
映画を企画した岩根さんは、2006年からハワイの日系移民と関わっている。

双葉盆唄の奏者である、横山久勝さんたちが初めてマウイのボンダンスを見たとき、あまりの賑やかさに驚いていたという。20年以上、太鼓を制作していた横山さんだが、移住先での太鼓作りを諦めており、マウイの人たちに太鼓を一つプレゼントした。それまでのマウイの太鼓はワインの樽で作ったもの。初めて一本の木で作った太鼓を手にしたマウイの人々から「行き場のない双葉の盆唄も継いでいきたい」と提案されたそうだ。

岩根さんはドキュメンタリー『白百合クラブ東京へ行く』(03)で写真を担当しており、中江監督とは20年来の付き合いがあるが、監督は当初、映画を撮ることを断り続けていた。「僕は英語も話せませんし、既に多くの人が双葉町の映画を撮っていましたから」。その後、中江監督はNHKで沖縄系のハワイ移民のドキュメンタリーを2本連続で撮ることになり、縁を感じた。さらに、岩根さんの紹介で会った横山さんの存在も大きい。「横山さんの魂は今も双葉町にあるのだなと感じ、撮らなくてはと思いました。この映画は横山さんを撮っていけば成立するという予感もありました」と中江監督は語った。

Q&Aで真っ先に手を挙げたアミール・ナデリ監督は、「ポジティブで、希望に溢れた作品でした。他のどのドキュメンタリーとも違う独自性もある。復興を願う人々の情熱や、故郷への思いが伝わり、心に響きました。音楽も素晴らしい!」と絶賛。中江監督は「辛い状況は映ってしまうだろうけど、それでこの映画を終わらせるわけにはいかない。どうやったら映画を救えるか、岩根さんと3年間話しました」と明かした。
劇中、200年以上前に富山から福島の相馬地方に移り住んだ人々の話がアニメーションで登場する。中江監督は「最初はドラマにしようかと思いましたが、アニメーションの方が想像力が働くのではないかと思いました」と言い、「撮影のときは双葉の人たちにいただいてばかり。出演して良かったと思えるよう、映画から彼らにメッセージを送れないかとずっと考えていました。僕の中ではアニメーションの部分がそう。100年、200年の単位で考えると、祖先はみんな移民なのではないかという思いも込めました」とその意図を語った。さらに、「やぐらの競演」を映像で残したいという横山さんたちの思いに応え、9台のカメラで撮影した2時間以上にわたる完全版も制作して双葉町の人々に手渡した。
中江監督は今夏もカメラを持たずに「やぐらの競演」を見に行った。現在は仮設住宅から復興住宅に移った人も増え、明るい兆しが見えたという。今後、双葉町の映画を撮り続けるかは未定だが、今回の上映で新たな発見もあった。「横山さんはハワイで、『もし双葉が復興したら、マウイの人たちに盆唄を教えてもらいたい』と言ったと思っていましたが、実際は『孫とか子どもの代になって、双葉が復興すれば』と言っており、復興への確信があったのだと気付いた。横山さんのその気持ちに今後も寄り添っていきたい」
圧巻の演奏シーンも見どころの本作。『盆唄』は2019年2月15日より、テアトル新宿ほか全国で順次公開される。



ガザで撮影した映画としては、ドキュメンタリー「Give Peace a Chance」(94)や、「The Arena of Murder」(96)がある。前者は、1995年に暗殺されたイツハク・ラビン首相に取材したもの。イスラエルとガザの理想の関係が丁寧に語られているが、それは現在、私たちが目にしている状況とは全く違うものだという。ギタイ監督は、「Rabin, The Last Day」(15)も含めて、ラビン首相に関連する作品をいずれ日本でも上映したいと抱負を語った。


また、本作には「ウィリー・チャンさんに捧げる」という献辞が添えられているが、ジャッキー・チェンさんの作品のプロデューサーとして知られるウィリー・チャンさんとの縁について話が及んだ。ウィリー・チャンさんは、クワン監督の『ルージュ』(’87)と『ロアンリンユイ 阮玲玉』(’91)のプロデューサーを務めていたそうだ。長年現場でやってこられたウィリー・チャンさんは、ジャッキー・チェンさんとの仕事がなくなってから退屈だったのかもしれないと推察したクワン監督。本作を撮る前に、名前だけでもプロデューサーとしてクレジットして欲しいと依頼されたため、投資者とも相談し、理解を得ていたそうだ。ところが残念なことに、本作のクランクイン前に亡くなられてしまったという。
さらに、本作ではLGBTを扱っているが、今後もLGBTを扱うのかという質問が挙がった。これまでの作品では女性を描くことが多かったクワン監督だが、自身をフェミニストと称しているわけでもなく、「すべては登場人物の人間性からスタートしている」と説明。LGBTのテーマは、『藍宇~情熱の嵐』(’01)のほか、『ホールド・ユー・タイト』(’98)でも扱われているが、クワン監督は「登場人物に合わせて必要に応じて描いています。描きたい題材の中にたまたま同性愛者がいるという流れなのです」と述べた。
最後に、「もう一度、言わせてください。私は監督をするのが大好きです」と、クワン監督の力強い言葉で質疑応答が終了。久しぶりにメガホンを取ったクワン監督の作品を心待ちにしていた観客からは大きな拍手が贈られた。