今年も映画の最先端を切り拓いてゆく、気鋭の監督たちのとびきりの新作をご紹介します。いずれも強烈な作家性が発揮された、これらのバラエティ豊かな作品からは、映画の多彩さがうかがえるでしょう。
日本 / 2021 / 121分
監督:濱口竜介 ( HAMAGUCHI Ryusuke )
配給:Incline LLP
配給協力:コピアポア・フィルム
「偶然」という共通の主題を持つ、それぞれ異なる3つの短編から成るアンソロジー作品。登場人物たちの交わす会話はどんどん掘り下げられていき、いつしか全く別の地点に帰着する。ベルリン映画祭コンペティション部門で上映され、銀熊賞を受賞した。
フランス、レバノン、カナダ、カタール / 2021 / 100分
監督:ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ( Joana HADJITHOMAS & Khalil JOREIGE )
母宛てに届いた日記や写真が大量に入った箱。それらを通じて、レバノン内戦の時代に青春期を過ごした母の記憶を10代の娘が追体験する。『完全な一日』や『私は見たい』の監督による9年ぶりとなる長編作品。ベルリン映画祭コンペティション部門で上映された。
フランス、ドイツ、イスラエル / 2021 / 109分
監督:ナダヴ・ラピド( Nadav LAPID )
イスラエル人映画監督のY。自分の過去作の上映会に招かれた彼は、国から承認を受けた話題についてしか話せないことをそこで告げられるが……。前作『シノニムズ』がベルリン映画祭で金熊賞を獲得したナダヴ・ラピドの新作。カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した。
アメリカ、イラン、チリ、タイ、イギリス、シンガポール / 2021 / 115分
監督:ジャファール・パナヒ(Jafar PANAHI)、アンソニー・チェン(Anthony CHEN)、マリク・ヴィタール(Malik VITTHAL)、ローラ・ポイトラス(Laura POITRAS)、ドミンガ・ソトマヨール(Dominga SOTOMAYOR)、デヴィッド・ロウリー(David LOWERY)、アピチャッポン・ウィーラセタクン(Apichatpong WEERASETHAKUL)
COVID-19によるパンデミックを主題にした短編アンソロジー作品。7人の錚々たる映画作家が7つの異なる物語を語り、この未曾有の世界的危機における多くの様相に声が与えられている。カンヌ映画祭で特別招待作品として上映された。
アフガニスタン / 2016 / 86分
監督:シャフルバヌ・サダト( Shahrbanoo Sadat )
アフガニスタン中央部の山間部の村で、神話や魔法と共存しながら暮らす人々の伝統的な日常生活を、子供たちの姿を中心に描く。2016年のカンヌ映画祭監督週間でプレミア上映された、アフガニスタンの映画作家シャフルバヌ・サダトの半自伝的な長編デビュー作。
インド / 1979 / 90分
監督:G.アラヴィンダン( G.ARAVINDAN )
村に現れ、瞬く間に子供たちの人気者となった不思議な老人。村を去る日、彼は子供たちを魔法で次々と動物に変えていくが……。G.アラヴィンダン監督が1979年に残したマラヤーラム語映画の傑作。今回の修復版は、今夏にボローニャ復元映画祭にてプレミア上映された。
台湾 / 2021 / 129分
監督:チョン・モンホン( CHUNG Mong-Hong )
COVID-19によるパンデミックが始まった直後の台北を舞台に、自宅隔離をきっかけにして大きな荒波に晒される母娘関係を描く。国際的な成功をおさめた『ひとつの太陽』に続くチョン・モンホンの長編第6作。 ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映された。
香港、フランス、オランダ / 2021 / 96分
監督:チャオ・リャン( ZHAO Liang )
福島やチェルノブイリの現在の姿を捉え、原子力エネルギーという人類の自己破壊に繋がる存在について考察する誌的なドキュメンタリー、あるいはエッセイ映画。映画作家趙亮の『ベヒモス』(15)以来となる長編作品で、特別招待作品としてカンヌ映画祭で上映された。
日本 / 2021 / 89分
監督:塩田明彦( SHIOTA Akihiko )
配給:シマフィルム
持病を抱え、人生への希望が持てずにいる高校生の由希は、ある日、美しい歌声を持つ破滅型の同級生の麻希と運命的に出会う。主演に新谷ゆづみと日髙麻鈴を迎えた、名匠塩田明彦による新たな音楽映画。『害虫』(02)『カナリア』(04)に続き、向井秀徳が劇中歌を提供している。
香港 / 2021 / 152分
監督:キウィ・チョウ( Kiwi CHOW )
2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配に対する戦場へと変えてしまった。本作は、その法案が提出されて以降の香港市民による抵抗運動を、その歴史的背景を踏まえつつ、最前線で戦う若者たちの姿を中心に描いたドキュメンタリー作品だ。監督は『十年』の中の1篇『焼身自殺者』のキウィ・チョウで、他の制作スタッフの名は安全上の理由のため、明かされていない。2019年以降の抵抗運動は、「分権化されたリーダーシップ」、柔軟な戦術を意味する「水になる」、領土全体を使った運動を展開する「どこでも開花する」などの特徴や指針を持っていたが、本作は役割やリーダーシップが分散化された運動家たちのいくつかのグループや個人を追い、この運動の多様な動きの全体像を捉えようとしている。