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『マンダレーへの道』ミディ・ジー監督Q&A

_t2a284911月21日(月)、有楽町朝日ホールにて、コンペティション部門『マンダレーへの道』が上映された。上映後にはミディ・ジー監督が登壇し、場内からは活発な質問が寄せられた。ミャンマーからタイへ密入国し、出稼ぎにやってくる若い男女を描いた本作について、司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターは、「シンプルで、おしつけがましくなく、何度観ても心に沁みる作品」と評した。

早速、本作の制作経緯について問われると、ジー監督は、本作の着想を監督自身の身近なところから得たことを明かしてくれた。「私の兄と姉は、生活のためにタイへ密入国し、出稼ぎをしていたことがあり、それを映画にすることにしました。物語は、20~30年前に遡ることもできますし、今日でも同じようなことが起こっています」と監督。

_t2a2904続いて、物語の民族的な背景について話が及んだ。登場人物はミャンマーからタイへ不法入国した中華コミュニティの人々という設定で、劇中で話されている言葉は、ミャンマー版中国語で、雲南省の方言とのこと。多民族国家ミャンマーには、300~500万人の中華系の人々が住んでおり、2008年の統計によると、ミャンマーからタイへ不法入国して出稼ぎをした人々は、中華系、他の少数民族を含めて実に300万人に上るという。

次に、キャスティングについて話を聞くことに。台湾の人気スターである主演俳優のクー・チェンドンさんについて、ジー監督は作品を通じて、演技に天才的な部分を持っていると感じていたという。クーさんと何度も会って、クーさんのピュアなところが気に入り起用を決めたという。主演女優のウー・クーシーさんは舞台女優で、すでに何度も一緒に仕事をしているため気心が知れていたという。ただ、撮影に入る前に、主演の2人には8~9ヵ月間のトレーニングを課したそうだ。ミャンマーで農民の生活を体験させたり、タイで工場の労働者としての働きぶりや言葉を身に付けさせたりと、ジー監督の徹底的なトレーニングによって、役作りが行われたそうだ。なお。この2人以外の出演者は、監督の友人、家族、親戚だという。

_t2a2866ジー監督にとって長編4本目となる本作。これまでの作品との共通点は、越境する人々であるが、以前の3作には脚本がなく、本作では実話ベースの脚本を準備した点が異なるそうだ。その実話とは、1992年に監督の故郷で起きた殺人事件だという。タイへ出稼ぎに行った若い男女が、故郷に戻り結婚式を挙げたものの、そのわずか3日後に事件が起きたとか。女性は偽装結婚をしてでもいずれは台湾に移住することを夢見ており、男性はミャンマーに戻って平凡に暮らすことを願っていたという。「2人は最初から価値観が異なっていました」とジー監督。脚本を執筆するにあたり、彼らの家族、彼らが勤めていた工場の労働者たちなど100人以上にインタビューをして、綿密に準備したことも明かしてくれた。

最後に、ハリウッド在住のポスターデザイナーであるアキコ・ステーレンバーガー(Akiko Stehrenberger)さんが手がけた、オレンジと黒のコントラストが印象的なポスターが紹介された。本作は、12月から香港を皮切りに、台湾、ミャンマー、シンガポール、マレーシア、フランス、イギリスで公開が決まっているという。ぜひとも日本での劇場公開が待ち望まれる。

なお、東京フィルメックスでは、11月26日(金)にTOHOシネマズ日劇3にて本作のレイトショー上映が行われる。

(取材・文:海野由子、撮影:伊藤初音)
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