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『オリーブの山』ヤエレ・カヤム監督Q&A

254a922711月22日、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門『オリーブの山』が上映され、Q&Aにヤエレ・カヤム監督が登壇した。ユダヤ人墓地の中にある家で暮らし、厳格なユダヤ教徒として慎ましい生活を送ってきた主婦ツヴィアが、これまで想像もしなかった世界を発見する過程をストイックに描いた長編デビュー作だ。

「こんなに若い監督が、子どもを持つ倦怠期の夫婦をここまで描けたことが不思議でした」という林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから制作の背景を尋ねられると、ヤエレ監督は「私の場合、景観からインスピレーションを受けることが多いのです」と答えた。物語の舞台となるオリーブの山は、世界最古のユダヤ教墓地である。ユダヤ教だけでなく、キリスト教、イスラム教にとっても神聖な場所だ。「オリーブの山の風景に惹かれて、繰り返し訪ねました。最初は普通の服装でしたが、次第に現地の風景に溶け込むような、控えめな服装で行くようになりました」とヤエレ監督は話す。

img_2731劇中に登場した女流詩人ゼルダの墓からは、神殿の丘を見渡すことができる。「救世主が現れて世界を救う」という言い伝えのある丘だ。「主人公も家事をしながら、台所の窓から神殿の丘を眺めました。彼女はいつか救世主が現れると信じていますが、それがいつか、本当に叶うのかは分かりません。そんな光景がイメージとして浮かび、物語の出発点となりました」とヤエレ監督は説明した。当時、映画学校を卒業し、短編を完成させた頃だったヤエレ監督。いつか長編を作りたいと思いつつも、先が見えなかった自身の心情とも重なる、と付け加えた。
脚本には、ヤエレ監督の家族に対する思いが反映されているという。特に影響が強いのは、祖母リフカさんの存在だ。「私は子どもの頃、祖母に懐いていて、学校から帰ると真っ先に祖母の側に行き、台所で彼女の手料理を食べながら色々な話を聞きました。彼女の穏やかで好奇心旺盛な性格、そして物事に対する葛藤などが脚本に反映されています」と語った。

続いて、会場との質疑応答に移った。
最初の話題はキャスティングについて。主役のシャニ・クラインさんは、イスラエル最大の演劇学校ラヴィン・シュタイン出身の女優。キャスティング・エージェントから紹介され、オーディションを経て決定したという。
最も難航したのは夫のルーベン役で、撮影の1ヶ月半前になっても見つからなかった。オーディションで出会った俳優は、この役をドラマティックに演じたがる傾向があったが、監督のイメージとは合わなかった。また、その人の持つ雰囲気も、全力で仕事に取り組む役柄に相応しい人を探していたからだ。
そんな時にキャスティング・エージェントから紹介されたのは、15年前までイスラエルでは有名な俳優で、現在はコンテンポラリー・ダンスの分野で国際的に活躍するアヴィシャロム・ポラックさんだった。女優と読み合わせのテストをしてもらったところ、まさに理想的な2人だったため、「あなたしかいない」と説得したという。

img_9273「景観だけでなく、音も素晴らしかった」という観客に、ヤエレ監督は「脚本を完成させ、撮影監督とロケハンに行った時点で、使いたい音は具体的に頭の中にありました。それに加え、撮影中の自然の音や、撮影後にデンマークから派遣された録音技師、ヤコブ・キルケンさんが追加で採録した音源の中から精査しました」と応えた。

劇中には、テルアビブからオリーブの山を訪ねる人々も登場する。宗派の違いについて質問されると、「どちらも正統派ユダヤ教徒ですが、テルアビブから来た人々は超正統派、主人公の家庭は正統派です」と説明した。

ラストシーンについては、「彼女がどういう選択をしたのかは問題ではありません。彼女は当初、受け身で周囲から気に入られたがっていました。救いを求めていた彼女が、自ら行動を起こしたことが大事なのです」と語った。

質問は尽きなかったが、残念ながら時間となり、ここで終了。『オリーブの山』は11月24日(木)21:15の回で、TOHOシネマズ日劇3でも上映される。

(取材・文:宇野由紀子、撮影:明田川志保、穴田香織)

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