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学生審査員座談会

今年で5回目となる東京学生映画祭主催の「学生審査員賞」。3人の学生審査員がコンペティション部門の作品を対象に審査し、賞を決定する。本年度の学生審査員は第27回東京学生映画祭グランプリ『雲の屑』の中村祐太郎さん(多摩美術大学卒)、同準グランプリでPFFアワード2015審査員特別賞も獲得した『ゴロン、バタン、キュー』の山元環さん(大阪芸術大学卒)、第28回東京学生映画祭企画委員代表の菅原澪さん(日本女子大学2年)。中村さんは2013年に続いて二度目となる。同映画祭企画委員の十河和也さん(明治大学2年)を加えた4名で、映画にまつわるあれこれを話してもらった。大阪在住の山元さんは、Skypeでの参加となった。聞き手は東京フィルメックス事務局の岡崎匡が務めた。


——映画を好きになったきっかけは何でしたか?

山元「小学校の頃、家族で映画館に行っていました。映画も面白いんですけどその後家族で外食するのが楽しみで。それも含めて週末に映画に行くってイベントがあると一週間がスペシャルなものになった。そういう感じで、自分のなかで「映画=娯楽」っていう感覚が形成されていったんですよね。家族で観たもので覚えてるのは『アヒルと鴨のコインロッカー』『Mr.& Mrs.スミス』『ジュラシック・パーク』なんかですね」

中村「母親が会社でよく映画のチケットをもらってきていて、一緒に話題作を観に行ったりしてました。山元くんと違って、思春期で女の子を意識するような年頃なのに、なんで母親と一緒なんだって気恥ずかしかった(笑)でも映画観れるのはお得だなって思ってました」

菅原「私は家族ではあんまり記憶にないです。兄と一緒に名探偵コナンやポケモンを観に行くことはあったけど」

十河「僕も家族で映画ってあんまりなかったです。山元さんのお話を聞いてるとすごく羨ましいですね」

菅原「自分で映画を観るようになったきっかけは『HERO』かな。好きなドラマに出ている俳優さんをもっと観たいと思って、映画を観るようになりました」

十河「僕は高校時代に地元の香川で『桐島、部活やめるってよ』を観て火がついて、日本映画を観るようになって…犬童一心や岩井俊二から入って、大学生になってから友人たちの影響で海外の作品も観るようになりました」

——山元さんと中村さんが、作る側になりたいと思ったのはどうしてでしょうか。

山元「『青い春』『ゆれる』『鮫肌男と桃尻女』といった日本映画に影響を受けました。すごくシンプルに、映画を観て感動して、だから作りたくなった。それで高校のときに双子の兄と二人で映画を作ったんです、自然に」

中村「僕は大学でバカにされてたから、ぎゃふんと言わせてやろうっていうのが動機。一年の時はハードコアな映像を撮ってたんです。屋上で女の子が自分で頭刈ってるとこを撮って、丸坊主になって性格が変わっちゃったのを半年くらい追っかけました。それを学校で見せたら「何やってんの?」「気持ち悪い」みたいな反応で(笑)二年の時に大学に青山真治監督が来たのをきっかけに、よしやってやろうって感じで劇映画を撮り始めた。山元くんの『ゴロン、バタン、キュー』は、映画としての質量が違うっていうか、伝えたいことがすごく明確。僕と違っていてすごいなと思うところです。僕の映画は、ジェラシーが発端だから、その時に何を思って、何に反発してるかっていう一瞬の熱は発揮できるんだけど」

山元「東学祭で本人に会う前に、祐太郎さんのことは知ってました。祐太郎さんの作品ってギラギラしてますよね。映画から殴りかかってくるみたいに感じた。以前の作品ももっと観てみたい」

中村「いま、映画館で上映する計画を立ててるから、ぜひ観に来てほしい。こないだ新宿バルト9で開催された日本学生映画祭で『雲の屑』を上映したんですけど、自分の作品は大スクリーンに映すだけのパワーがあるって思えたんですよ。赤字になってもいいから、上映しようと思ってます」

——山元さんは、自作を上映して観客の皆さんと話をするという経験は、今年の東学祭が初めてだったんですよね。

山元「そうです、こっぱずかしかったですね(笑)以前からミュージッククリップを作ってYoutubeに発表したりはしてたんですけど、ちゃんと映画を作って映画祭に出したのは『ゴロン、バタン、キュー』の東学祭が初めてです」

——フィルメックスのコンペ出品作の監督もこれが初監督作という人が多いから、同じ状況ですよね。QAとか、登壇していらっしゃる監督たちは、すごくドキドキしているんだと思います。初監督作品ってその人の個性が全部出ると思うんですが、『ゴロン、バタン、キュー』は、描かれる風景も含めて、これが山元さんなんだなということが伝わってきました。中村さんの映画も同じように感じます。フィルメックスはどんな映画祭かと聞かれたときに、作家性の強い作品を上映していると答えるのですが、その人にしか作れない、作り手のパーソナリティが強く出ているという点で山元さんと中村さんも作家性の強い映画作家なんだと思います。そういうところを、東学祭の今年の審査員だった大林宣彦監督たちは評価されたんじゃないでしょうか。山元さんのご家族が客席で応援しているのを見て心温まる思いがしましたし、東学祭って良いところだなと思いました。

中村「すっごくいい場所ですよね。来年の1月から新作の撮影に入るんですけど、それがうまく行ったら意気揚々と東学祭の会場に顔を出します。ダメだったら恥ずかしいから行かない(笑)」

——今年の東京フィルメックスで、注目しているのはどの作品ですか?

中村「オープニングの『ひそひそ星』。自主制作で自由に撮ったっていう園子温ワールドめちゃくちゃ楽しみです。それからツァイ・ミンリャン特集はすごく勉強になると思う。上映機会が少ないみたいだから、ここで観ておかないと」

山元「ジャ・ジャンクーも観たい。こんなにまとめて映画を観る機会もそうないし、馴染みのない国の映画も多くて、めっちゃ楽しみです。スリランカとかカザフスタンてどこにあるんやったっけ?って感じがして(笑)」

菅原「去年のフィルメックスで鑑賞した中では、『私の少女』が一番印象に残りました」

山元「最近、韓国映画の『チェイサー』を観たところなんですけど、この『コインロッカーの女』も楽しみですね。また闇金の話かよ!みたいな(笑)」

中村「奥田庸介監督は大学の先輩なんですよ。『クズとブスとゲス』には多摩美の在校生もたくさん参加しています」

——中村さんが審査に参加された2013年の学生審査員賞は『トランジット』でしたよね。

中村「俺は激推ししちゃいましたね。最終的には全員が納得した上で賞を決めたんですが。今回は十河さん、菅原さん、山元さんと僕の間で殴り合いがあるかもしれないですね」

山元「面白そうやな(笑)楽しみにしてます」

——皆さん、映画漬けの9日間を楽しんでください。

(聞き手:岡崎 匡、構成:花房佳代)


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