ラインナップ発表会見レポート / 第23回東京フィルメックス

10月4日(火)、第23回東京フィルメックスのラインアップ発表会見をオンラインにて実施された。

オープ二ングを飾るのは、イランの巨匠、ジャファル・パナヒ監督作『ノー・ベアーズ(英題)』。イラン当局に拘束される中、ヴェネチア国際映画祭で上映され審査員特別賞を受賞した話題作が日本初上映される。クロージング作品は、リティ・パン監督作『すべては大丈夫』。ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した本作が、映画祭のフィナーレを飾る。リティ・パン監督は、今年の審査委員長を務めることも発表された。

 

コンペティション部門には、パレスチナ、カンボジア、インドネシア、タイ、中国、韓国、日本から、9作品が並んだ。共催企画である「タレンツ・トーキョー」修了生のソラヨス・プラパパン監督作『アーノルドは模範生』や修了生のプロデュース作品となるマクバル・ムバラク監督作『自叙伝』なども入っており、東京フィルメックスから羽ばたいた才能が、また還ってくる場所にもなっていることがうかがえる。この2本に加え、アリ・チェリ監督作『ダム』、キム・セイン監督『同じ下着を着るふたりの女(原題)』の合計4本は長編デビュー作にあたる。

 

 

特別招待作品には、ワン・シャオシュアイ監督作『ホテル』、カミラ・アンディ二監督作『ナナ』なども入っており、昨年から新たに始まったメイド・イン・ジャパン部門では、髙橋泉監督作『彼女はなぜ、猿を逃したか?』、太田達成監督作『石がある』の2作品が上映予定である。

 

 

会見には、コンペティション部門に選出された、ホアン・ジー監督(Huang Ji,『石門 / Stonewalling』)、大塚竜治監督(『石門 / Stonewalling』)、工藤将亮監督(『遠いところ /A Far Shore』)の3名がゲストとして参加した。フィルメックスの上映に先駆けて海外映画祭での反応を聞かれ、ホアン・ジー監督は「コロナ禍で海外へ行けない観客が、映画を通して今の中国を観たい、という思いが伝わってきたし、Q&Aでもそういう質問が多かった」、大塚監督は「集まった観客からはスクリーンの前で映画を楽しみその時間を持って帰りたいんだなという気持ちが伝わってきた」、工藤監督は「日本との反応の違いに驚いた。とにかく熱狂的で映画に対する温度感がビックリするくらい高い」と話し、コロナ禍を経た観客の映画への向き合い方の変化や、土地や地域による特別な熱気との出会いを振り返った。

 

コンペティション部門への選出、そして映画祭で日本初上映となることについては、ホアン・ジー監督は「日本人と中国人の夫婦が作った映画が、日本という場所に暮らす人たちにどう観られるのか。私たちの作品の特徴はリアリティ。だからお客さんのリアルな声を聴きたい!」、大塚監督は「フィルメックスという厳選された作品が上映される場に身が引き締まる気持ち。(海外でも)映画の見方が変わってきているのを肌で感じたので、日本の皆さんがどう思うのかが楽しみ」、工藤監督は「フィルメックスは、ジャ・ジャンク―監督やツァイ・ミンリャン監督を好きでずっと追いかけてきていた。嬉しいけれど緊張もすごくて、レベルの高い作品と一緒に上映できることを誇りに思う」と、緊張もありながら上映を楽しみにしている気持ちをそれぞれが述べていた。

その他の企画として、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターと東京国際映画祭との共催で、今年デビュー30周年を迎えるツァイ・ミンリャン監督の特集上映も行われる。東京フィルメックスとの関係も深いツァイ・ミンリャン監督の名作を鑑賞できる、またとない機会となる。

第23回のメインビジュアルは、昨年に続きIKKI KOBAYASHIによるグラフィックに決定した。

ベルリナーレ・タレンツ(ベルリン国際映画祭)と提携している人材育成プログラム「タレンツ・トーキョ―」は第13回目を迎え、今年は3年ぶりに対面開催となる。

昨年に続き、今年も、第35回東京国際映画際(期間:10月24日(月)~11月2日(水))と同時期に開催。同映画祭は今年から日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区にて会場が大幅拡大しており、東京フィルメックスとともに広がる”一大映画祭シーズン”の益々の盛り上がりにも期待が高まる。同時期開催ということで、プログラムの差別化について問われた神谷は、「特に意識はしていない。傾向なども考えず、ただ良い作品を選んでいる中で、自然と違うラインアップになってきていると思う」と、今年のラインアップについても自信をのぞかせた。

 

各部門の上映作品は下記リンク先よりご覧ください。

[コンペティション部門(9作品)]

[特別招待作品部門(4作品)]

[メイド・イン・ジャパン部門(2作品)]

[ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集(3作品)]

※10月4日現在

第21回東京フィルメックス上映作品を発表します

東京フィルメックス・コンペティション

世界的に大きな注目を集めるアジアからは、才能ある新鋭たちが次々と登場しています。そんなアジアの新進作家が2019年から2020年にかけて製作した作品の中から、12作品を上映します。また5名からなる国際審査員が、最優秀作品賞と審査員特別賞を選び、11/7(土)に行われる授賞式で発表します。(日本語タイトル横の★=長編監督デビュー作)
上映作品の詳細、上映スケジュール、チケット販売方法については近日、公式サイトにて発表いたします。  

 


 

Should the Wind Drop
「風が吹けば」★ Should The Wind Drop
フランス・アルメニア・ベルギー / 2020 / 100分
監督:ノラ・マルティロシャン(Nora MARTIROSYAN)
アルメニアとの国境に隣接し、アゼルバイジャンからの独立を主張するナゴルノカラバフ地区。戦争で破壊され、停戦後に再建された空港を調査するために来訪したフランス人技師が見たものは……。「カンヌ2020」に選出されたノラ・マルティロシャンの監督デビュー作。

 

In Between Dying
「死ぬ間際」 In Between Dying
アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ / 2020 / 88分
監督:ヒラル・バイダロフ(Hilal Baydarov)
タル・ベーラの薫陶を受けたアゼルバイジャンの新鋭ヒラル・バイダロフの長編劇映画第2作。行く先々で死の影に追われる主人公の一日の旅を荒涼たる中央アジアの風景を背景に描き、見る者に様々な謎を投げかける。ヴェネチア映画祭コンペティションで上映。

 

Careless Crime
「迂闊(うかつ)な犯罪」 Careless Crime
イラン / 2020 / 139分
監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)
1979年イスラム革命前夜、西欧文化を否定する暴徒によって多くの映画館が焼き討ちにされた。それから40年後、4人の男たちが映画館の焼き討ちを計画する……。奇抜な発想を知的な構成で映画化したモクリの監督第3作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。

 

Yellow Cat
「イエローキャット」 Yellow Cat
カザフスタン・フランス / 2020 / 90分
監督:アディルハン・イェルジャノフ(Adilkhan YELZHANOV)
カザフスタンの草原地帯を舞台に、裏社会から足を洗って映画館を開こうとする前科者の主人公の苦闘をコメディ・タッチで描いた作品。その多くが国際映画祭に選ばれている俊英アディルハン・イェルジャノフの最新作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。

 

Milestone
「マイルストーン」 Milestone
インド / 2020 / 98分
監督:アイヴァン・アイル(Ivan AYR)
北インドのカシミール地方を舞台に、激しい腰痛に苦しみながら亡くなった妻の家族への賠償金のために働くベテランのトラック運転手の苦悩を描く。デビュー作「ソニ」が高く評価されたアイヴァン・アイルの監督第2作、ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。

 

Aswang
「アスワン」★ Aswang
フィリピン / 2019 / 85分
監督:アリックス・アイン・アルンパク(Alyx Ayn ARUMPAC)
麻薬患者や売人をその場で射殺する権利を警察に与えたフィリピンのドュテルテ政権。その政策の下で苦闘する人々を追ったドキュメンタリー。題名はフィリピンの民間伝承に登場する妖怪の名からとられた。アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で上映。

 

The Silent Forest
「無聲(むせい)」★ The Silent Forest
台湾 / 2020 / 104分
監督:コー・チェンニエン(KO Chen-Nien)
聾唖学校に転校してきた少年がスクールバスである“ゲーム”を目撃する。それは彼がその後目にする残酷な現実の序章に過ぎなかった……。台湾で実際に起こった事件を元にしたコー・チェンニエンの監督デビュー作。台北映画祭でオープニング作品として上映された。

 

The Best is Yet to Come
「不止不休」★ The Best Is Yet To Come
中国 / 2020年 / 115分
監督:ワン・ジン(WANG Jing)
多くの社会問題を告発した実在の新聞記者をモデルに、財力もコネもない若者が記者として成長してゆくまでを描いた作品。「罪の手ざわり」以降のジャ・ジャンクー作品を助監督として支えたワン・ジンの監督デビュー作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。

 

Any Crybabies Around
「泣く子はいねぇが」 Any Crybabies Around?
日本 / 2020年 / 108分
監督:佐藤快磨(SATO Takuma)
配給:バンダイナムコアーツ/スターサンズ
秋田県男鹿半島の伝統文化「ナマハゲ」の存続活動に従事しつつ、過去の失敗のために失った家族との絆を取り戻そうとする男の苦闘を描いた佐藤快磨の劇場用映画デビュー作。仲野太賀、吉岡里帆が出演。サンセバスチャン映画祭コンペティションでワールドプレミア。
(c)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

 

The Blue Danube
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」 The Blue Danube
日本 / 2020年 / 105分
監督:池田暁(IKEDA Akira)
配給:ビターズ・エンド
川向こうの町との戦争が当たり前のこととして生活に根付いている架空の町。そんな町でも人々は小さな幸せや苦労を重ねながら生きている……。「山守クリップ工場の辺り」で鮮烈なデビューを飾った池田暁の独特なユーモアが全編に展開される長編第4作。
(c)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト

 

A Balance
「由宇子の天秤」 A Balance
日本 / 2020年 / 115分
監督:春本雄二郎(HARUMOTO Yujiro)
製作:映画「由宇子の天秤」製作委員会
主人公は女子高生自殺事件を追うドキュメンタリー監督の由宇子。事件の真相に迫りつつある由布子は、学習塾を経営する父から衝撃的な事実を知らされる……。デビュー作「かぞくへ」に続く春本雄二郎の監督第2作。瀧内公美、光石研、河合優実、梅田誠弘が出演。
(c)2020 映画工房春組

 

okinawa santos
「オキナワ サントス」 OKINAWA SANTOS
日本 / 2020年 / 90分
監督:松林要樹(MATSUBAYASHI Yoju)
配給:東風
「祭の馬」の松林要樹の待望の新作ドキュメンタリー。第二次大戦中、ブラジルのサントスで起こった日系移民強制移住事件。その6割が沖縄からの移民であったという事実に注目した松林は、多くの人々の証言から沖縄とブラジルの間の埋もれた史実を明らかにする。
(c)玄要社