【レポート】『期待』Q&A

11月18日(日)、有楽町・朝日ホールにて、「特集上映 アミール・ナデリ監督」から『期待』(’74)が上映された。本作は、1970年代にイランで撮影されたナデリ監督の初期作品の一つ。東京フィルメックスではすっかりお馴染みの顔となったナデリ監督は、上映前に、にこやか登壇し、初期作品の上映の機会を得た喜びと感謝を述べた。古い映画をイランから持ち出すのは難しいそうだが、今回はイラン側の協力を得てDCP上映が実現した。

上映後に再び登壇したナデリ監督は、自伝的作品としての本作の背景を語り始めた。イラン南西部にある石油産業の町アバダンで生まれ育ったナデリ監督にとって、子供の頃の思い出といえば石油の匂いだったとか。砂漠と海はあるが緑はなく、水や氷はとても貴重なものだったそうだ。劇中の設定どおり、子供の頃は、おばあさんの言いつけでガラスの器を持って氷を買いに行き、誰よりも先に冷たい水で喉を潤すことが楽しみだったという。そして、氷で満たされたガラスの器を渡されるときには手しか見えないが、その手の女性に恋心を抱いていたとも。イラン・イラク戦争が始まってから、その氷をくれた家を再び訪れたそうだが、すでに一部が崩れ、誰も住んでいなかったという。

ガラスの器に反射する眩しい光の場面が印象に残るが、全編を通して、人工的なライトを加えずに、自然の陽光のみで撮影したそうだ。ナデリ監督は、久しぶりにこの作品を鑑賞しながら、今の自分がこの作品をもしリメイクするならばどうするだろうかと考えていたそうだが、「ワンフレーム違わず、まったく同じものを撮ると思います」と本作に対する自信をのぞかせた。そして、『CUT』(’11、第12回東京フィルメックスにて上映)の美術監督を務めた磯見(俊裕)さんにこの作品を捧げたいと述べ、来場していた磯見さんに会場から拍手が贈られた。

続いて、少年が遭遇する宗教的な儀式について質問があがった。この儀式は年に1回イランで行われている渇きや水をテーマとした祭りで、男性は屋外で、女性は屋内で儀式を行うとのこと。ただ、子供の頃に見ていた儀式のイメージを映像化することに苦心したそうだ。そして、「渇き」という話の流れでは、「今の自分は水を欲しがっているのではなく、ただ映画を作りたいだけ」と映画制作への熱い想いをあらためて語ったナデリ監督。

また、この作品はどこかファンタジックなもののように見えるが、現地ではリアルなものとして見られるのかという、作品のとらえ方についても話が及んだ。実は、この作品を制作していた頃、溝口監督に憧れていたというナデリ監督。この作品はすべてリアルなものを映し出しているが、溝口監督がよく使っていたゴーストのような感じ、夢の中のような感じが映像に出ているという。「誰か気付いてくれないかなと期待していたのに…」と茶目っ気たっぷりに残念がる一幕も。

「この頃の作品は自分が欲するものや希望がテーマで、その後はどうやって生き延びるかということがテーマでした。『山<モンテ>』(’16、第17回東京フィルメックスにて上映)の後は、原点に戻りたいと思いました。新作の『マジック・ランタン』(’18、第19回東京フィルメックスにて上映)は、『期待』の続きとなるものです。ぜひご覧ください」と述べ、Q&Aを締めくくった。

本年の東京フィルメックスでは、「特集上映 アミール・ナデリ監督」と題して、ナデリ監督の新旧合わせて5作品を紹介する。11月20日には『マジック・ランタン』、11月23日には『ハーモニカ』(’74)と『華氏451』(’18)、11月25日には『タングスィール』(’73)が上映される。この貴重な機会を見逃さないよう、ぜひ会場へ足を運んでいただきたい。


※ロビーにある『マジック・ランタン』のポスター前で

文責: 海野由子 撮影: 村田麻由美

第19回東京フィルメックス 連携企画「インディペンデント映画と公的支援~日本の映画行政について考える~」

今年、映画「万引き家族」(是枝裕和監督)がカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞しました。受賞直後から、万引きと貧困を題材にした内容が日本のネガティブなイメージを拡散すると懸念した層から、この作品が文化庁の助成を受けていることへの批判が上がり、公権力と文化助成の関係、その正当性について様々な議論が巻き起こりました。

そもそも、なぜ映画への公的支援があるのでしょうか。映画の多様性を守るため? でも私たちの税金を使う根拠は? 国に頼らないと作れない映画ってどうなの―?

フランスや韓国など諸外国の映画人に聞くと、映画への公的支援を獲得するために連帯して闘ってきた歴史があると言います。一方、日本では、映画への公的支援、とくにインディペンデント映画への支援については、これまでその必要性が深く議論、認知されてきませんでした。

このシンポジウムでは、第19回東京フィルメックス出品監督や審査員も交え、アジア諸国の実情と比較しながら、日本におけるインディペンデント映画と公的支援について考えます。映画製作に携わる人から、観る人、そして納税者まで、あらゆる立場から意見を出し合いながら、今後の映画行政の可能性、そして映画文化の公共性を探ります。

●Part.1 アジアの実情を知る 10:30-11:20

【ゲスト】
モーリー・スリヤ(Mouly SURYA/Indonesia)
[映画監督]
1980年生まれ。オーストラリアの大学でメディア芸術、文学、映画を学ぶ。監督デビュー作『フィクション。』(2008)に続く第2作『愛を語る時に、語らないこと』(13)はサンダンス、カルロヴィヴァリなど多くの国際映画祭に選ばれ、ロッテルダム映画祭でNETPAC賞受賞。第3作『殺人者マルリナ』(17)はカンヌ映画祭監督週間で上映後、世界の映画祭へ。第18回東京フィルメックスでは最優秀作品賞を受賞。本年東京フィルメックスの審査員。

ドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ(Dwi Sujanti Nugraheni/Indonesia)
[映画監督]
ジョグジャカルタ出身。ガジャ・マダ大学で政治学を専攻。地元NGO、国際NGOなどで働いた後、映画製作を始める。2003年以降、ジョグジャカルタ・ドキュメンタリー映画祭の運営に携わる。2007年には米国ケンタッキー州のコミュニティ・メディアセンター、2009年にはニューヨーク市の映画配給会社ウィメン・メーク・ムービーズにインターンとして勤務。初長編『デノクとガレン』(2012)が山形国際ドキュメンタリー映画祭2013アジア千波万波で上映。

【聞き手】
市山尚三(Shozo Ichiyama)
[映画プロデューサー/東京フィルメックス ディレクター]

●Part.2 日本の実情を考える 11:30-12:30

【ゲスト】
諏訪敦彦(Nobuhiro Suwa)
[映画監督/東京藝術大学大学院映像研究科教授]
東京造形大学在学中にインディペンデント映画の制作にかかわる。卒業後、テレビドキュメンタリーの演出を経て、97年に「2/デュオ」を発表し、ロッテルダム国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞。「M/OTHER」でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。その他の主な作品に「H Story」「パリ・ジュテーム」(オムニバス)「不完全なふたり」「ユキとニナ」など。2018年ジャン=ピエール・レオー主演の新作「ライオンは今夜死ぬ」が公開された。

荒木啓子(Keiko Araki)
[ぴあフィルムフェスティバル ディレクター]
1990年PFF参加。1992年よりPFF初の総合ディレクターを務める。コンペティション「PFFアワード」を通して若き映画人の輩出や育成を積極的に行うと同時に、招待作品部門ではダグラス・サーク、ミヒャエル・ハネケのアジア初特集など、映画の過去と未来を伝える企画を実施。近年ではPFF関連作品のみならず、日本のインディペンデント映画の海外紹介にも力を入れ、日本映画の魅力を伝える活動を幅広く展開している。

近浦 啓(Kei Chikaura)
[映画監督]
2013年、短編映画「Empty House」で映画監督としてキャリアをスタート。第2作短編映画「なごり柿」は、クレルモン=フェラン国際短編映画祭に入選。第3作短編映画 「SIGNATURE」は、ロカルノ国際映画祭の短編コンペティション部門にノミネートされる。 長編デビュー作品となる「COMPLICITY」は、第43回トロント国際映画祭でワールドプレミア上映された。同作品は、第19回東京フィルメックス特別招待作品に選ばれた。

【聞き手】
深田晃司(Koji Fukada)
[映画監督/独立映画鍋 共同代表]

●Part.3 会場を交えてディスカッション 12:30-13:30

Part.1、2の登壇者全員のディスカッションと参加者のQ&Aを行います。
【総合司会】
土屋 豊(Yutaka Tsuchiya)
[映画監督/独立映画鍋共同代表]

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日 時:11月18日(日)10:00開場 10:30開始(13:30終了予定)
会 場:ビジョンセンター東京有楽町 C・D合同ルーム
東京都中央区銀座1-6-2 銀座Aビル3階
東京メトロ有楽町線 銀座一丁目駅(6番出口)から徒歩1分
料 金:一 般 1000円/映画鍋会員 500円
※予約不要・先着順/混雑状況によっては、立ち見や入場をお断りする場合もございます事を予めご了承下さい。

お問い合わせ:特定非営利活動法人独立映画鍋
070-5664-8490(11:00~18:00) info@eiganabe.net

チケット発売中

第18回東京フィルメックスのチケットを発売中です。
有楽町朝日ホールの上映回はセブンチケットで、TOHOシネマズ 日劇の上映回はvit®で販売しています。

11/9(木)までの購入で前売券が1,000円になる限定早割を実施中です(朝日ホールで平日の17時までに開映する上映回が対象)。 また昨年に引き続き、前売券が1,000円に、会期中券が1,300円に割引されるU-25割も実施しています(平成4年1月1日以降生まれの方が対象)

前売券は11/17(金)までの販売ですので、ぜひお早目にお買い求めください。 詳細はチケットページをご確認ください。