【レポート】『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』

11月22日(木)、TOHOシネマズ日比谷12にてコンペティション作品『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題) 』が上映された。舞台は中国貴州省の凱里。父の葬儀のために久しぶりに帰郷し、ネオンに彩られた街を歩く主人公ルオの脳裏に、過去の記憶がよみがえる。約1時間にわたるワンカットの3Dに挑戦した、野心的な作品だ。上映後のQ&Aにはプロデューサーのシャン・ゾーロンさんが登壇した。

シャンさんは、2010年の東京フィルメックスの人材育成事業「ネクスト・マスターズ・トーキョー」(「タレンツ・トーキョー」の前身)の修了生。本作の中国での劇場公開直前のタイミングのため、プロモーションなどに多忙で来日が叶わなかったビー・ガン監督の代理で出席した。

観客からはまず、3Dのシーンの撮影手法についての質問が挙がった。
シャンさんは「長回しはビー・ガン監督がどうしても譲れないところでした。ただ、3Dカメラでの長回しは難しく、2Dのカメラで撮影し、後から3Dに変換しました」と説明した。3台のカメラで撮影し、ワンカットに見えるよう、2回繋いでつくっている。ドローン撮影も取り入れ、様々な手法を駆使した。撮影には2度挑戦したが、1回目は何テイク撮っても失敗。人気俳優が出演している作品のため、なかなか彼らのスケジュールを確保できなかったが、今年2月に全員が集まり、再チャレンジした。5日間で準備し、2日に分けて撮影。5テイク中2テイクが成功したという。

劇中、馬が突然暴れ出す場面がある。どうやって撮影したかとの質問には、「あのシーンは天の采配です」とシャンさん。馬も何回もやらされて疲れきっており、怒りを爆発させたタイミングだった。そこへやはり疲れ切っていた主人公二人が登場。映画の雰囲気とも合っていたことから、そのまま採用したそうだ。

主題歌には中島みゆきさんの「アザミ嬢のララバイ」が使われている。ビー監督はこの曲を聞きながら脚本を書いていた。そこでシャンさんは、この楽曲を映画で使えるよう奔走したが、ビー監督は最後になって「使わない」と言った。そのため、カンヌ映画祭では別の中国の曲がかかっている。しかし、シャンさんが「すでに予算超過している作品なのに、この曲のために高額の楽曲使用料を払っているのだから、使わないのはおかしいだろう」と言ったところ、ビー監督も同意し、この楽曲を使うことになったのだという。

最後に、「3Dは上映の機会が限られる面もあるのでは」と観客から指摘されると、「いいご質問をありがとうございます」と答えるシャンさん。中国では80~90%の映画館が3Dに対応しているので問題はない。しかし、例えばフランスでは40~50%と各国で状況が異なる。そのため、2D版と3D版の両方を提供することにしているが、「製作サイドとしては、できるだけ3Dで観てもらいたいと考えています。これは技術的な面ではなく、映画の美術を追求した結果、3Dの方がいいと判断したためです」と訴えた。

なお、本作は2019年夏に日本の劇場公開が予定されている。ビー監督の長編第1作『凱里ブルース』(15)も併せて公開される可能性があるとシャンさんから発表されると、会場からは一際大きな拍手が起こった。


※深夜にもかかわらず多くの方が残ってQ&Aに参加してくださいました。

文責:宇野由希子 撮影:明田川志保

【レポート】『シベル』Q&A

11月21日(水)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品の『シベル』が上映された。本作は、トルコの山岳地帯にある村を舞台に、言葉を喋れない少女シベルの逞しい生き様を通じて、様々な問題を浮き彫りにしたドラマ。上映後には共同で監督を務めたチャーラ・ゼンジルジさんとギヨーム・ジョヴァネッティさん、そして主人公シベルを演じたダムラ・ソンメズさんがQ&Aに登壇。客席からの質問に答える形で、作品の舞台裏を語ってくれた。

 これが三作目となるチャーラ・ゼンジルジ監督とギヨーム・ジョヴァネッティ監督のコンビは、前作「人間」を全編日本で撮影している。そこでまず、ジョヴァネッティ監督が「5年前、日本で映画を作りました。今日は東京に戻ってこられて幸せです」と日本語で挨拶した。

Q&Aでは、まずジョヴァネッティ監督が物語の舞台となった地域について説明。豊かな自然と森の風景が印象的なこの村が存在するのは、トルコ北東部の黒海に面した山岳地帯。トルコの他の地域と比較して森林が多いのが特徴で、その反面、生活するには厳しい環境でもある。「そういう地形的な事情により、人々は昔から口笛で会話する文化を育んできました」。その口笛を使った独特の会話法は、本作で重要な位置を占める。口のきけないシベルは、全ての会話を口笛で行なうからだ。

シベル役のダムラ・ソンメズさんは、劇中でその口笛を見事に使いこなし、力強い演技と併せて見る者に鮮烈な印象を残す。だが、彼女にとっては「全てが初めての経験」。当初は「何から手を付ければいいのかわからなかった」のだという。そこでまず、長い時間を掛けて監督たちと一緒に口笛で会話する文化について学び、自分のリズムで喋れるように、言葉を口笛に「翻訳」する作業を実施。さらに、ひとつひとつの動作と口笛のタイミングがシンクロするまできめ細かい練習を積み、シベルという主人公が出来上がった。

ゼンジルジ監督は、そんなソンメズさんについて「信じられないほどの努力を積んだ」と絶賛。これに応えてソンメズさんが劇中と同じように口笛を吹くと、客席から大きな拍手が送られた。
さらにゼンジルジ監督は、日本人に馴染みの薄いトルコの村を舞台にしたこの物語で描かれた社会的な問題について説明。
「映画を製作する時は、地域性を意識しながらも、普遍的に描くことを心がけています。この作品で扱った問題は、トルコに限らず、全世界で起こり得る事」と前置きした上で、2つの問題を挙げた。

まずひとつ目が「女性に対する社会の不平等」。近年は世界的な問題でもあるだけに、「もしかしたら、日本も似たような状況にあるのでは」と指摘した。

さらに、2つ目の問題として「父権社会、家父長制が女性に与える影響」を挙げると同時に、「父権社会、家父長制が男性に与える影響も意識した」と補足。そして、「どれほど(女性を公平に扱う)進歩的な家庭で育った男性でも、社会に出て何らかの問題に直面した時は、元に(旧態然とした家父長制、父権社会的な態度に)戻ってしまう可能性がある」と問題を提起した。

この他、ヨーロッパでインディーズ映画を作る難しさや合作映画におけるプロデューサーの重要性など、日本では知りえない欧州の映画製作を巡る事情についても説明。数々の質問に、予定時間をオーバーしながらも丁寧に応じてくれた。

『シベル』は11月23日(金・祝)21:15より、TOHOシネマズ日比谷12にて2度目の上映がある。上映後の舞台挨拶では、この3名に加え出演のエルカン・コルチャックさんも登壇予定だ。

取材・文:井上健一 撮影:明田川志保

【レポート】『轢き殺された羊』Q&A

11月20日(火)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『轢き殺された羊』が上映された。チベットの荒地で、トラック運転手のジンパは同じ名を持つ男を車に乗せる。彼はこれから父の仇を討ちにいくのだという。カラーとモノクロ映像を挟み、二人の出会いを現実と幻想を入り交えながら描いた。上映後のQ&Aにはペマツェテン監督と、録音技師のドゥカル・ツェランさんが登壇した。

ペマツェテン監督は、東京フィルメックスのコンペティションへの参加は3回目となる。過去に『オールド・ドック』(11)では最優秀作品賞を、『タルロ』(15)では最優秀作品賞及び学生審査員賞を受賞している。ペマツェテン監督は、「フィルメックスにまた新作を持ってこられて嬉しいです」とコメント。ドゥカルさんは、「フィルメックスへの参加は初めて。皆さんと一緒に映画を観られて嬉しいです」と挨拶した。

本作は二つの短編小説が原作となっている。一つはツェリンノルブさんの『人殺し』、もう一つはペマツェテン監督の『轢き殺された羊』だ。数年前に『人殺し』を読んだ監督はぜひ映画化したいと考えたが、5000~6000字程度と短い小説だったため、それが難しかった。そこで、自身の短編小説と組み合わせることを思いつく。『人殺し』は父の仇を討とうとする男、『轢き殺された羊』は轢き殺した羊の魂を来世に送ろうとする男の物語であり、その二つを軸に話を構成した。

脚本が完成したのは4年前。その頃、ウォン・カーウァイ監督の製作会社ジェット・トーン・フィルムズがチベットを題材にした作品を撮りたいと考えていたため、ペマツェテン監督に声が掛かった。一度ロケハンに行ったが、その時は作品として成立しなかった。脚本を練り直し、申請が通った結果、ウォン監督がエグゼクティブ・プロデューサーとして制作に参加することになったという。

映画の冒頭には、チベットの箴言が登場する。「夢を話しても忘れられる。夢を実行したら覚えられる。関係ができると、私の夢はあなたの夢になる」。これは、チベット族の間では共有されている概念だが、チベット族以外の人にはこの映画で語ろうとすることは分かりづらいかもしれない。そう考えたペマツェテン監督は、物語をリードし、映画の雰囲気をつくる要素として、この箴言を冒頭に置いたのだという。

「この作品を観た人は、トラック運転手のジンパの夢の中に、復讐をしようとしているジンパが出てくると考える人もいるかもしれません。夢か現実か、映画の中でははっきりと語っていません」とペマツェテン監督は言い、解釈は観客に委ねたいと語った。狙いは映画自体がまるで夢であるかのようなイメージで撮ること。「二人のジンパは表裏一体で、一人の人間の両面を表しているともいえる。物語を強化すると共に、荒唐無稽な雰囲気も出したかったため、主人公の名前を同じジンパにしました」とペマツェテン監督は明かした。ジンパには、チベット語で「他者のために施しをする」という意味がある。「互いに名前を尋ねるシーンでは、二人が対になるように撮影しました。鏡に映った一人の 人物の両面であるように表現したいと思ったからです」

エンドロールで流れる主題歌も印象的だ。これはチベットの「西蔵病人」というバンドの楽曲で、「悔いの中で人生を送る」という歌詞のテーマが映画に登場する人物の心情とも合うことから選んだ。歌手は、主役のトラック運転手を演じた俳優ジンパさんの実弟だという。

ペマツェテン監督がプロデューサーを務めた、ソンタルジャ監督の『草の河』(15)でも、音響・音楽を担当しているドゥカルさん。現在、監督として準備中の一作があり、年末から撮影に入る。音楽の要素を盛り込んだロードムービーで、遊牧民を描く。ジャ・シャンクー監督がエグゼクティブ・プロデューサーを、ペマツェテン監督がプロデューサーを務める予定だ。ドゥカルさんは、「新作を持って、またフィルメックスに来たい」と決意を語った。作品の上映を楽しみに待ちたい。

文責:宇野由希子 撮影:明田川志保

【レポート】『幸福城市』Q&A

11月20日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『幸福城市』が上映された。

本作は、2056年という近未来の台北を舞台にした刑事の物語から、現在、過去と主人公の人生を遡る3部構成の作品。監督、脚本、編集を担当したホー・ウィデン監督の長編3作目で、トロント映画祭のプラットホーム部門で最優秀作品賞を受賞した。上映後のQ&Aにホー監督が登壇し「本日はせっかくのいいお天気の中、こんな暗い映画を見にきていただきありがとうございます」と会場の笑いを誘った。

映像美やカメラワークが印象的な本作はフィルムで撮影された作品。市山尚三東京フィルメックスディレクターからフィルムでの撮影を選んだ経緯を訊かれたホー監督は、フィルム撮影が得意で、今までも3本の作品を35mmフィルムで撮影してきたという。「パリのラボで大量の富士フィルムが見つかり、誰も使わなかったら劣化してしまうので使いたいと思って。台湾にはまだ現像所もあるし。35mmフィルムを使ってみたいという若手作家がいたら、高いからやめた方がいいと止めるのではなく、どこかに未使用のフィルムがあるかもよ、と言いたい」と微笑んだ。

会場からの質疑応答では冒頭から多くの手が上がった。最初の質問は、全編を通して効果的に使われていた主題歌について。台湾では80年代を代表する有名な曲で、歌手のリウ・ウェンジェンさんの曲だそう。「主題歌には、母親を象徴するような、母親の時代の曲を探していた。編集中に見つけたこの曲は、”私に愛を与えすぎないで”(原題:愛不要給多太)という曲名もストーリーにぴったりだった」と明かしてくれた。

第1部の初老のチャン役はホウ・シャオシェン作品の常連でもあるガオ・ジェさん。彼と同世代の役に、台湾のロックバンド「メイデイ(五月天)」のストーンさんをキャスティングした経緯について訊かれると「台湾で希少な”いぶし銀”的な俳優、ガオ・ジェさんはすぐ決まった。ストーンさんにこの役をオファーしたのは、一見、悪者に見えない、でも心の底に何かありそうな人物像が、たまたま見つけた彼の雰囲気にぴったりだったから。お金持ちで表面的にはいい人そうだけど、悪者っぽい感じが良かった」とホー監督。物語については、偶然が多すぎるなど批判もあったが、台湾で実際に起きたニュースを元にしていると説明した。

未来、現在、過去と時系列を遡る構成は、シャワーを浴びている時に思いついたというホー監督。「この手法は、イ・チャンドン監督の『ペパーミント・キャンディ』(99)のようだと言われることもあるが、もっと昔のジェーン・カンピオン監督の『ルイーズとケリー(原題:Two Friends)』(86)で使われたのが最初だと思う。その後、ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(02)にも影響を受け、いつかこの手法で撮りたいと思っていた」と述懐。

撮影監督にフランス人のジャン=ルイ・ヴィアラールさんを起用した理由、フィルム撮影の魅力については「映画におけるヨーロッパの審美眼が素敵だと思っている。パリで大量のフィルムを発見してくれたのも彼だ。私はデジタルでしゃれた映像をとる人ではなく、フィルムでしっかり撮影できる撮影監督を起用する。フィルムの柔らかい雰囲気が好きだ。デジタルの時代は、明るく、シャープに、クリーンに、という整った映像ばかりにこだわっている。そもそも、映画製作とは未完成なものだと思っている。ピントが合っていないとおかしいという人もいるが、私はそれこそが映画だと思う」と監督自身の映画への思いを語った。シーン毎にメイク直しされた顔も不自然に映るので、俳優たちにはできるだけノーメイクで演じてもらったというエピソードも。

最後に、ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』が想起されたという観客からタイトルについて訊かれると「今の中国には、消費者心理を惹きつけるために”幸福”という広告コピーが街中に溢れている」と原題のヒントを明かした。英題の「Cities of Last Things」については「作家のポール・オースターが好きで、彼の作品「最後の物たちの国で (原題:In The Country of Last Things)」の語感が良かった。「最後の物」には宗教的な意味合いがあり、天国と地獄、審判、死、という4つの要素を指している」と説明。ここで惜しくも時間となり、活発な質疑応答が終了した。

本作品は、11月21日(水)21:15よりにTOHOシネマズ日比谷12にて再上映される。

文責:入江美穂 撮影:吉田(白畑)留美

11/20 『幸福城市』 Q&A


11/20 『幸福城市』 Q&A
有楽町朝日ホール

ホー・ウィディン(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
新居 由香(通訳)

台湾、中国、アメリカ、フランス / 2018 / 107分
監督:ホー・ウィディン (HO Wi Ding)

Cities of Last Things
Taiwan / 2018 / 107min.
Director: HO Wi Ding

11/19 『マンタレイ』 Q&A


11/19 『マンタレイ』 Q&A
有楽町朝日ホール

プッティポン・アルンペン(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
大倉 美子(通訳)

タイ、フランス、中国 / 2018 / 105分
監督:プッティポン・アルンペン (Phuttiphong AROONPHENG)

Manta Ray
Thailand / 2018 / 105 min.
Director: Phuttiphong AROONPHENG

11/18『共想』 Q&A


11/18『共想』 Q&A
有楽町スバル座

篠崎 誠(監督)
矢崎 初音(俳優)
柗下 仁美(俳優)

市山 尚三 (東京フィルメックス ディレクター)

監督:篠崎誠(SHINOZAKI Makoto)
製作:コムテッグ

Wish we were here
Japan / 2018 / 76 min.
Director: SHINOZAKI Makoto

11/18 『期待』 Q&A


11/18 『期待』 Q&A
有楽町朝日ホール

アミール・ナデリ(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
ショーレ・ゴルパリアン(通訳)

イラン / 1974年 / 43分
監督:アミール・ナデリ(Amir NADERI)

Waiting
Iran / 1974 / 43 min.
Director: Amir NADERI

【登壇ゲスト追加決定】特別招待作品『プラネティスト』

11/25(日)13:40より有楽町朝日ホールにて上映の特別招待作品『プラネティスト』の上映前舞台挨拶のゲストが決定いたしました。

登壇するのは、本作で小笠原の案内人として登場するレジェンドサーファー・宮川典継さん、俳優の窪塚洋介さん、元BLANKEY JET CITYのドラマーである中村達也さん、ギタリスト・ヤマジカズヒデさん、俳優の渋川清彦さん、そして豊田利晃監督です。

上映後のQ&Aには豊田利晃監督が登壇します。

こちら残席もまだございますので、ぜひ皆様のご来場をお待ちしております。(※チケットはセブンチケットにてお買い求めください。朝日ホールでのチケット販売はございませんのでご注意ください)

11/18『共想』 舞台挨拶


11/18『共想』 舞台挨拶
有楽町スバル座

篠崎 誠(監督)
矢崎 初音(俳優)
柗下 仁美(俳優)
櫻井 保幸(俳優)
大杉 樹里杏(俳優・録音助手)
播磨 誌織(俳優)
村上 春奈(俳優)

市山 尚三 (東京フィルメックス ディレクター)

監督:篠崎誠(SHINOZAKI Makoto)
製作:コムテッグ

Wish we were here
Japan / 2018 / 76min.
Director: SHINOZAKI Makoto