在することが当然のことになりました。けれども、実に謙虚な気持ちでカメラの前に立っています」

観客からは、「2人の村人の証言が重要な要素となっているが、彼らは犠牲者と加害者のどちらの側にいたのか」という質問が挙がった。

「村には新人民と旧人民がいました。新人民は1975年にクメール・ルージュによって『解放』され、都市から地方へ強制移動をさせられた人々です。私もその一人でした。インタビューを受けているのは、2人とも元から村にいた旧人民です。一人は農民で、新人民より権力を持っていました。もう一人は軍人で、1950年代から革命に参加し、戦争にも出陣した幹部です。この映画は、彼らのような旧人民、犠牲者、私を含めて生き延びた人々という、三角関係で成り立っています」とパン監督。さらに、霊媒師も重要な役割を果たしていると言い、「霊媒師は村人が心を打ち明ける相手です。ですから、彼らはその土地で起こっていることや、人々の抱える苦しみもよく理解しています。トラウマを癒やすには、薬よりも言葉が効くこともあるのです」と説明した。

上映の数日前、クメール・ルージュの幹部2人に大量虐殺の罪で有罪判決が出された。そのニュースをどのように受け止めたかとの質問に、「このような犯罪を裁ききるのは不可能だと思います」とパン監督。「その判決は、チャム族とベトナム系民族に対してのみ認められました。『大量虐殺』は、ルアンダ、ボスニア、カンボジアのケースでそれぞれ異なり、毎回定義し直す必要があると思います。犠牲者の数だけでなく、イデオロギー的な暴力が行われ、個人の尊厳が破壊されていることも考えなければなりません」。続けて、「ロヒンギャやイエメン、そしてカンボジアでも再び、同様のことが起こっています。だから私は過去に戻り、起こった出来事を再び理解しようと努めている。カンボジアで200万人の犠牲者がいるとすれば、200万本の映画が必要です。私にとって映画とは、再び生まれる行為で、今を生きる存在証明のようなものです」と熱く語ると、会場からは自然に拍手が起きた。

最後に、映画を作り続けた上での変化を問われると、「以前より心が平穏になったように思います」とパン監督。「私は常に死者と共に生きています。彼らの犠牲の上に、今の私があるからです。私の仕事は、人々の『記憶』を撮り続けること。当時何が起きたのか、誰が犠牲者で加害者なのか。それが分かれば、次の世代は重荷を抱えることなく、新しいページに進むことができます。死ぬ直前に思い浮かべるのが、私の好きな人たちの微笑む姿だったら。その瞬間に向けて、映画をつくっているように思います」と語った。

質問は尽きなかったが、予定時間を大幅に上回り、Q&Aが終了。一つひとつの質問に丁寧に答えるパン監督の姿が印象的だった。


※終電間際にもかかわらず、多くの方が残られてトークに耳を傾けておりました。

文責: 宇野由希子 撮影: 吉田(白畑)留美

【レポート】『草の葉』舞台挨拶

11月17日(土)、TOHOシネマズ日比谷スクリーン12にてホン・サンス監督の『草の葉』が上映された。オープニング作の『川沿いのホテル』に続いてホン・サンス監督作品がもう1作品上映されることから、関心も高く、場内は駆けつけた観客で賑わった。上映に先立ち、『川沿いのホテル』上映後にも登壇した出演俳優のキ・ジュボンさんを迎えて舞台挨拶が行われた。

「みなさんにお会いすることができて嬉しく思います。日本の映画館に来るのは生まれて初めてですが、みなさんとお会いできることは、私の人生におけるご縁だと思っています」と笑顔で挨拶したキ・ジュボンさん。

本作は、昨秋の9月~10月に3日間、さらに補充日として1日を追加して撮影が行われたそうだ。市山尚三東京フィルメックス ディレクターによると、今年2月のベルリン国際映画祭で発表されたことから驚きの速さで仕上げられた作品といえる。

直前に上映された『川沿いのホテル』の質疑応答では、キ・ジュボンさんのプライベートな部分が作品に反映されたという話題に及んだが、『草の葉』に出演することになった経緯について、「昨秋、個人的に私生活で少し難しい時期を迎えていたのですが、ホン・サンス監督に『草の葉』に出ないかと誘っていただき、元気をもらいました。この作品の後、『川沿いのホテル』にもつながりました」と述懐。

本作は、喫茶店を訪れる人たちの会話が続く作品だが、その際にセリフは用意されているのか、あるいは、俳優に任されているのかと訊かれ、キ・ジュボンさんは次のように説明した。
「ホン・サンス監督は、撮影の当日に台本を書きます。朝書いて俳優に渡すというやり方です。例えば8時から撮影があるときは、監督が6時にやってきてシナリオを準備します。俳優たちは8時にやってくると、その日の頭の回転にまかせて撮影に入ります。事前に俳優に準備させるのではなく、俳優のその日の考えを反映させるというやり方で撮っています」

ホン・サンス監督の斬新な撮影手法に興味は尽きないが、最後に、夜遅い上映時間にもかかわらず集まった観客から温かい拍手がキ・ジュボンさんに寄せられた。フィルメックスでは、11月21日に『川沿いのホテル』、11月20日に『草の葉』が再上映される。

文責: 海野由子  撮影: 吉田(白畑)留美

【レポート】『川沿いのホテル』Q&A

11月17日(土)、TOHOシネマズ日比谷スクリーン12にて、第19回東京フィルメックスのオープニング作としてホン・サンス監督の最新作『川沿いのホテル』が上映された。本作は、ホテルに滞在する詩人とその息子たちや女性客との軽妙なやり取りを通じて、人生の機微を紡いだモノクロ作品だ。上映後には、本作での演技で、ロカルノ映画祭の主演男優賞を受賞したキ・ジュボンさんが登壇し、「みなさんに歓迎していただき、とても気分がいいです」と挨拶した。

ホン・サンス監督作品には9本ほど出演しているキ・ジュボンさんだが、今回は非常に印象に残る役どころを演じている。市山尚三東京フィルメックス ディレクターから、本作への出演の経緯について訊かれると、「昨年、個人的に辛い時期を過ごしていた中で、映画を撮ろうと手を差し伸べてくれたのがホン・サンス監督でした。そのおかげで、パワーをもらい、映画に臨むことができました」と明かしてくれた。

続いて本作の撮影の順番について質問があがった。本作は全体的に順撮りで、ホン・サンス監督はその撮り方を守っているとか。ただし、主人公がぬいぐるみを持ち出す場面は、当初ムーミンが使用されていて、著作権の関係から撮り直したという。また、劇中で酒を飲む場面は本当に酒を飲んでいたそうだ。

ホン・サンス監督は作品ごとに形式や手法を変えている。そうしたことについて、俳優に事前の説明があるのかということ、そして、俳優の境遇を反映して撮影するのかということについて話が及んだ。

俳優に事前の説明があるのかどうかという点では、監督から作業前に説明があると答えたキ・ジュボンさん。今回初めて取り入れた手法としては、カメラを動かしながら撮るということだったという。「これまでは固定カメラの中で俳優が動くことが多かったのですが、今回は俳優が動くとそれをカメラが追いかけてくるという手法を取り入れていました」と説明。

また、俳優の境遇を反映しながら撮影しているのかという点では、キ・ジュボンさんは、監督との個人的な語らいが本作につながったと次のように振り返った。「昨秋、『川沿いのホテル』の前に『草の葉』を撮影していたとき、俳優としての私生活について監督といろいろ話をしました。それがこの作品に反映されることになりました。監督は俳優からよく話を聞き、それを作品に反映させるということがよくあります。俳優に配慮しながら、俳優から聞いた話を通してインスピレーションを得ているようです。俳優とたくさん話をして、俳優の考えを読みとってくれます。」

さらに、ホン・サンス監督の撮影では、撮影当日の朝に俳優にシナリオが渡されることが知られているが、キ・ジュボンさんによると、撮影したものはほとんどカットされずに使われるという。ホン・サンス監督作品の撮影は、他の監督作品に参加するときとは異なると語るキ・ジュボンさん。通常は、俳優として作品や演じる人物を徹底的に分析してから撮影に臨むものだが、ホン・サンス監督作品の場合には、朝にシナリオがあがるので、シナリオを渡されたときに敏感に頭をフル回転させながら作業するとか。ホン・サンス監督作品の常連的な存在感を示すキ・ジュボンさん、ベテラン俳優らしい冷静な一面をのぞかせた。

質疑応答では、観客から質問が途絶えることはなく、ホン・サンス監督作品への関心の高さがうかがわれた。フィルメックスでは、11月21日に『川沿いのホテル』、11月20日に『草の葉』が再上映される。ぜひ、この機会に両作品でキ・ジュボンさんの演技を味わっていただきたい。

文責: 海野由子

【レポート】開会式

11月17日(土)、TOHOシネマズ日比谷スクリーン12にて、第19回東京フィルメックスの開幕式が行われた。今春、長らくフィルメックスの主力スポンサーだったオフィス北野による支援が打ち切られ、一時期は開催が危ぶまれていたフィルメックスだが、新たに木下グループの支援を得て開催の運びとなった。開会式に登壇した市山尚三東京フィルメックス・ディレクターは、「みなさんにご心配をおかけしたかと思いますが、このように無事に初日を迎えることができ、サポートをしていただいたみなさんに感謝したいと思います」と謝辞を述べた。

続いてコンペティション部門の審査員が紹介され、アートディレクターのエドツワキさん(日本)、昨年のコンペティション作品『殺人者マルリナ』で最優秀作品を受賞したモーリー・スリヤ監督(インドネシア)、東京テアトルの西澤彰弘さん(日本)、審査委員長を務めるウェイン・ワン監督(米国)の4名が登壇した。また、開会式には間に合わなかったが、韓国から映画ジャーナリストのジーン・ノさんも審査員に加わる。

市山ディレクターによると、審査委員長のワン監督もフィルメックスの行く末を案じていた一人で、ワン監督から協力の申し出があり、今回の審査委員長の就任依頼に至ったという。さらに、昨年フィルメックスの会期中に来日していたワン監督は、1本ぐらい観ようかというつもりでやって来たが、結局、1日1本観に来ることになるほどフィルメックスに魅せられたというエピソードを披露。ワン監督は、「今回のラインナップを見ても本当に興味深い作品が勢揃いしていて、楽しみにしています。フィルメックスへのご支援をありがとうございます」と述べ、観客から大きな拍手が寄せられた。

今年のコンペティション部門は全10作品。最優秀作品賞と審査員特別賞などの審査結果は11月24日(土)に行われる授賞式にて発表される。今回は、アミール・ナデリ監督の特集上映、日本の6作品をはじめとした個性豊かな気鋭の監督作品が並ぶ特別招待作品のほか、映画批評を検証する<国際批評家フォーラム>、親子で映画&聴覚障がい者向けの日本語字幕付き鑑賞会<映画の時間プラス>、トークショーなど、多彩な関連イベントが組まれている。

アジア各国の秀逸な映画が集う第19回東京フィルメックス。映画作家と観客の出会いの場として、映画の未来へ新たな歩みを踏み出した映画祭が幕を開けた。

 

文責: 海野由子  撮影: 明田川志保、吉田(白畑)留美

【レポート】『僕はイエス様が嫌い』舞台挨拶

第19回 東京フィルメックスの初日となる11月17日(土)、開会式に先駆けて有楽町スバル座にて『僕はイエスさまが嫌い』が上映された。東京から雪深い地方のミッション系の学校に転校した少年ユラが、新たな習慣に戸惑いながら、突然現れた小さなイエス様や友達と過ごす姿を描いた作品。奥山大史監督が監督、脚本、撮影、編集を手がけた長編デビュー作で、去る9月にサンセバスチャン映画祭で最優秀新人賞を獲得した話題作。今回のフィルメックスでの上映が日本初公開となる。 続きを読む

【レポート】『素敵なダイナマイトスキャンダル』Q&A

第19回東京フィルメックスの開催に合わせ、有楽町スバル座で多様な観客に向けて実施された上映会「映画の時間プラス」 。11月17日(土)には、『素敵なダイナマイトスキャンダル』が聴覚障がい者向け日本語字幕付きで上映された。本作は母親が隣家の青年と不倫の末、ダイナマイト心中した体験を持つ雑誌編集者・末井昭さんの自伝的エッセイを映画化したもの。上映後のQ&Aには冨永昌敬監督が登壇した。 続きを読む