11月24日、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『恋物語』が上映され、上映後のQ&Aにイ・ヒョンジュ監督が登壇した。美大生のユンジュとバーで働くジス、女性同士のゆれうごく恋愛感情を繊細に描いた本作は、イ監督の長編デビュー作。韓国映画アカデミー(KAFA)卒業生の中で選ばれた作品が大学のサポートを受けられるプログラムの一本として製作された。
司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターは、「KAFAの作品はレベルが高いものが多いが、この作品は特に優れていると感じました。演出の素晴らしさに加え、題材の選び方もこれまでのKAFA作品に比べユニーク」と紹介し、監督に企画の経緯を訊いた。
「以前短編を撮っていた頃から、愛の物語に関心があった。人と人との関係を描くものだからです」とイ監督。しかし、企画当初はもっとコミカルで、何か特別な事件が起こって展開するようなストーリーを考えていたという。「しかしそれではどこか作為的ではないか?という思いが起こり、それでいままでのような愛の物語に方向修正しました」。韓国では同性愛、とくに女性の同性愛は歓迎されない傾向があるという。「彼女たちは性のアイデンティティを人に話しにくく、恋をするのにも勇気が必要。そんな中で、恋愛を通して成長していく姿を描きたかった」
すると観客から「韓国国内の上映時に妨害行為があったと聞いているが」と声が上がった。一般公開前に有料の試写を行った際、一人の人物が数十枚のチケットを予約し、それを上映直前にキャンセルしたために大量の空席が発生したという。「それは以前も他の映画であったケースで、同性愛への嫌悪から行われたとは断定できません。でも、これは防ぎようがないこと」と監督。
「本作が長編作品として成立したということ自体、同性愛に対する社会の認識が変化したことを示しているのではないか」と問われると、監督は「韓国でも近年、『アデル、ブルーは熱い色』(13)や『キャロル』(15)といった作品が上映されています。しかし状況が大きく変わったというより、以前からそういった映画を待ち望んでいた観客は多くて、ようやく日の目を見たのだと思います」と語った。雰囲気が変わったと感じたのはキャスティングの時だという。「以前は、同性愛者の役に手を上げてくれる女優さんは少なかった。今では商業映画に出ている女優さんたちでも、こういった役にやりがいを感じて出演しようという人が多くなってきました」
ジスの働くバーに訪ねてくる女性はどういった人物なのか、という質問に対して、監督は「ジスの元恋人で、きちんと関係を精算していないという設定です」と説明した。「ジスには昔の恋があり、ユンジュは初恋。彼女たちを取り巻く男女にも、それぞれの恋愛があります。韓国語のタイトル「恋愛談」にふさわしく、いろいろな恋愛を見せたかった」
最後の質問は、印象的なラストの演出について問うもの。観客に委ねるように思われたが、と訊かれると、監督は「ふたりがどのように出会い、恋に落ちたか、ご覧になればおわかりいただけると思います。でも、この後のことは、私には決められないと思いました」と応じた。
脚本を書いているときから、ふたりの恋愛を見守る気持ちになっていたという監督は、「彼女たちの恋愛も、同性愛者でない人たちの恋愛も、同じ。でも彼女たちはこれから、社会の否定的な視線にさらされることもあるでしょう。だからせめてここだけは、明るい光で包みたかったのです」と締めくくった。
ここで時間となり、Q&Aは終了。韓国では先週末に公開され、好評を博しているという本作。11月25日21時15分より、TOHOシネマズ日劇3で2度目の上映が行われる。
(取材・文:花房佳代、撮影:吉田留美)