11月20日(月)、有楽町朝日ホールで特別招待作品の『天使は白をまとう』が上映された。本作は、海辺のリゾート地で起きた少女に対する性的暴行事件を発端に、女性たちを取り巻く様々な問題を描いたドラマ。上映後にはヴィヴィアン・チュウ監督が登壇し、Q&Aが行なわれた。
前日に北京でのプレミア上映を終え、午後一番の上映に間に合うよう、朝の飛行機で駆け付けたばかりというチュウ監督。疲れた様子も見せず、客席からの質問に次々と答えてくれた。
女性を取り巻く様々な問題を扱った本作の意図については、「まず語りたかったのは、女性の物語」と前置きした上で、次のように説明。
「誰でも成長する過程で、自分に問いかける時があります。自分がこういう身体に生まれてきた意味は何なのか。自分の価値とは何か。そして、この映画でも描いているように、女性ならではの苦しみや悲劇というものもあります。そういったことに対する認識を高める意味で、この映画を作りました」
さらに、「女に生まれたくなかった」という劇中のセリフに関連して、監督自身が女性として生まれたことをどう思っているか尋ねられると、「どうなったとしても、私はそれを運命として受け入れます。現世、私は女性として生まれました。だからこそ、時に色々な問題がありますが、それを乗り越えてより良い人生にしていきたいと思います」と力強く答えた。
また、劇中に繰り返し登場して強い印象を残すのが、巨大なマリリン・モンローの像。これは、脚本を書いている時に読んだ「中国南部でマリリン・モンローの像を作ったものの、大きすぎるので6カ月で壊してしまった」というニュースがヒントになったのだという。そして、そこに込めた意図を次のように語った。「マリリン・モンローの存在は、ポピュラーカルチャーの中で、女性がああいうものであるということを象徴しています。そこが今回のストーリーと関連すると思いました」
先のニュースでは、像が壊された時、女の子たちが壊さないでほしいと悲しんだことも書かれていたという。「その少女たちにとって、モンローはそういった象徴ではなく、純粋に美の象徴として好きだったということなんです」と、認識の違いも興味深かった様子。
さらに話題は、劇中で描かれているその他の社会問題についても及んだ。戸籍がないため、IDが作れずに少女が苦労する場面に関連して、現実に中国で問題となっているのかという質問には「中国では今、家出をする子どもが多い」と、現状を説明した上で次のように回答。
「基本的に、IDは家族として戸籍に登録されていないと発行されません。そのため、今、たくさんの子どもたちがIDを持っていないという問題があります。彼女の例はそれを象徴しています」
そういった社会問題を扱った硬派の作品ながら、中国のプレミア上映では観客の反応に手応えを感じたらしい。「非常によい反応がありました。特に若者たちに受け入れられた印象です。こういった実際の社会問題を取り上げた映画を、若者たちが求めているのではないかと感じました」
客席からは途切れることなく質問が寄せられたが、時間切れにより残念ながらQ&Aは終了。中国では11月24日(金)から劇場公開され、台湾の権威ある映画賞“金馬奨”にも作品賞を含む複数部門で候補になった本作。日本でも劇場公開されることを期待したい。
(取材・文:井上健一、撮影:吉田留美)