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審査員会見

img_102511月26日(日)、有楽町朝日ホールスクエアで第17回東京フィルメックスの審査員会見が行われ、「タレンツ・トーキョー2016」の受賞作を除く各賞が発表された。

はじめに、市山尚三東京フィルメックス・プログラムディレクターより、観客賞は『私たち』(仮題)(ユン・ガウン/韓国/2015)が受賞したと発表された。ユン監督は韓国の青龍映画賞授賞式参加のためいったん帰国しているが、夕方の東京フィルメックス授賞式には出席予定。

img_3400次に、市山PDより学生審査員のかつりかさん、十河和也さんが紹介され、かつさんより学生審査員賞が発表された。受賞作は『普通の家族』(エドゥアルド・ロイ・Jr/フィリピン/2016)。「生きていればつきまとう普通という概念。しかしこの映画を通して、それが主観的でしかないということに気付かされた。愛や、親が子を想う気持ちは万人共通。生まれ育った環境が何であれ、誰もが共通に持つ感情が描かれており、一番世界観にのめり込むことができた。なおかつ、問題提起が含まれるエンターテイメントとしての重要性を感じさせる作品だった。この素敵な映画を通して、自分の中にある普通というものを、改めて考えていただきたい」と授賞理由が述べられた。エドゥアルド・ロイ監督は、「この受賞をすべてのインディーズ映画作家に捧げたいと思う。どの映像作家も限界の中で情熱と意欲を持って映画制作を続けていると思う」と受賞の喜びを語った。

ここから、いよいよコンペティション部門の受賞結果の発表に移った。まず、松岡環審査員よりスペシャル・メンションが発表された。観客賞に続き、『私たち』(仮題)が受賞。松岡審査員は、「とても繊細かつシンプルな手法で、子供達のストーリーを語り気持ちを表現しており、特にクローズアップの子供達の表情は、多くを語り、我々の心を打つ」と讃えた。

_t2a3913続けて、松岡審査員より審査員特別賞が発表された。『バーニング・バード』(サンジーワ・プシュパクマーラ/フランス、スリランカ/2016)が受賞し、副賞として賞金50万円が授与された。松岡審査員はこの作品を「内戦で負った痛みに対する痛烈な叫び」と称し、「過去に起きた、世間でほとんど知られていない出来事が描かれ、今日でも意味のあること」と述べた。サンジーワ・プシュパクマーラ監督は、この賞を「1989年のスリランカの内戦で亡くなった人々、傷ついた多くの人々に捧げたい」と語り、過酷な状況での撮影を振り返りながら、出演者、スタッフ、家族への謝辞を述べた。

img_3692最後に、アンジェリ・バヤニ審査員より最優秀作品賞が発表された。受賞作は、中国の片田舎でゆっくりと、痛みを伴いながら村が消えていく現実をとらえた『よみがえりの樹』(チャン・ハンイ/中国/2016)。副賞として賞金100万円が授与された。バヤニ審査員は、「オリジナリティあふれる作品。安易なノスタルジーに浸ることなく、驚くべき手法で描かれている。どの場面も強く記憶に残る」と讃えた。チャン・ハンイ監督は、ナント映画祭に参加中。代わりに挨拶したプロデューサーのジャスティン・オーさんは、「初めての長編映画での受賞に、私たちはとても元気づけられる。若い世代のチームによる現場では、多くの困難があり、多くの人々の助けを借りて実現できた。映画制作はなまやさしい作業ではないが、指導してくれたメンターの先生に感謝したい」と受賞の喜びを語った。

総評として、審査委員長のトニー・レインズさんは、審査過程で評価が分かれたことを明かした。多くの支持を受けながら授賞に至らなかった作品もあり、なかなか満場一致とはならなかったそうだ。「多くの議論を経て、最終的にある程度全員が納得できる結論を下した。しかるべき作品が受賞した」とレインズさん。
レインズさんは『仁光の受難』を推したそうだ。タイトルに「受難」の文字があるものの、他の作品と比べると受難度は低く、真面目に仏教をとらえながら、ユーモラスで、エンターテイメント性が光り、構成・形式とも革新的であると評価した。また、タイトルに受難が入っていなくとも、多くの作品が社会問題や社会的なリアリズムに根差した題材を扱い、近年の東京フィルメックスの全体の方向性として驚きはなかったと語った。

質疑応答では、多くの支持を受けながら授賞に至らなかった作品について質問があがった。通常、審査過程を詳細に明かすことはないと前置きしながらも、レインズさんは、多くの支持を受けながら授賞に至らなかった作品の一つが『マンダレーへの道』であることを明かした。その理由としては、『マンダレーへの道』がすでに製作国の台湾でも海外の映画祭でも一定の評価を得られていることを挙げた。例えば『バーニング・バード』は、作品の質はもちろんであるが、これまでほとんど映画祭で上映されておらず、まだ作品の評価が得られていない点、題材のゆえに本国のスリランカで評価される可能性が少ない点を考慮したという。

レインズ審査委員長以外の各審査員に対しても、今回の審査についてコメントが求められた。パク・ジョンボム監督は、「受賞できたかできなかったかは、ほんのわずかな個人の考え方の違い、方向性、好みの違い。1本1本が素晴らしかった」と冷静に語った。松岡さんは、「どの作品も魅力を湛えており、観客をひきつける力があることを改めて感じた。審査員として、こういう作品と向き合えたことはとても幸せ」と述べた。バヤニさんは、「2年前の東京フィルメックスで友人の作品『クロコダイル』(フランシス・セイビヤー・パション監督、第15回東京フィルメックス最優秀作品賞)に出演して成功をおさめたので、今回審査員として恩返ししようと思った。判断に迷うことが多かったので、正しい判断ができるように、(最近亡くなった)フランシスに心の中で助けを求めた」と振り返った。カトリーヌ・ドゥサール審査員は、「非常に高いレベル、幅広い内容に驚き、映画作家たちが、新しい映画言語、語り口で映画を作ろうという姿勢に驚きを隠せない」と感慨深げに語った。

最後に受賞者と審査員の記念写真を撮影し、第17回東京フィルメックスの審査会見が終了した。

(取材・文:海野由子、撮影:明田川志保、伊藤初音、村田麻由美、吉田留美)

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